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2011/12/22

タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密

監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ジェイミー・ベル/アンディ・サーキス/ダニエル・クレイグ/サイモン・ペッグ/ニック・フロスト/トビー・ジョーンズ/マッケンジー・クルック/ダニエル・メイズ/ガド・エルマレ/ジョー・スター

30点満点中19点=監4/話3/出4/芸4/技4

【少年探偵と愛犬、そして酔いどれ船長の大冒険】
 数々の難事件を解決してきた少年記者タンタンと愛犬スノーウィ。ある日彼らの部屋に何者かが侵入、蚤の市で手に入れた帆船ユニコーン号の模型が奪い去られてしまい、さらには殺人も発生する。どうやら模型にはアドック家の財宝に関わる謎が隠されており、事件の陰には怪しい男サッカリンがいるらしい。模型を奪還すべく奔走するタンタンとスノーウィは、仲間となったアドック家の末裔で飲んだくれのハドック船長とともに危機へと挑む。
(2011年 アメリカ/ニュージーランド)

【さすがのデキ。でも贅沢な不満も】
 パフォーマンス・キャプチャおよび3Dという“デジタルおもちゃ”を手に入れたスピルバーグが、ようやく撮り上げたタンタン。
 70~80年代の謎解きコミカル・サスペンスを思い起こさせる、影絵+ジャズのOPが、雰囲気もよく、もうこれだけで舞台背景やタンタンのバイタリティまでも示していて、なかなかに楽しい。

 そして、原作へのリスペクトも混ぜ込んだ導入部から怒涛の冒険へ。謎の屋敷に船内に海、空中に砂漠に市街地と、まさしく大アドベンチャー。バイクを使った追跡劇の長回しやクレーンによるフェンシングなどアクションも多彩で迫力たっぷりだ。前のカットが次のカットへ溶け込んでいくシーン遷移や過去の出来事(回想)と現在のリンクなど、流れのよさも特徴的。

 とにかく全編にわたってスケール感とギッシリ感と疾走感をキープ。かといってただの「ゴチャゴチャズバー」に陥らず、上手に緩急や笑いを効かせながら手堅く進めていくのは、さすがにスピルバーグ。
 いやもう「ジャーン」とSEを入れるタイミングとか対象への寄りかたとか、まるっきりスピルバーグだもんなぁ(当たり前か)。

 注目のパフォーマンス・キャプチャは、アンディ・サーキスいわく「微妙で小さい演技をするのがコツ」(パンフレットより)とのことだが、それでもまだキャプチャっぽい大き目の動き。でも、それくらいのほうが逆に派手さがあっていい。まばたきや視線の送りかたなど細かな目の動きにもこだわった見せかたがされていて、芝居トータルとしてのまとまりは良好だ。
 いっぽうの3D、ことさらに「ほーら、飛び出しますよー」というカットは少なめで、レイアウト/カメラワークとともに、舞台の広がりや高低を表現するためのツールとして上手に利用している感じ。

 この「10あるものを10使えばいいってもんじゃないよ」という意識は演出/編集にも生きていて、たとえばスノーウィが囚われのタンタンを助ける場面では「手首のロープを咥えるところまでは見せるけれど、噛み切って解けるところは省略する」など、全部見せないことで生まれる緊迫のリズム感が、本作のテンポのよさを支えているように感じられる。

 出演者/キャラクターでは、酔いどれハドック船長のトラブルメイカー&コミックリリーフぶりが素晴らしい。思えば過去作でもそうだったけれど、スピルバーグって追い込まれてジタバタする人間の描きかたが上手くて微笑ましいんだよなぁ。珍しく(?)人間を演じたアンディ・サーキスも魅力を炸裂させている。

 と、期待にたがわぬデキ、原作を知らなくても十分に楽しめる仕上がりといえるのだが、ただ、不満が残らないわけではない

 まず、どうしてもアレとかコレとかと比較してしまうのは仕方のないところ。たとえば『インディ・ジョーンズ』シリーズ。やっぱり『レイダース』を初めて観たときのどうしようもないワクワク感を期待するのだけれど、この30年間でこっちだっていろいろな映画経験をしているわけで、その経験を飛び越すような驚きは正直足りないように思う。

 もちろん技術や見せかたは当時から格段に進歩しているものの、「デジタルによってすべてがコントロールできる」という利点が、逆に不利にも働いている事実は否めないだろう。
 例の長回しや、通常は入り込めないところにまで潜り込むカメラワーク、燃え落ちる船、ありえないアクション、スケール豊かな遠景、背景と人物の絶妙なバランスなど、さまざまな“デジタルだからこその可能性”を手に入れたのと引き換えに、生身だからこそ漂う汗臭さや意外性や親近感が失われているのだ。美しくてスマートでスリリングでスピード感もあるけれど「危ないっ」という意識が芽生えにくい、といえる。
 いや、別に実写絶対主義者ではない。でもカメラの揺れ(他の同種作品より細かく揺れているように感じられる)などで「この世界へ行って撮りました」という雰囲気を出そうとすれば出すほど、逆に“あざとさ”や“遠さ”を感じてしまうのだ。

 あとはスノーウィ。やっぱ名犬グルミットの洗礼を受けた後だとなぁ。パンチに欠けるんですよ。

 ま、このあたりは期待の大きさゆえに感じてしまう贅沢な不満、歳を取ったせいで抱いてしまう引っかかりなのだが。

 撮影監督は不在。エンドロールでは、確かスピルバーグがライティングのスーパーバイザーも務めていて、ピーター・ジャクソンがセカンドユニットの監督を引き受けているみたいだ。
 たぶん、その場その場で御大ふたりがWeta社スタッフに細かな指示を出したり「ここ、オレにやらせて」などと楽しみながら作ったのだろう。普通の映画とはまったく異なる方法論。
 それでもしっちゃかめっちゃかにならず、カッチリしすぎている、まとまりすぎている、優等生的、という印象の“綺麗な作品”を仕上げてしまうんだから、たいしたもんである。

●主なスタッフ
 脚本はTVドラマ『SHERLOCK』(NHKで観たけれど、これがなかなか面白かった)のスティーヴン・モファット、『ショーン・オブ・ザ・デッド』などの奇才エドガー・ライト、『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』に出演していたジョー・コーニッシュ。
 編集は『宇宙戦争』などスピルバーグ作品の常連マイケル・カーン、アートディレクターは『ポーラー・エクスプレス』のアンドリュー・L・ジョーンズ、衣装は『LOTR』に携わったレスリー・バークス=ハーディング。
 音楽は『スター・ウォーズ』シリーズなどの巨匠ジョン・ウィリアムズ、サウンドチームは『第9地区』などのブレント・バージ、クリス・ワード、デイヴ・ホワイトヘッド。
 VFXは『アバター』のジョー・レッテリを筆頭に、『LOTR』や『ラブリーボーン』などのWeta社。スタントは『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』のギャレット・ウォーレン。

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