ディアボロス/悪魔の扉
監督:テイラー・ハックフォード
出演:キアヌ・リーヴス/アル・パチーノ/シャーリーズ・セロン/ジェフリー・ジョーンズ/ジュディス・アイヴィ/コニー・ニールセン/クレイグ・T・ネルソン/タマラ・チュニー/ルーベン・サンティアゴ=ハドソン/デブラ・モンク/ヴィト・ルギニス/ローラ・ハリントン/パメラ・グレイ/クリス・バウアー/ヘザー・マタラッツォ/ニール・ジョーンズ/モニカ・キーナ/デルロイ・リンドー
30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4
【その扉を開けてはならない】
検事時代も弁護士に転身してからも負け知らず、フロリダで注目を集めるケヴィン・ロマックス。その腕を見込まれた彼は、ジョン・ミルトン率いる大手法律事務所で働くため、妻メアリー・アンとNYへやって来る。そこでも優れた弁護を見せ多忙を極めるケヴィンだったが、孤独から精神に変調をきたすメアリー・アン、疑惑だらけの殺人事件、同僚の死などさまざまな出来事が重なる。その裏には、ある存在による恐るべき思惑があった。
(1997年 アメリカ/ドイツ)
★ネタバレを含みます★
【お気に入りの三段締め】
3度目にして久々の鑑賞。ラストの“三段締め”ばかりが強く脳裏に残っていたのだが、あらためてじっくり観ると、それ以外の細かな部分にも高い意識を発見することができた。
まずは音。もともと派手なサラウンド感は印象的だったのだが、小さな音も鋭角的に拾い、その場にふさわしい残響を作り、扉を閉める強烈なバタンで空気を震わせて、と、かなりの凝りかた。
クラシックやボーイ・ソプラノなど多彩なサウンドトラックも、各シーンの恐ろしさやテンションの高さを上手くサポートする。
女性たちが身につける衣装も「いかにもセレブ」で目に焼きつくし、いきなりドンと挿入される無人のストリートなど、美術関係も素晴らしい。
演出は、たびたび“説明の省略”や“見ればわかる”という作りを見せて自分好み。被告=依頼人の手を見せることで生まれる緊迫感や、小切手の額を明示せず驚いたケヴィンの顔だけで展開させるリズムのよさが上質だ。
ケヴィンの背後に暖炉の炎や照明といった光源を置いて、神の視線=試しというものを感じさせるなど読み取りも要求する。またラスト、ケヴィンとミルトンが対峙する場面では、フレーミングと編集の妙によって、ケヴィンの手の中にある銃を観る者の意識から消していく。
役者たちの好演も映画の“格”を高めている。真面目さと色気と得体の知れなさと野心とが絶妙にミックスされたキアヌ・リーヴスは適役。アル・パチーノは、アクの強さを全開にしながら、本人が語る通り背景や雑踏に溶け込んでいく様も見せて、さすが。
そしてシャーリーズ・セロン。正直、女優さんにとってはやりやすい役柄だとは思うが、それをキッチリと、体当たりを超えた魂の演技でまっとうする。これだけの美人が、その美貌と壊れた姿の落差とをガツンと示してくれることで、作品の味わいはグっと深くなる。
ストーリー(原作は小説)も、ともすると安っぽく、またはバカっぽくなってしまう危険性を孕んでいるところを、上手くまとめてある。
不思議な力の存在をチラリチラリと挿入しながら、極端なオカルトやホラーには走らず、あくまで「法廷もの」プラス「仕事と愛の間で揺れるサスペンス」プラス「潜む悪意」という雰囲気をキープしたままでラストまで走っていく。
地下鉄車内で「席が空きそうだ」と移動するミルトン、そういう小さなキャラクター描写もスパイスが効いていて楽しい。
で、あの“三段締め”だ。
思わず「あっ」と唸ってしまったケヴィンの行動、その後に待ち受けていた「えっ」という卓袱台返し的展開、そして「おっ、ここで使うか」と驚くと同時に本作のために作られたようにも感じる「Paint It Black」。この怒涛のエンディングには心底痺れた。
いや、神に愛されていない人類とか、法律というツールによって世界を牛耳ろうとする悪魔とか、不可避な悪意とか、現代の世相を映すさまざまな風刺は効いているものの、だからといってそこから先に思考を促す要素には欠けていて、内容的には「たいしたことはない」といえるのかも知れない。メアリー・アンの味わう孤独がもっとしっかり描けていれば、とも思う。
が、あらゆる要素がぬかりなく作られた娯楽作として、かなりお気に入りの1本である。
●主なスタッフ
音楽は『ザ・インタープリター』や新世紀『バットマン』シリーズのジェームズ・ニュートン・ハワード。サウンド・チームには『ボーン・アルティメイタム』などでオスカーを受賞したペール・ホルベルグと、『アイ・アム・レジェンド』、『ラブリーボーン』のトッド・A・メイトランド。
撮影監督は『DOOM』ではディレクターを務めたアンジェイ・バートコウィアク。編集は『ダブル・ジョパディー』や『ウォーター・ホース』のマーク・ワーナー。
美術スタッフは『ヴェニスの商人』のブルーノ・ルベオ、『スター・トレック』のデニス・ブラッドフォードで、衣装は『シービスケット』のジュディアナ・モコフスキー。
シナリオは『ザ・シューター/極大射程』のジョナサン・レムキンと、おなじみ『ボーン』シリーズのトニー・ギルロイ。
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