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2011/11/11

ウィンターズ・ボーン

監督:デブラ・グラニック
出演:ジェニファー・ローレンス/ジョン・ホークス/シェリル・リー/ローレン・スウィートサー/デイル・ディッキー/ケヴィン・ブレズナハン/ロニー・ホール/ギャレット・ディラハント/ヴァレリー・リチャーズ/シェリー・ワグナー/アイザイア・ストーン/アシュリー・トンプソン

30点満点中18点=監3/話4/出4/芸4/技3

【闇に消えた父を追って】
 寒さに包まれたミズーリの村で、心を病んだ母や幼い弟と妹の面倒を見ている17歳のリー・ドリー。貧しい暮らしの中、さらに麻薬製造の罪で有罪判決を受けた父ジェサップが保釈中に姿をくらましたため、土地と森と家まで奪われそうになる。なんとか父の居場所を突き止めようとするリーだったが、伯父のティアドロップに止められ、村の人々もジェサップのこととなると堅く口を閉ざす。諦め切れないリーが手がかりをあたるうちに……。
(2010年 アメリカ)

★ネタバレを含みます★

【重く苦しい中で】
 何も持たない者を描いた映画、といったところだろうか。
 いや、家族を守らなければならないという想いはリーの中に確かにあるのだろうけれど、それは“芽生えた愛”というよりも、むしろ“持たざるを得なかった使命感”。
 そして、物語の始まりと終わりとを比べたとき、リーはほとんど何も手にしておらず、わずか一歩すら進んでいないように思える。幾ばくかの金は転がり込んだものの、それはすぐに消えてしまうだろう。ティアドロップとの間にはある種の信頼感が育まれたかも知れないが、と同時に「もう近づくべきではない」という意識も、うっすらと生まれたはずだ。

 そこに、未来はない(主人公が置かれた環境に対する印象としては『誰も知らない』に近いか)。ひたすらに暗い人生とストーリー。しかもドラマチックに描くのではなく、淡々とキリキリと退屈に、インディペンデント臭くまとめていく。
 ぶっちゃけていえば、ときめくところのない作品だ。

 が、ツマラナくはない。理由は3つ。

 まず、必要最低限、という言葉が頭に浮かぶ。カット数が少ないわけではなく、逆に過剰なわけでもなく、リーを包む閉ざされた世界と、彼女の行動や降りかかる災難を適確かつコンパクトに切り取り、ただし各シーンにはたっぷりと重さと痛みを乗っけていく、というイメージ。
 寒々とした景色、遠くで地味に響く物音、不審な人々の目、ゴミゴミとした室内外、薄汚れた衣装。いつどこで誰から手に入れたものなのか、同じ場所でただ足掻き続ける動作を強いるトランポリンが物悲しい。
 いっぽうで、ジェサップとティアドロップの関係、事件の全容、真犯人、足りなかった保釈金を払った人物が誰なのか……など、明らかにされないことも多い。
 そうした作りによって、等身大のリーを密度感もそのままにうつし出す。

 そのリーを演じたジェニファー・ローレンスも素晴らしい。リーの体内と脳内に潜む、まだ言葉にできない価値観や、子どもの浅はかさと懸命さ、拒絶と受容などを生々しく表現する。『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』でのミスティークからは想像できない“生”を感じさせる芝居だ。

 そして、個人的にもっとも印象的だった、リーが軍への入隊面接を受けるシーン。彼女は実に正直に、年齢すら偽らず、自分が置かれている状況や志望動機を説明する。それに対して面接官の軍曹は、これ以上ないほどの正論で彼女と向き合う。
 そこに見られるのは、ある意味で社会と人の善良さである。善良さはときに無責任であり、ときに愚かにも見えるが、人ひとりの生きかたを左右するのに十分なパワーを持つことがわかる。
 また、全編において裏社会を生きるために必要な狡猾さや黒さが描かれており、と同時に黒さの中にすら存在する“人としてのルール”も匂わせる。

 つまり、白も黒も善も悪も、いっしょくたになって世界が作られている。そういう当たり前のことにあらためて気づかせてくれて、しかも、ひょっとするとそのカオスこそが希望なのかも知れない、とも思わせる映画となっているのである。

●主なスタッフ
 撮影監督は『ニューヨーク、アイ ラブ ユー』のマイケル・マクドノー、プロダクションデザインは『トランスアメリカ』のマーク・ホワイト、衣装は『ブラック・スワン』に関わったレベッカ・ホフェール。
 その他では編集のアフォンソ・ゴンサルヴェス、音楽のディコン・ハインクリフェ、サウンドデザインのダミアン・ヴォルプと『あぁ、結婚生活』と共通のスタッフが多い。

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受信: 2011/11/20 12:23

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