映画は映画だ
監督:チャン・フン
出演:ソ・ジソプ/カン・ジファン/ホン・スヒョン/コ・チャンソク/チャン・ヒジン/ソン・ヨンテ
30点満点中16点=監3/話3/出4/芸3/技3
【俳優に憧れるヤクザと、ヤクザのような俳優】
横柄で暴力的、すぐにキレてしまう人気アクション俳優のチャン・スタ。共演者もその代役も病院送りにし、撮影中のヤクザ映画が立ち行かなくなってしまう。そんなスタが白羽の矢を立てたのは、かつて俳優に憧れていたという本物のヤクザ、ガンペ。彼は「格闘シーンをガチンコで撮るなら」という条件を付けてこの仕事を引き受ける。だが、ガンペは親分の裁判の準備、スタは恋人ウンソンとの秘密の逢瀬という問題を抱えていて……。
(2008年 韓国)
★ややネタバレを含みます★
【上手さはある。もっとベタでもよかったか】
題材はエンターテインメントだが、原案/製作がキム・ギドクということでちょっと不安を覚えながらの鑑賞。でも、ちゃんと“楽しめる”映画になっている。
まぁ共演女優がガンペに惹かれるなど展開の強引さ・都合のよさがあったり、スターと大物ヤクザが主人公の割には動いている人間(撮影スタッフや弟分)の数が少ないなどスケールが小さかったり、全体としてリアリティはやや薄め。
ちょっとクドイかなと思える場面、逆にもう少し余韻が欲しいと感じるカットなど、撮りかたには安っぽさ、雑なところもある。なぜかスペイン風のサントラも気に障る。
が、端々に上手さも感じる。
オープニングからしばらく、各人が置かれている状況やキャラクターを下手な説明セリフ抜きで並べていく点が良質。
キス・シーンを舎弟たちが興味深そうに見守っていたり、その舎弟のひとりとファイトの真似事をするガンペの楽しそうな表情、彼を見つめる別の弟分、ラスト・シーンを撮り終えた後の監督の感極まった顔、カフェでデートするスタとウンソン……など、必要な場面、必要なカットをポンと入れ込む技もなかなか適確だ。
それらを、ときにグラフィカルに、ときにダイナミックに、浅い色からギラリベタリとした色調まで織り交ぜて撮ってあって、ストーリー的にも見た目的にも退屈させない。
何よりの魅力は役者だろう。
韓流ドラマはまったく観ないためソ・ジソプは初見。ネットで画像なんか観るといわゆる“イケメン”なんだが、このガンペという役のアブナさと弱さと優しさを存分に表現していて、カッコいい。
カン・ミナ役のホン・スヒョン、ウンソン役のチャン・ヒジンの女優ふたりも可愛いし、監督役コ・チャンソクも、ずっとゴチャゴチャうるさいだけだったけれどラスト・シーンで本作をグっと引き締めてくれる。
ただ、もうちょっとベタで、もうちょっと深みもあれば、なおよかったんじゃないか。
ヤクザとしての雑事・凶行に追われるガンペが“別人”になることの楽しさを覚える過程、周囲に裏切られたスタが“善人”としての心を目覚めさる部分、彼らに迷惑をかけまいと去るガンペ……などは、それこそ安っぽくてもいいからわかりやすく描くべきだったはず。
「俳優とは、苦労を知らないヤツが人のマネをすること」
「監督にもわからないことがある」
といったセリフには製作サイドの“映画に対する価値観”が表れていると思うが、このあたりも広げて「映画作りの難しさと楽しさ」を拡大しつつ、タイトルでありテーマでもある「映画は映画、実人生は実人生。そこを勘違いせず、身の丈に応じた生き様を貫くべき」という悲哀と上手にミックスできれば、さらに良作となったことだろう。
で、舞台を日本に置き換えてもOKと思えるので、リメイクする場合のキャスティングなんかを考えてみたりする。
ソ・ジソプの雰囲気は大森南朋に似ているけれど、もう少し若いほうがいいか。伊勢谷友介か平山広行、客を呼ぶなら長瀬智也あたり? スタ役は意外と難しいな。成宮寛貴とかか。アメリカだと、どのあたりかなぁ。
というムダな想像も、ちょっと楽し。
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