すべて彼女のために
監督:フレッド・カヴァイエ
出演:ヴァンサン・ランドン/ダイアン・クルーガー/ランスロ・ロッシュ/オリヴィエ・マルシャル/アンムー・ガライア/リリアーヌ・ロヴェール/オリヴィエ・ペリエ/ムーサ・マースクリ/レミ・マルタン
30点満点中18点=監4/話3/出3/芸4/技4
【妻を脱獄させるために】
国語教師ジュリアン、雑誌編集者リザ、幼い息子オスカル、仲睦まじく暮らしていたオクレール家。だが上司殺害の容疑で逮捕されたリザに、有罪判決が下る。妻の無実を信じながらも合法的な解決策を見出せないジュリアンは、家財を売り払って金を作り、たったひとりで妻を脱獄させる計画を練り上げていく。脱獄経験のある作家への取材や綿密な下調べを進めるジュリアンだったが、急遽リザが別の刑務所へ移送されることとなり……。
(2008年 フランス/スペイン)
【優れたオリジナル】
いやもうこれで十分じゃん、わざわざリメイクする必要ないじゃん、と思わせるデキ。
陰影や空気感が漂う格のある映像、小気味いい編集、細かい音を拾い上げると同時にサスペンスフルなBGMで盛り上げる緊迫感など、しっかりとした仕上がりだ。
特に、ハギス版と同様「クドクド説明せず、見せてわからせながら進めていく」という手法が徹底されていて、その流れの良さが上質。こうした点がハギス好み(っていうか、ちゃんと映画を知っている人の好み)だったせいでリメイクしたくなったんだな、と感じる。
それにしても、クルマの中から3年前へと飛ぶオープニングから全体的な構成・展開まで、『スリーデイズ』はかなり忠実に本作をなぞっているんだなと驚かされる。もっと劇的に変わっているのかと考えていたのだが、それだけ本作に隙は少なかったということだろう。
自然な動作でオスカルの上着を脱がせてやるジュリアンとか、家財道具を売り払った後でもオスカルの部屋だけはそのままという場面で、子に対する父の想いや接しかたがうかがえて、こういう“匂わせ”もハギス版へと受け継がれた意識。
また、妻役(本作ではダイアン・クルーガー)がやたらと美人であることの必要性も、これがひとつの仕掛けなのだということが両作品を観ればよくわかる。観る者に「命懸けで救い出すだけの価値がある愛情の対象」と納得させるためのキーなのだ。
本作とハギス版を比較した場合、本作では、リザの持病をあらかじめクッキリと印象づけたり、やらなければならないこと・ジュリアンがやろうとしていることを前もって明らかにしておいたり、ハギス版よりも明確にリザの無実を示して主人公一家と近い位置に観客を置いたりして、“こちら”側からジュリアンの行動を解きほぐしていく、というイメージ。
対するハギス版は「?」や「!」を重視し、本作の間を埋め、省き、より直接的な脱獄チャレンジ、シングルマザーの存在、タイムリミット・サスペンス、相乗り、警察との知恵比べ、売人やゴミの扱いといった要素を上手にプラスして、それでいて密度と緊迫感をキープ、しかもハリウッド的なエンターテインメントも上乗せしている、といった感じだ。
どちらも面白いことは確か。そして、いい映画をいい腕でリメイクすればやっぱりいい映画になる、という稀有な例に触れられる、なんとも楽しい体験が可能な2本の「見比べ」である。
●主なスタッフ
撮影のアラン・デュプランティエはショートムービー中心に撮ってきた人で、これが出世作といえるのかも。カヴァイエ監督とは次の『この愛のために撃て』でもコンビを組んでいる。編集は『バビロンA.D.』のベンジャミン・ヴェイユ。
プロダクションデザインは『ブラック・ボックス』のフィリップ・シーフル、音楽は『コンスタンティン』などのクラウス・バデルト、サウンドエディターは『アーサーとミニモイの不思議な国』のアレン・フィート。
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