マイケル・ジャクソン THIS IS IT
監督:ケニー・オルテガ
出演:マイケル・ジャクソン/アレックス・アル/アレクサンドラ・アプヤロワ/ニック・バス/マイケル・ベアーデン/イリーナ・ブレシャー/ダニエル・セレブル/メキア・コックス/クリス・グラント/ミーシャ・ガブリエル・ハミルトン/ジュディス・ヒル/ドリアン・ホリー/シャノン・ホルツァプフェル/デヴィン・ジャミーソン/バシリ・ジョンソン/チャールズ・クラポウ/レイチェル・マーカリアン/ジョナサン・モフェット/トミー・オーガン/オリアンティ・パナガリス/ケニー・オルテガ/ブリタニー・ペリー=ラッセル/ダリル・フィネシー/モー・プレジャー/ドレス・レイド/ダニエル・ルエダ=ワッツ/ケン・ステイシー/タイン・ステックレイン/ティモール・ステファン/ステイシー・ウォーカー/ドレヤ・ウェバー/ジャスミン・アルヴェラン/アラナ・ゴーディロ
30点満点中17点=監3/話2/出4/芸4/技4
【未完のコンサート】
2009年6月25日、"King of Pop"、マイケル・ジャクソンが急逝、7月からスタートする予定だったコンサート『THIS IS IT』(ロンドン・O2アリーナ/全50公演)は中止となる。本作は5月~6月にかけておこなわれた同コンサートのリハーサル映像を中心に、ダンサーのオーディション、関係者へのインタビュー、コンサートで使用されるはずだったビデオクリップなどで構成されたドキュメンタリー・フィルム。
(2009年 アメリカ)
【神と人間の狭間で】
マイケル・ジャクソン(MJ)とビートルズのポール・マッカトニーによるコラボ『Say Say Say』のビデオクリップで彼らが演じているのは、西部のインチキ薬売り。同じ題材のコントを、MJも愛した東京ディズニーランドで披露していたのがザ・ニュースペーパー。そのザ・ニュースペーパーの元メンバー・すわ親治はザ・ドリフターズの元付き人。で、ビートルズ来日公演の際に前座を務めたのがドリフ。
まぁそれくらいのトリビアはいえるし、ベスト版CDとビデオクリップ集は持っているけれど、とりたててMJに思い入れがあるわけではない。だからもちろん、彼を神格化するつもりもない。
本作を観ると、むしろ、神として祭り上げられているMJ自身は“人間”の側に降りたがっていたんじゃないだろうか、という気がしてくる。
ダンサーやミュージシャンたちは「この舞台を夢見ていた」「彼と同じステージに立てるなんて感激」などと語るが、MJを必要以上に崇めるのではなく、もっと身近な“僕らのスター”的な視線で見ている印象(もちろんリスペクトは示すし、それぞれのプロフェッショナリズムも発揮して、共同作業によるリハーサルに取り組んでいるが)を抱く。そうした空気がMJを人間世界につなぎ止めているように思える。
MJ自身も周囲に「もっとよくなるよ」と語りかけ、いかにしてオーディエンスを楽しませるかに腐心する。グチをこぼす場面だけでなく全体としてイヤモニに苦労しているっぽい感じや「音楽を耳で聴くように育てられてきたんだ」という言葉も、いかにも人間臭い。
そんな様子を散りばめつつ、後期曲からジャクソン5時代のナンバーまで多彩にラインナップ、プレ・ステージを観る(実際のコンサートも『観る』という要素が強そうだ)ような構成。
もうコンセプトや演出、美術、振り付けなどがある程度固まった段階でのリハーサルなので、卓袱台返しはナシ、微調整に終始していて“作り上げられていく”というニュアンスは薄い。
ただケニー・オルテガ監督は映画も手がけている人物だけに、異なる日の映像を丁寧につなげ、音に関することや演出に関することなど出来事のバリエーションにも気を遣い、「MJがもっとも伝えたかったこと」も盛り込んで、流れのよさもメリハリもメッセージ性もあるフィルムに仕上げている。
ステージを構成する各パーツの質の高さにも驚かされる。
ダンサーたちを観ていると、振り付けを「覚える」「揃える」なんて常識以前の話であり、よりダイナミックに表現するための切れ、止まった姿の美しさの重要性、五輪級の身体能力の必要性などが痛感できる。
挿入されるビデオクリップは1本の作品としても超弩級の手間ひまがかけられており、映像のクォリティも素晴らしく高い。そしてオリアンティはかっけー。
仕事で何回かコンサートのリハーサル風景を観たことはあるけれど、ここまで“凝った”ステージ、面白い“練習光景”はなかった。
とはいえ、リハーサルはあくまでリハーサル。本番では何百倍ものパワーを感じられたはずで、返す返すも実現できなかったことは残念だ。
それと、歌詞に字幕をつけなかったのは正解、それだけ観客はMJの姿にフォーカスすることになる(実際のコンサートでも歌詞は見えないし)。
だがMJからのメッセージをしっかり吸収しようと思えば英語力が必要となるわけで、わが国の英語教育を見直さなきゃならんよな、なんて思ったりする次第。
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