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2011/07/17

レールズ&タイズ

監督:アリソン・イーストウッド
出演:ケヴィン・ベーコン/マーシャ・ゲイ・ハーデン/マイルズ・ヘイザー/マリン・ヒンクル/ユージン・バード/ボニー・ルート/スティーヴ・イースティン/ローラ・セロン/マーゴ・マーティンデイル/キャスリン・ジューステン/スティーヴン・M・ポーター/ジム・コーディ・ウィリアムス

30点満点中18点=監3/話4/出4/芸3/技4

【運転士、少年、2つの死】
 末期ガンに侵された妻メーガンの姿を直視できず、仕事に出かける鉄道員トム・スターク。だが彼の運転する特急が、1台のクルマを轢き飛ばす。薬漬けのシングル・マザーが息子デビーと心中を図ったものだったが、彼は審問会にかけられることとなる。いっぽう接触寸前で逃げ出したデビーは、里親のもとから抜け出し、トムの家を突き止めて彼を激しく責める。メーガンは鉄道好きで礼儀正しいデビーをそのまま家に置こうとするのだが……。
(2007年 アメリカ)

【父親に似た部分、父親と違う部分を味わう】
 クリント・イーストウッドの娘アリソン・イーストウッドによる監督デビュー作。
 陰影豊かに場を捉え、その暗い部分に人を置くことも多い画面構成や、慌てることなく、かといって停滞もせず、じっくりと芝居を見せるリズム感は父親の作風にかなり似ている
 撮影監督は『ミスティック・リバー』『ミリオンダラー・ベイビー』のトム・スターンで、編集とプロダクションデザインは『チェンジリング』『グラン・トリノ』のゲイリー・ローチとジェームズ・J・ムラカミ、つまりスタッフはイーストウッド組。似ていて当然か。

 驚いたのは、ケヴィン・ベーコンの口もとがクリント・イーストウッドにそっくりであるということ。ひょっとしたらアリソンは、若かりし頃の父親にこの役をやってもらいたかったのかも知れない。
 もちろんケヴィン・ベーコン自身、諦め、やるせなさなど、混然とした感情が中に渦巻くトム・スタークという人物をしっかりと演じ切る。
 妻メーガン役のマーシャ・ゲイ・ハーデンも、もともとはユーモアのセンスを持っていたはずの、けれどどこかで“耐える”ことを強いられてきた女性の、疲れ、強さ、儚さなどを上手に漂わせる。
 そして、デビーを演じたマイルズ・ヘイザー君。凛々しく、素直で、だがふたりの“母親”の死を目の当たりにして世界からの疎外感や罪の意識に苛まれるという難しい役をまっとうする。

 彼らの芝居が映画のメインだが、お話の進めかたや見せかたにも面白さがある。デビーが送り込まれるピンクの部屋は観る者の溜息を誘う。デビーが行方不明となった際、児童福祉局のレニーに「見つかりますか?」と訊かれた警官の顔で「無理」ということを示す。
 デビュー作ながら、なかなかに語り口は上質だ。

 さて、生と死を中心に据えつつ「思いがけず降りかかってきた災難と、それに立ち向かっていく人たち」を描き、彼らの抱える苦しみを丁寧に拾い上げていくという製作ベクトルも親父さんに似ているわけだが、その先には違いがある。

 父親の作品は、人生の明と暗を等しく扱いながら、どちらかといえばネガティヴな方向へと収束していく。ただ、どんなに悲惨で哀しいストーリーであっても、どこかに突き放した感はあっても、クリント・イーストウッドのキャリアと“枯れ”に由来する安心感、あるいは力ずくでポジティヴな方向へ持っていける可能性というものを受け取ることができる。

 いっぽう娘は、人生を白と黒だけに分けず「灰色でいっぱい」といってのける。そして、だからこそ確かなものをつかもうとして足掻く人間の姿を優しく撮っていく。
 弱い人間であるトムは、自分の行為を認めることで自分の人生すべてをも肯定しようとする。メーガンはデビーやトムの未来のため、死にゆく自分の安息のためにデビーを匿う。デビーはあの事故に関して「自分も含めて誰も悪くなかった」という救いを求める。

 まだ「明も暗もひっくるめて人生だよ」と達観するには至らない若さが、そこにはある。ひょっとすると達観のほうが足掻くことより楽かも知れないけれど、どんなにつらい道だとしても、その道を選んだ自分たちの判断を信じようとする懸命さがある。たとえば「子どものための本を買う」、「子どものジーンズを選ぶ」なんていう幸せは、このつらさの向こうで初めて出会えた喜びであるはずなのだ。

 絶対に交わらないのが“レール”。神を否定したいトムと、食事の前の祈りを当然のものとするデビー、その邂逅は平行線上にある。
 でもそこで終わらせず、“タイズ”、すなわち結びつきという希望が人と人との間にはあると本作は謳う。
 法律と社会通念のうえでは誤りとされることが、人の生きかたとしては正しかったりする。そんなシニカルさも感じさせながら、父とは異なる「ポジティヴな未来へ向けての足掻き」を見せてくれる秀作である。

 余談だが、マイルズ・ヘイザー君は本作でYoung Artist Awardsの男優賞にノミネート。この年のノミニーは『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』のザック・ミルズや『ウォーター・ホース』のアレックス・エテル。女優賞ノミニーは『つぐない』のシアーシャ・ローナン、『さよなら。いつかわかること』のグレイシー・ベドナルジク、『幸せのレシピ』のアビゲイル・ブレスリン、『ライラの冒険 黄金の羅針盤』のダコタ・ブルー・リチャーズと、錚々たる面々。
 また10歳以下の部門も、男の子が『フィクサー』のオースティン・ウィリアムズ、『インベージョン』のジャクソン・ボンド、『ミスト』のネイサン・ギャンブル、『私がクマにキレた理由(わけ)』のニコラス・リース・アート、女の子が『魔法にかけられて』のレイチェル・コーヴィ、『アイ・アム・レジェンド』のウィロウ・スミスと、なかなかの顔ぶれ。
 で、10歳以下の部門・男優賞を『悲しみが乾くまで』のマイカ・ベリー君が受賞し、その他の3つを根こそぎ持っていったのが『テラビシアにかける橋』のジョシュ・ハッチャーソン、アンナソフィア・ロブ、ベイリー・マディソン。

 さながら子役のグレート・ヴィンテージ。子役が映画の善し悪しを大きく左右することもあると、あらためて感じさせるラインナップである。

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コメント

谷川善久さん、お返事有り難うございました。

>ディラン・トマス、少し興味が湧いてきましたので勉強してみたいと思います

ディラン・トーマスの実話に基づいた映画では『エッジ・オブ・ラブ』、彼の作品が登場する映画にはディラン・トーマスの生まれ故郷ウェールズで撮影された『ツイン・タウン』や、南部アメリカの労働問題を描いた『ノーマ・レイ』などがあります。

それにしても沢山映画をご覧になっていますね。素晴らしい!


投稿: ETCマンツーマン英会話 | 2013/10/12 12:58

ETCマンツーマン英会話 様

いつもありがとうございます
“家族”“希望”“人”といったテーマを
しっとり描く作品に馴染む年になりました

が、本作はそうした内容を「読み取らせる」だけのパワーを持っていることが
嬉しかったと記憶しています

ディラン・トマス、少し興味が湧いてきましたので勉強してみたいと思います

今後とも当ブログをよろしくお願いいたします

投稿: 管理人 | 2013/10/09 17:56

『レールズ&タイズ』を調べていてこちらにたどりつきました。
ディラン・トマスのDo not go into that gentle into that nightが詠まれていると知りこの映画を見ました。
映画のストーリ事体が、まさにこのディラン・トマスの詩をなぞるよう。

>でもそこで終わらせず、“タイズ”、すなわち結びつきという希望が人と人との間にはあると本作は謳う。

なるほど。タイズ=希望ですね。希望はなによりも大切なことがらですね。よい作品との出会いに感謝です。

投稿: ETCマンツーマン英会話 | 2013/10/08 16:51

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