トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン
監督:マイケル・ベイ
出演:シャイア・ラブーフ/ジョシュ・デュアメル/ジョン・タートゥーロ/タイリース・ギブソン/ロージー・ハンティントン=ホワイトリー/パトリック・デンプシー/ケヴィン・ダン/ジュリー・ホワイト/アラン・テュディック/ケン・ジウォン/グレン・モーシャワー/ジョン・マルコヴィッチ/フランシス・マクドーマンド
声の出演:ピーター・カレン/ヒューゴ・ウィーヴィング/フランク・ウェルカー/レナード・ニモイ
30点満点中18点=監4/話2/出3/芸4/技5
【全地球に危機迫る! ディセプティコンの新たな野望】
ディセプティコン殲滅のため駆け回るオートボットと人類の連合軍。いっぽう「世界を二度救った男」サムはカーリーという新たな恋人を得たものの就職すらままならない身だ。そんな折、人類が機械生命体の存在を以前から認識していたことが発覚、月の裏側ではオートボットの元司令官センチネルが発見される。人類への不信感を露にしつつも、オプティマスはセンチネルを目覚めさせようとする。が、そこにはメガトロンの陰謀が隠されていた。
(2011年 アメリカ)
【ボリュームは上々。でもちょっと退化しちゃったかも】
第一作の感想は「とんでもないクォリティのCG、スピードと迫力に満ちたアクション。ただし、盛りだくさんだけれど、まとまりを欠き、各要素が面白さへと直結していない。単調でクドくてリズムが悪い」。
で、続編が「物量を投入、あらゆる場面で息つくヒマなく繰り広げられる大スペクタクル活劇。主軸となるストーリーにお遊びも盛り込み、怒涛の展開で突き進み、大きく物語を発展させていこうという意欲も感じられる」。
そして今回。ストーリーテリングや映画としての見せかたは第一作レベルに退化しちゃったかなぁ、それを技術でカバーしているような雰囲気だぞ、という仕上がり。ちょっと残念。
ほんの数秒のカットにも贅沢なまでに物量を投入し、カネと時間をかけてあるのは相変わらず。それは火薬やCGの量といった派手な部分だけではなく、プロダクション全体に及んでいる。
たとえば米ソの宇宙開発競争を描いたアヴァンタイトルのパートって、アーカイブ映像を上手に使ってあるように見えて、意外と新撮映像が多い。ちっちゃなシーンでも、あるいはフルCGで賄ってよさそうな場面でも、セットを組んだりロケをしたり美術を作りこんだりして「こういうことでスケールやリアリティを出すことが面白さにつながるんだよね」という意識が全編で徹底されているように感じる。
もちろんCGも抜群で、オートボットらの背景の中への収まり、実写との一体感、重量と質感とスピードの創出は依然として素晴らしい。オープニングで見られるサイバトロン戦争のヴィジュアル・イメージのように、“子どもの頃にワクワクしたおもちゃ的なカッコよさ”に満ちているのも特徴だ。
合成の手間を考えればフィックスのカットのほうが楽なはずなのに、カメラを思いっ切り動かし、舞台の広がり感、世界を立体的に見せることにも気を遣っている。スローモーションの使いかたの上手さもあるし、かと思えばオプティマスが転移装置を破壊するのは戦いの流れの中(ヘンにもったいぶらないのがいい)という疾走感もある。
また今回は3Dで撮られているわけだが、単に「3Dにしました」にとどまらず、奥行き感、浮遊感、人と人との位置関係、飛び出すレンズフレアなど、3Dとしてできることにいろいろとチャレンジしてやろうという気配もある。迫り来るショックウェーブやオプティマスの格闘など「大画面で味わう3D」の楽しさも満載(ただしカットによって3Dの効果にはバラツキがあり、特に、やっぱり客席にいちばん近いところで素早く動かれると焦点を合わせにくいのが難)。
ストーリーとしては、前作に散らしてあった“時間と空間”というファクターを、最重要アイテム=転移装置として引っ張ってきたのが個人的には嬉しいところ。
盛り込みもたっぷりで、センチネル役レナード・ニモイ=スポックをTV画面の中で狂わせたり、お馴染みのかくれんぼがあったり、ミーガン・フォックスへのイヤミも入れたりと、はしゃぐ。「これって本人じゃないの?」と思ったら、案の定バズ・オルドリン自身だし。
と、このシリーズらしい物量とニギヤカさとスピード感とお遊びにあふれていて今回も「お腹いっぱい映画」になっているのだが、期待が大きかったぶん(というか前作のデキがよかったぶん)、不満も大きい。
クライマックスが市街戦へと戻ったため、スケール感は減少。また見た目が『アイランド』にかなり近くなったこともあり(実際、高速道路でのカーチェイスのシーンは『アイランド』からの使いまわしという噂も)、なんとなく「どこかで見たよな感」の強い画面に感じられる。
これこれこうだとセリフで説明してしまう箇所も多く、それはゴチャゴチャとしたストーリーにわかりやすさを与えてはいるけれど、安っぽくて強引であることは確かだ。
そのゴチャゴチャ=枝葉も、サムの両親は出てるだけ、ジョン・マルコヴィッチの扱いはテキトー(怪優らしさは見せてくれるけれど)、ロシア人科学者だの中国系スパイだのシモンズとミアリングの腐れ縁だの、あれやこれやが雑然とし、それぞれ鬱陶しいだけで面白さにつながっていない。
そもそもお話としての主軸が、サムの奮闘および彼とカーリーとのロマンス、オートポッドと人類の信頼関係、オプティマスとセンチネルの価値観の違いなどとバラけていて、焦点がボケてしまっている。
要するに全体として未整理なのだ。
バツっとしたリズム(たとえばサムがバンブルビーに乗り込む場面を省略したり、いきなり場所が移動していたり)も気忙しいし、カーリー役ロージー・ハンティントン=ホワイトリーのヴィジュアルや立ち居振る舞いも「またこの手の女の子かよ」と思わせるし。
ま、2時間半の長尺(枝葉を整理すればもっと短くなるはずだが)をまったく飽きさせずに見せるのはさすが。デジタル技術の最先端を存分に味わえる映画でもある。けれど、欲張りすぎというか、「なんか同じ味つけの肉ばっかり、しかも食べるところは少なくて、それでも何皿も出てくるからとりあえず胃は満たされるよな」と思わせるコース料理というか、そういう作品である。
P.S. いずれ3・11の大震災とそれ以後の混乱も「歴史」として映画で取り上げられる時期も来るんだろうな、という感想も抱かせる作品だ。
●主なスタッフ
脚本は『スケルトン・キー』のアーレン・クルーガー。
プロダクションデザインは『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』のナイジェル・フェルプス、衣装は『アバター』のデボラ・リン・スコット。音楽は『スチームボーイ』のスティーヴ・ジャブロンスキー、サウンドは『ワルキューレ』のエリック・アーダール。
SFXは『アンストッパブル』のジョン・フレイジャー、VFXは『スター・ウォーズ』シリーズのスコット・ファーラーを中心とするILMおよびデジタル・ドメインなどのチーム、スタントは『ミニミニ大作戦』のケニー・ベイツ。以上は前作から引き続きの参加。
撮影は『バンテージ・ポイント』のアミール・モクリ、編集は『スピード・レーサー』のロジャー・バートン、『ゴーン・ベイビー・ゴーン』のウィリアム・ゴールデンバーグ、『インベージョン』のジョエル・ネグロン。
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