« SAW ソウ ザ・ファイナル | トップページ | セントアンナの奇跡 »

2012/01/26

パイレーツ・ロック

監督:リチャード・カーティス
出演:トム・スターリッジ/フィリップ・シーモア・ホフマン/ビル・ナイ/リス・エヴァンス/ウィル・アダムズデイル/トム・ブルック/リス・ダービー/ニック・フロスト/キャサリン・パーキンソン/クリス・オダウド/アイク・ハミルトン/トム・ウィズダム/ラルフ・ブラウン/タルラ・ライリー/ジャニュアリー・ジョーンズ/ジェマ・アータートン/オリヴィア・ルウェリン/ジャック・ダヴェンポート/シンニード・マシューズ/フランチェスカ・ロングリッグ/アマンダ・フェアバンク=ハインズ/スティーブン・ムーア/エマ・トンプソン/ケネス・ブラナー

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3

【ロックが闇で輝いていた時代】
 ブリティッシュ・ロック全盛の1966年。BBCがロックの放送を制限する中、英国民が愛したのは海賊ラジオ局だ。とりわけ北海に浮かぶ船からロックを24時間流し続ける『ラジオ・ロック』は、ユニークなDJを多数擁して人気を集めていた。高校を退学になったカールはなぜか母によって船へと送り込まれ、DJたちと寝食をともにすることとなる。いっぽう英国政府は海賊ラジオを規制すべく、さまざまな策をめぐらすのだった。
(2009年 イギリス/ドイツ/アメリカ/フランス)

【新時代の萌芽にあった、1つの出来事】
 wikipediaによれば、60年代のヨーロッパにはほとんどの国で国営放送しかなく、より自由な風潮で流行歌を流す本作のような海賊局が実際に人気となっていたらしい。特に北海には、海賊ラジオ船が多数投錨していたんだとか。
 その1つ、ラジオ・ロックという架空の放送船で巻き起こる事件を描いたのが本作。

 当時の世相をうつすような、サイケで猥雑でラフでポップなラジオ・ロックの雰囲気が楽しい。主役ともいうべき音楽・サントラの多彩さはもちろんのこと、ごちゃごちゃ感たっぷりの船内美術や衣装デザインもイケている。
 対比されるのは、黒服で七三ぴっちりの政府。そちらは割とカッチリ撮られているのに対し、ラジオ・ロック内の様子は船内へ潜り込むようなドキュメンタリー・タッチが採用され、しかもカットは短く細かく神経質につながれて、ますます“キッチリ”と“自由”の差が浮かび上がる。

 真っ暗な中で交わされる会話、思わずハっとさせられるマリアン(タルラ・ライリーといえば『インセプション』のブロンドだけれど、ずいぶんと雰囲気が違うなぁ。こっちは、つい惚れちゃいそうだもん)の初登場シーン、人気DJが帰って来ると知ったときの伯爵の表情など、印象的な場面を軽快につないで見せていく上手さ、キャスティングの確かさもあって、お気軽なんだけれど密度も濃い作品として仕上がっている。

 で、本作最大のポイントは主人公カール(演じるのは『ザ・デンジャラス・マインド』のトム・スターリッジ)の扱いにあるのだと思う。
 このアンちゃん、実のところ、何もしていない。放送にかかわる仕事を手伝うわけでもなく、能動的になるでもなく、ただフラフラと、何者でもないままモラトリアムしているだけ。自分のルーツに興味はあるようだが、むしろ「ヤること」のほうが重要で、仲間に気遣われ、童貞を卒業すればみんなに喜んでもらえる。

 恐らくカールは、60年代後半から現代まで続く「新時代」の誕生を象徴するのだろう。
 無責任でヒッピーな価値観から生まれた自由主義が、でも自由でデカダンなだけじゃダメだよね、変化と進化を自分たちの手で作り出していかなくっちゃね、なんて小さなターニング・ポイントを迎えて、その新たな価値観の根底にあるのは「安らかな家庭を作りたい」という不器用な愛なんだと自覚する、そんな物語なのだ。

 ただ、ひとりきりだと立ち上がれないから、仲間がいて音楽があって、喜びや痛みを分かち合っていこうとする。その“分かち合い”のためのツールとして、ラジオがある。
 意地でも放送を続けようと決意するラジオ・ロック、そのシーンのBGMはクラシック調。そう、ロックでなきゃいけない理由なんてない。自らの心を奮い立たせるものであれば、なんだって「小さなターニング・ポイント」の背景にはふさわしいんである。
 これに対して政府側も実はロックしていて(手段を選ばない)、ちゃんとした民主主義が機能していない、未成熟な時代であることをうかがわせるのが面白い。

 この後、TV放送がスタートし、ラジオも含めて放送は民間に広く開放され、そこには商業主義も流れ込み、DJはパーソナリティと名前を変える。そんな「新時代」の流れの中でカールは大人として生きていくことになるのだが、ネットや携帯型音楽プレーヤーの登場で、「新時代」もすでに「旧時代」となってしまった感はある。
 いまの時代、僕らの生きかたはまた新たな価値観への置き換えを余儀なくされている。だからこそ、ノスタルジーとともにこういう作品が作られ、受け入れられるということなのかも知れない。

●主なスタッフ
 監督・脚本は『ラブ・アクチュアリー』のリチャード・カーティス。撮影は『英国王のスピーチ』のダニー・コーエン、編集は『ブルークラッシュ』『キンキーブーツ』のエマ・E・ヒコックス。
 プロダクションデザインは『ナイロビの蜂』『サンシャイン2057』のマーク・ティルデスリー、衣装は『スパイダーウィックの謎』『ワルキューレ』のジョアンナ・ジョンストン。
 音楽は『ダークナイト』などのハンス・ジマー、音楽スーパーバイザーは『ショーン・オブ・ザ・デッド』のニック・エンジェル、サウンドチームは『ホット・ファズ』のジュリアン・スレイターや『AVP』のサイモン・ガーションら。
 SFXは『28日後・・・』のリチャード・コンウェイ、VFXは『Vフォー・ヴェンデッタ』のリチャード・ビスコー、スタントは『1408号室』のポール・ハーバート。

|

« SAW ソウ ザ・ファイナル | トップページ | セントアンナの奇跡 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: パイレーツ・ロック:

» パイレーツ・ロック [風に吹かれて]
おバカで熱い不良オッサンたちに乾杯公式サイト http://www.pirates-rock.jp   監督・脚本: リチャード・カーティス 「ラブ・アクチュアリー」 [続きを読む]

受信: 2012/01/29 15:40

« SAW ソウ ザ・ファイナル | トップページ | セントアンナの奇跡 »