未来を生きる君たちへ
監督:スサンネ・ビア
出演:ミカエル・パーシュブラント/トリーネ・ディアホルム/ウルリッヒ・トムセン/ヴィリアム・ユンク・ニールセン/マークス・リーゴード/キム・ボドニア/エリザベット・ステーントフト/カミラ・ゴッドリーブ/トーケ・ラース・ビャーケ/シモン・モーゴード・ホルム/ビアテ・ニューマン/ボーディル・ヨルゲンセン/ウィル・ジョンソン/オディエゲ・マシュー/ウィル・ジョンソン
30点満点中19点=監4/話4/出4/芸4/技3
【憎しみが生み出す暴力。その向こうにある未来】
アフリカのキャンプで医療活動を続けるアントン。その妻でデンマークに住むマリアンは、かつて夫が犯した過ちを忘れられないでいる。ふたりの息子エリアスは、両親の不仲に心を痛め、学校ではソフスからイジメに遭っていた。そこへ転校してきたのは、母を亡くし、父クラウスの故郷で暮らすことになったクリスチャン。彼はエリアスとともにソフスに抵抗する。いっぽうアントンは、デンマークとアフリカで暴力と対峙するのだった。
(2010年 デンマーク/スウェーデン)
【暴力を上回る力とは、何か】
クリスチャンの父クラウスが、妻の生前に撮った家族写真を整理しているシーン。明るい笑顔の中に、ふと、病床の妻を写した1枚が現れる。こんなふうに人の一生というものは、積み重ねてきた想い出の最後を尽き果てていく姿が締めくくり、そればかりが残された者の心を占めることになるのだ。
人間界における絶対的な真理と、個人的な感傷、ふたつを鮮やかに、かつ残酷に結びつけてしまう手際ゆえに、この監督の作品には心を動かされるのだろうと思う。
全編を覆うのは、ジンバブエ・ショナ族に伝わる民族楽器ムビラをフィーチャーしたスコア。その透明感ある音色ともあいまって、フィルムの中の世界は一貫して陰鬱だ。無理もない。登場人物それぞれが、耐え難い不条理に包まれているのだから。
だが同時に、アントンが息子たちと自然の中で和やかに過ごす場面や、たがいにかばいあうクリスチャンとエリアスの関係からは、希望や暖かさも感じ取ることができる。
それは、絶対に守りたいと思わせるもの。それこそが暴力を上回る力、暴力を恐れず、暴力に屈服しない強さを人にもたらすものだと、本作は語る。暴力に勝てるものがあるとすれば、暴力などムダだと相手に悟らせるだけの強大な力。それは家族や友人への愛であり、大切な存在を守るためならいくらでも赦すという心が力となる、というわけだ。
ただ、世の中には決して抗えない暴力というものもあるし、愛や赦しに恵まれぬまま暮らしを病む者も、愛や赦しに見合う報いを受け取れぬ者も多いことだろう。
そう考えれば、愛だの赦しだのといったある種の“綺麗事”を否定し、憎しみの連鎖を終わらせるものとして「ただ『もう終わりだ』と決めてしまうこと」をあげた『レクイエム』(オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督/リーアム・ニーソン主演)のほうが、遥かに強い納得を与えてくれる。
その点が、つまりは私個人との価値観の相違(愛や赦しに対する期待度の大小、というべきか)や、人としての哀しみとパーソナルな哀しみとをイコールでつなぐ技の鮮度において、本作は『悲しみが乾くまで』を超えられなかったように思える。
とはいえ本作は、ただ“綺麗事”を肯定するだけではない。暴力を上回る力を得ることの難しさは、ビア監督も理解している。だからこそカメラはクリスチャンとエリアスにかなり寄り、子どもたちの世界へ入り込んで感情移入を誘うのだ。観る者を「暴力への対処において未熟な存在」と同等の場所に置いて、それぞれがそれぞれの立場で、得るべき力とその難しさについて考えるよう仕向けるのである。
アントンの描写も、また然り。彼が乱暴者ラースを介して子どもたちに示す態度は立派であり、事態を収束させ、未来を拓く原動力ともなるだろう。ただしそのアントンもまた「暴力の看過」という解決法を採り、そのことに彼自身空しさを感じて、赦しの難しさをあらためて知ることになる。彼と同じ立場にあったなら、僕らはビッグマンとどう向き合うだろうか。そんなふうに考えさせる要素も持っている。
いや、私だって愛も赦しも信じたいのだ。でも、胸を張って口にするほどの確信はない、というか、信じて裏切られるのが怖い、というか。
けれど、代わりに信じているもの、頼りにしているものは、ある。
それは『そうぞう力』。誰かの喜びや痛み、自分や世界の未来に想いをめぐらし、何かを変えたり変えなかったりするための方法を創り出す力。それこそがBetter Worldをもたらすものなのだと思う。
もちろん、映画もまた『そうぞう力』を源として生み出され、誰かの心を推し量ったり未来を作るために必要な、優しさや知恵や機転をもたらしてくれるもの。本作も人間の『そうぞう力』の結実であることは間違いないといえるだろう。
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