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2011/06/10

リリィ、はちみつ色の秘密

監督:ジーナ・プリンス=バイスウッド
出演:ダコタ・ファニング/クイーン・ラティファ/ジェニファー・ハドソン/アリシア・キーズ/ソフィー・オコネドー/ポール・ベタニー/ヒラリー・バートン/トリスタン・ワイルズ/ネイト・パーカー/ションドレラ・エイヴリー/レニー・クラーク/シャロン・モリス/ニッキー・バグス/ジャスミン・バーク/ジョー・クレスト

30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4

【母に捨てられて、辿り着いた場所】
 自分を捨てた母デボラを誤って撃ち殺してしまった4歳のリリィ。時は流れ公民権法が制定された1964年の夏、14歳となった彼女は、桃農園を営む父T・レイと暮らしていた。が、父の暴力は止まず、リリィは白人に虐げられる家政婦ロザリンとともに家を出る。辿り着いたのは母の故郷ティブロン。そこで彼女たちを温かく迎え入れてくれたのは、「黒い聖母」ラベルのはちみつを作るオーガスト、ジューン、メイの3姉妹だった。
(2008年 アメリカ)

【この世は大きな養蜂場】
 妻デボラを死なせてしまった娘リリィに厳しくあたるT・レイ役のポール・ベタニー。その困惑の瞳で「あ、きっとリリィは母親に似ているんだ」と気づく。瞬間、この映画が好きになった。

 とにかく役者たちが“心の奥底に抱えているもの”をとてつもなく上手に表現する。
 ダコタ・ファニングを、もう「ダコちゃん」とは呼べないだろう。深い悔恨と、疑いと、救いへの欲求と、甘えと、独立心と、夢とを、ミックスさせて押し殺して爆発させる。
 オーガスト役クイーン・ラティファは、たいしたビッグ・ファット・ママっぷり。哀しみを積み重ねてきた人間だけに可能な、すべてを見透かす視線と立ち姿が実に堂々としている。かといって押し出しが強いわけではなく、優しく静かに周囲を包む。
 ジューンを演じたアリシア・キーズの美貌には強い“意志”が漂い、けれどもふと「そうしていないと進めない弱さ」も顔をのぞかせる。ソフィー・オコネドーも、わかりやすく、でも出しゃばりすぎず、肩から首にかけてのラインで危うい存在であるメイを演じ切る。ジェニファー・ハドソンによるロザリンの、どこか醒めた目と、飄々とした様子の混在も素晴らしい。
 Hollywood Film Festivalで「Ensemble Acting of the Year」を受賞したとのこと。納得のアンサンブルだ。

 彼女たちの様子を、美しい風景やユニークな内装とともにカメラは優しい色合いで捉えていく。サイズと距離感、明るさと暗さのバランスは絶妙。
 音楽は、やはり優しく、ときに哀しく、この世界を包んでいく。

 そうして作られる場面はひとつひとつが印象的。瓶からあふれたはちみつを拭う手、キャンドルサラダ、ふれあい以外は何もないのに楽園のようなテラス……。なにげない一瞬一瞬が、人と人生を構成していくのだと思い知らされる。女王蜂へお辞儀するリリィの後姿と、それを見つめるオーガストのショットのなんと愛らしいことか。
「何も感じないほうが長生きできる」
「大切なのは事実じゃない。どう行動するかだ」
 強烈なセリフも多く、一瞬の積み重ねが、そういう価値観を築いていくのだということが伝わってくる。

 この温かな視線と透明な空気感は、牧歌的な舞台設定、未来の不確かな主人公像ともあいまって、受ける印象は『サイダーハウス・ルール』に近いものがある。
 やや語り過ぎている部分やカットのつなぎに乱暴なところもあるし、われわれ日本人には馴染みにくいブラック色の強い映画ではあるけれど、監督・脚本(原作はスー・モンク・キッドの小説)のジーナ・プリンス=バイスウッドの“作りのセンス”は、ラッセ・ハルストレムと同様、自分の心のコアの部分へダイレクトに届く類のもののようだ。

 思えば、人に“大きな一瞬”をもたらすのは「優しくて温かなもの」ばかりじゃない。とはいえ、その対極に「厳しくて冷たいもの」があるというわけでもない。両者は常に、同一の存在として僕らの周りにあるのだ。
 思い出はときに過酷であり、ときに柔らかい。軽やかに流れる小川は、人をこちらと向こうに分かち、命をも奪う。音楽は心を喜ばせると同時に愛するものを葬(おく)るためにも用いられる。
 哀しみを癒す「嘆きの壁」は、それだけ多くの哀しみが人を襲うことの表れ。父の中には熱さと哀しさが同居している。人には包容力と親切心と希望を生み出す強さも、暴力とウソと差別を生み出す弱さもある。

 そしてやはり、そんな世界と、世界の中で生きる自分を支えるものは、愛なのだろう。
「完全な愛はない」
 オーガストはそういうが、だとしても、ワケありだとわかっていながら黙って迎え入れる彼女や、まさしく「愛しい」視線で愛を見つめるリリィが、小さく、あるいは大きく、世界を変えていくのだ。
「この世は大きな養蜂場」
 愛を送れば、巣箱の中には甘い愛が満ちていくのである

●主なスタッフ
 撮影は『ディスタービア』『スクール・オブ・ロック』のロジェ・ストッファーズで、音楽は『クラッシュ』のマーク・アイシャム。衣装は『25時』のサンドラ・エルナンデス。ミュージック・スーパーバイザーは『ノーカントリー』などのリンダ・コーエン。

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