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2011/11/23

3時10分、決断のとき

監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ラッセル・クロウ/クリスチャン・ベイル/ローガン・ラーマン/ダラス・ロバーツ/ベン・フォスター/ピーター・フォンダ/ヴィネッサ・ショウ/アラン・テュディック/ルース・レインズ/グレッチェン・モル/レニー・ロフティン/リオ・アレクサンダー/ジョニー・ホイットワース/ブライアン・ダフィー/ケヴィン・デュランド/ベンジャミン・ペトリー

30点満点中19点=監4/話3/出4/芸4/技4

【護送のため、荒野を往く】
 南北戦争で片脚を失くし、いまは妻アリス、息子のウィリアムやマークとともに小さな牧場を営むダン・エヴァンス。だが生活は苦しく多額の借金を背負い、土地から追い出されそうになっていた。そんな折、極悪非道で名を馳せるベン・ウェイドの一味が強盗を働く現場に出くわすダン。やがてベンは捕らえられ、ダンは報酬目当てにその護送を手伝うことになる。だが数々の危機を切り抜けるうち、ダンとベンの間に奇妙な感情が芽生え始める。
(2007年 アメリカ)

【パワーと細やかさ、強さを感じる1本】
 シンプルながら先の予想がつかないストーリーを、パワフルに、グイグイと引っ張っていくようにして観せる作品。油断しているとガラリと急展開するリズム、緩急の緩の部分にも急の部分にも漂う緊張感が特徴だ。
 いっぽうで、賞金稼ぎバイロンを治療するドクの背景に馬の骨格図が張られていたり、ベンが舌(ぜつ)で馬を導いたり、「銃を拾うところは画面の外に置くが、撃つ意志がないことを示すために撃鉄を戻す様子はちゃんとうつす」など、描写の細やかさ、ユニークさ、うつす・うつさないのメリハリもある。

 そうしたパワーや細やかさが、“格”を感じさせる各スタッフの仕事によって生み出されていることは確かだ。
 赤くギラついた色調と粒子感、逆光も厭わぬ大胆なカメラワークで、荒野の空気、砂埃、煙、汗臭さなどを余さずすくい取り、スピーディかつ適確かつカッコよく、銃撃戦や、それぞれの人物が心に秘めた想いを描き出していく。西部の町をリアルに作り出した美術チームの仕事も見事だし、スタントも奮闘。細かな音を拾い、前面に押し出していくアクの利いたサウンドにも味があり、音楽には疾走感と物悲しさが同時に漂っている。

 スタッフは監督の前作『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』とかなり共通しているが、あちらよりもはるかに力の入った仕上がりだろう。

 そのマンゴールド監督、『17歳のカルテ』では「テーマにのっとった正当な撮りかたをして、破綻がなく、考えさせて、それでいてどこか冷めた視線を持っている」と評したが、今回も健在。なんというか、スマートなんだけれどただそれだけじゃない、ふとした“間(ま)”で人物の心情を読み取らせようとする語り口が上手い。
 シニカルなベン・ウェイド役ラッセル・クロウ、唇を堅く結んだダン・エヴァンス役クリスチャン・ベイル、ともに本心を表に出さない主人公ふたりの芝居・様子をジックリと捉えることで、物語に重みを与えることに成功している。

 キャストでは他に、悪漢への憧れと戸惑い、理想と現実の狭間で揺れ動くウィリアム役ローガン・ラーマンの純真さや、憎々しげなケヴィン・デュランド、真っ直ぐに「悪のガンマン」を貫くチャーリー・プリンス役ベン・フォスター、いわれてもわからなかったピーター・フォンダらのハマりかた、存在感が素晴らしい。そうした人物像をしっかりと印象づけるのもまた、監督の腕だろう。

 ダンの「誇れるものを持ちたい」という堅く強い意志とベンの中の「欲しいものを手に入れるのが男」という価値観が共鳴する過程=もっとも大切な部分への踏み込みが不足しており、また、いくぶん状況説明をセリフに頼っている印象もある。
 だが、エヴァンス一家が抱く「何かが変われば」という焦燥感、世を捨てて享楽的に生きながらも「だからこそ譲れないものがある」というベンの男気、ボスに対するチャーリーの無条件の恩義、その他の人々の打算や使命感や復讐心などが絡み合って、人が物語を動かし、物語が人を動かす、バランスと収まりのいいお話となっていて、内容としては悪くない。

 なにより、太いロープを引っ張って重いモノを引き摺るような力感をスタートから最後まで持続させたことに、“強さ”を感じる1本である。

●主なスタッフ
 1957年の作品をリメイクしたもので、オリジナル脚本はハルステッド・ウェルズ、本作に関わったのは『ウォンテッド』のマイケル・ブラントとデレク・ハース。
 撮影監督は『マウス・ハント』『ムーンライト・マイル』『サイドウェイ』などのフェドン・パパマイケル。編集のマイケル・マカスカー、衣装のアリアンヌ・フィリップスは『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』。
 美術チームは『宇宙戦争』のアンドリュー・メンジースや『路上のソリスト』のグレゴリー・A・ベリーら。
 音楽は『ハート・ロッカー』『アイズ』のマルコ・ベルトラミ、サウンドエディターは『インサイダー』などに携わったドナルド・シルベスター。
 SFXは『サイダーハウス・ルール』などのロン・ボラノウスキー、スタントは『ラスベガスをぶっつぶせ』のフレディ・ハイス。

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