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2011/06/29

アザーマン もう一人の男

監督:リチャード・エアー
出演:リーアム・ニーソン/ローラ・リニー/アントニオ・バンデラス/ロモーラ・ガライ/クレイグ・パーキンソン/パム・フェリス/パターソン・ジョセフ/ローラ・ペプロー/エマ・フィールディング/アマンダ・ドリュー

30点満点中17点=監4/話3/出4/芸3/技3

【残された夫と、残されたもうひとりの男】
 靴デザイナーとして活躍するリサを妻に持つ、ソフトウェア開発会社の経営者ピーター。ファッション業界の人間も、娘アビーの恋人ジョージのことも気に入らなかったが、愛に包まれた生活を送っていた、はずだった。あるときピーターは、リサの携帯電話に残されていたメッセージや彼女に届いたメールから、リサには“Ralph”という男がいたことを知る。その所在を突き止めて、単身Ralph=レイフのもとへと向かうピーターだったが……。
(2008年 アメリカ/イギリス)

【思いもよらなかった収束へ】
 監督・脚色は『あるスキャンダルの覚え書き』のリチャード・エアー。あちらは主演女優ふたりの芝居を観る映画だったが、本作も同様だ。

 怒りと寂しさをグっと噛み殺し、苦悩を滲ませながら現実と向き合うピーター役のリーアム・ニーソン。華のような美しさから憔悴までの落差を見せてくれるリサ役ローラ・リニー。いつもの陽気なタフガイから一転、虚栄という名の素直さを披露するレイフのアントニオ・バンデラス。
 この3人のお芝居を観る、という要素がかなり強い。

 カメラは、彼らと絶妙の距離感を保ちながら、それぞれの言葉にならない心情を拾い上げていく。重厚なサントラや美術が彼らの生きる世界・生きる時間を彩る。回想・想像の突然の挿入、ジャンプカット、大胆な時間の飛ばしかたによって、静謐、愛の苦しみ、緊迫感、不可思議さを表現していく。

 全体として質の高い作りだが、ただ、この題材をサスペンス仕立てでまとめたことには賛否があるだろう。終盤まで語られないある重要な事実は途中で読めてしまうし、そもそもサスペンスとは縁遠い内容/テーマ。見た目通りのオチや急展開を期待すると「それだけかいっ」という否定的感想を呼ぶことになりそうだ。

 が、細かな部分の描きかたにがあって、そう捨てたもんじゃない。
 たとえば社員たちがピーターを見る目からは、たがいの信頼関係や心から心配している様子がうかがえる。画像のファイル名をキッチリと整理していることから、リサが単に身勝手な女性ではなく「生きることを一所懸命に楽しんでいる人」であることがわかる。
 ピーターがレイフを「気持ちの悪い手」と評するセリフからは、なるほど男というのは、こういう相手をそういう視線で見るのだなと妙に納得してしまう。折り畳まれた母の“遺言”を、ふぅと吹いて「見えてしまった」ことにしようとするアビーの様子にも、彼女の複雑な心境が潜む。

 『あるスキャンダルの覚え書き』の感想では「小説なら、出来事の羅列と会話で物語を構成し、行間から心情・心理を読み取らせたり想像することを強いるのもアリだろうが、それをそのまんまフィルムにしただけでは映画にならない」と書いたが、今回はその手法が洗練され、各人の行動・表情や吐いたセリフから、ほどよく心の中身が零れ落ちてくるような仕上がりとなっている。

 そしてストーリーは、思いもかけず「人が生きた証」というテーマへ収束していく。
 確かに、信じていたものを否定することも、信じたくないものを肯定することも、どちらも難しく苦しいものだ。が、ある人物のすべてを、背景ぐるみいっさいを迎え入れることで、ようやくその人の生は確立するのかも知れない。
 なんとも痛々しい終幕だが、同時に清々しくもあり、その迎え入れる姿勢こそが、人の生や愛に向き合うためには必要なものなのだろう。そんなことを考えさせる作品である。

●主なスタッフ
 撮影は『奇術師フーディーニ ~妖しき幻想~』『スルース』『マンマ・ミーア!』などのハリス・ザンバーラウコス。編集は『アメリカン・ビューティー』『グッド・シェパード』などのタリク・アンウォー。
 音楽は『プルーフ・オブ・マイ・ライフ』などのスティーヴン・ウォーベック、美術は『ネバーランド』のジェマ・ジャクソンや『ビヨンド the シー ~夢見るように歌えば~』のスティーブ・サマースギル。

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