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2011/08/07

ダイアナの選択

監督:ヴァディム・パールマン
出演:ユマ・サーマン/エヴァン・レイチェル・ウッド/エヴァ・アムリ/ガブリエル・ブレナン/ブレット・カレン/オスカー・アイザック/ジャック・ギルピン/マギー・レイシー/ジョン・マガロ/リン・コーエン/ナヴァ・ポールディング/モリー・プライス/アナ・ムーア

30点満点中18点=監3/話4/出4/芸3/技4

【彼女が選んだ答え】
 ヒルビュー高校に通うダイアナは、ドラッグに染まり暴力沙汰も起こす問題児。口やかましい母親にウンザリしつつ、この街から出ることを夢見ながら親友モーリーンと自堕落な日々を過ごしていた。だがある日、クラスメイトのマイケルが校内で銃を乱射し、ダイアナとモーリーンにマシンガンを突きつけてこういう。「どちらかを殺す」。それから15年、憧れの哲学教授ポールと結婚し、娘エマとともに幸せに暮らすダイアナだったが……。
(2007年 アメリカ)

★ネタバレを含みます★

【「その前」と「その後」を、つなぐもの】
 最初は「銃乱射事件では『なぜ起こったか?』とともに『生き残った者の長いその後』についても考えるべき」というテーマの映画だろうと思って観始めた。

 ダイアナの「その前」の暮らしは、あまりに自堕落だ。ドラッグに身を浸し、軽い悪事に手を染めて、先のない男との刹那的な関係に癒しを求める。自分が何者であるかを考えようとせず、何者かになれそうもないことを認めず、能動的に“意味のある選択・決断”をすることはない。イケていないけれど、その事実に目をつぶる。
 いっぽうで、そんな自分に涙を流し、導きを欲し、たとえ理想とする未来をすべて手に入れられないとしても小さな幸せとともに生き続けたい、そう願う。
 たぶんそれは、田舎町に暮らすティーンの1つの典型的な姿であるのだろう。

 やがて彼女に「その後」は訪れる。オープニング、ゆがむ花は「その後は世界が変わって見える」ことの象徴だろう。けれど運命はこの世界から色まで奪うことはなく、周囲は愛するゴーギャンの絵のように鮮やかだ(撮影監督は『Ray/レイ』『オール・ザ・キングスメン』のパヴェル・エデルマン)。オイリーに自分を包み、全身に纏わりつくけれど。
 そこでの生きかたは、ただ逝ってしまった彼女の身代わりのようなものとなる。そして彼女の“強い心臓”は、彼女に生き続けることを強いる。“強い心臓”のはずなのに、生きることが辛く感じる。

 現在と過去とを大胆に結び、ダイアナを苛む彼女自身の記憶を観客に提示していく、という作り。
 さらに、あえて加害者側の描写を避けることで、凶悪な事件を引き起こした少年の心をあれやこれやと分析する人たちに「いや、『行動から心情すべてを推し量れるわけではない』という意味で、加害者と被害者にそう違いはないのですよ」と告げる映画にも思えてくる。

 いずれにせよ、ジェームズ・ホーナーの音楽は美しいメロディに甲高く不快な音や鼓動を交えて、不可解でアンバランスな部分を抱える存在としての人間を印象づける。

 多少乱暴さの残る作りではあるが、女優陣の魅力で引っ張っていく。
 無機質な『ガタカ』とバカ・アクションの『ペイ・チェック 消された記憶』、どちらとも違う「ある意味では普通の女性」を演じるユマ・サーマンが懐の深さを感じさせる。
 若きダイアナ役のエヴァン・レイチェル・ウッドも『アクロス・ザ・ユニバース』とは異なり、はすっぱで、でも“自分ではどうしようもできない自分自身”に苦しむティーンにハマっている。
 モーリーンのエヴァ・アムリはスーザン・サランドンの娘なんだとか。その割に印象度は低いが、だからこそダイアナの「その後」を作るモーリーンという存在に意味が生まれ、また、誠実に演じているという気配もある。
 エマ役のガブリエル・ブレナンちゃんはすこぶる可愛く、今後もっと観たい素材だ。
 彼女らの芝居によって、「その前」と「その後」の結び付きの確かさと不確かさを見せていく映画、といったところだろうか。

 だが最後になって強引に、さまざまな読み取りや感想・感傷をひっくり返す荒業。なんと“そっち系”の映画だったとは……。描きたかったのは「その前」でも「その後」でもなく「その瞬間」だったとは……。

 とはいえ、この手の映画には何度も「結局それかよ」と溜息をつかされてきたのに対し、本作はしっかりと踏みとどまる。
 恐らく、いつも通り深くは考えずに、けれど確かに自らの決断・選択といえるひとことによって「その瞬間」がもたらされたことの皮肉。
 また、あらゆる束縛や制約から完全に自由であるはずの「その瞬間」の思考において、彼女の「その後」が諦めや妥協に満ちていることの切なさと愚かしさ。
 その諦めや妥協がやっぱりダイアナらしいと感じさせ、「その瞬間」を描いた映画だからこそ「その前」と「その後」がしっかり結びつくというストーリーの妙。
 エンドロールにThe Zombiesの「SHE'S NOT THERE」がクレジットされていることの妥当性。

 思えば、情報はいくつも散らされていた。たぶんもう一度観れば、よりハッキリとダイアナが「その前」において何を願っていたか、それがどんな風に形を変えて「その後」となったかがわかるはずだ。
 単に「結局それかよ」で終わらない、味のある作品ではないだろうか。

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