スリーデイズ
監督:ポール・ハギス
出演:ラッセル・クロウ/エリザベス・バンクス/タイ・シンプキンス/マイケル・ビュイエ/モラン・アティアス/オリヴィア・ワイルド/ダニエル・スターン/RZA/ジェイソン・ベギー/アイシャ・ハインズ/レニー・ジェームズ/アラン・スティール/ヘレン・ケアリー/リーアム・ニーソン/ブライアン・デネヒー
30点満点中19点=監4/話3/出4/芸4/技4
【ただ妻を救うために】
上司殺害の容疑で有罪判決を受けた妻ララを救うため、証拠を調べ直すなど奔走する教師ジョン・ブレナン。だが上告は棄却され、合法的にララを救い出す手段はすべて閉ざされた。それでも妻の無罪を信じるジョンは、脱獄経験者への取材やネットでの情報収集を進め、ララを力ずくで刑務所から連れ出す準備を着々と整えていく。長期刑務所への移送まで残り3日、脱獄から州外への脱出までに許された時間は35分。絶望的な戦いが始まる。
(2010年 アメリカ/フランス)
【無駄なく、スキなく】
オリジナルであるフランス映画『すべて彼女のために』(フレッド・カヴァイエ監督)はかなり評価の高い作品のようで、そういう優れた素材をハギスほどの才能がリメイクするとこうなるんだ、ということがわかる。
たいていの映画では「ここ、こうすればもっと良くなるのに」と思わせる部分があるものだが、もともと本作がそういう意識で作られているため、とにかくスキがない仕上がりとなっている。
過度にセリフを用いず、ジョンをはじめとする人物たちの行動や表情を見せることで事態と心理とを描いていくという、映画らしい作法は、さすがにハギス(ただしオリジナル・フィルム自体からその特徴は生きている)。たとえば偽パスポートを手に入れるために数多くの売人に接触するくだりでは、わざわざその過程を描かずとも、助手席に投げ捨てられたクスリやタバコの山を見せればそれでいい、という簡潔さが味となっている。
また、ボコられて傷だらけのジョンを見てルークが「やり返したの?」と訊ね、「いや」と答えるジョンに「それでいいんだ」と返す場面は、もうそれだけで父子がどんな風につながっているかと、幼いルークの中に“罪”に対する価値観が培われていることを示す好シーン。こういう味をポンと入れ込む術(これはハギスのアイディアだ)にも長けている。
いっぽうクライマックスでは、計画を実行に移していくジョン、彼に迫ろうとする警察、移送されるララ、3つをテンポよくカットバックで描き、グイグイと収束させていく技が憎い(これもハギス版の特徴)。
公園のシーンでスっとニコール(オリヴィア・ワイルドが相変わらず美しい)を浮かび上がらせるなど、各カットがいちいち決まっているのもハギス作品ならでは。
ジョンが声を荒げる場面では一瞬だけ音声のレベルを上げる(上げているように聴こえる)などサウンドメイクにもこだわり、エコー感のあるダニー・エルフマンのBGMでさらに緊迫感は増していく。
役者も素晴らしい。ラッセル・クロウは、いつものタフガイぶりを抑えて一介の教師・夫(ちょっとメタボな感じがいい)を演じ切っていて、あらためてこの人の奥の深さを思い知らせてくれる。
ララ役エリザベス・バンクスも、夫に諦めさせ、自分自身にも諦めを植え付けようとして悪態をつきながら、それでも目の奥に悲しみをたたえた表情が美しい。ルーク君のタイ・シンプキンスも驚くほど上手く、父親ジョージ役のブライアン・デネヒーは、そのコワモテの裏に秘めた家族愛をいい具合に漂わせている。脱獄王デイモン・ペニントンを演じたリーアム・ニーソンなんか、そこに座っているだけでもう脱獄王だ。
要は、各々のパーツも、脚本も演出も芝居も、すべてがピタっと決まっている印象。下手に気張らなくても、必要な部分に必要なだけこだわり、必要なことを必要なだけ適確に盛り込んでいけば、しっかりガッシリとした映画が出来上がるという見本ではないだろうか。
あえて欲張るなら、ジョンの動機部分の描写不足だろうか。
本作では「愛する者のためなら法律などどうこういっていられない」ということが大前提となっており、また『ドン・キホーテ』を例にとって「理不尽なことを受け入れるより、信念という狂気で立ち向かう」という想いがエクスキューズとして用意されている。
それはそれで立派に機能し、潔いともいえる。だができれば、この3人の家族が3人揃わなければ意味を成さないということをわからせる、あの写真のようなエピソードをもう1つくらい欲しかったところ。
思えば『クラッシュ』でも『告発のとき』でも、ひとつのものを手に入れる代償として大きなものを失う哀しみがベースにあった。本作でもそのテーマは共通しているのだが、哀しみ部分がやや弱いかな、とも感じる。
まぁそれも、完成度が高い映画に無理やりケチをつけたいがゆえの小さな不満である。
●主なスタッフ
撮影監督は『ベティの小さな秘密』のステファーヌ・フォンテーヌ、編集は『告発のとき』のジョー・フランシス、プロダクションデザインは『クラッシュ』のローレンス・ベネット、衣装は『プライド&グローリー』のアビゲイル・マーレイ。
音楽は『ビッグ・フィッシュ』などのダニー・エルフマン、サウンドメイクは『最高の人生の見つけ方』のロン・ベンダーと『ワールド・トレード・センター』のレニー・トンデッリら。
SFXは『エターナル・サンシャイン』のドリュー・ジリターノ
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