ブルックリン横丁
監督:エリア・カザン
出演:ペギー・アン・ガーナー/ドロシー・マクガイア/ジェームズ・ダン/テッド・ドナルドソン/ジョアン・ブロンデル/ロイド・ノーラン/ジェームズ・グリーソン/ルース・ネルソン/ジョン・アレクサンダー/フェリケ・ボロス
30点満点中18点=監3/話4/出4/芸4/技3
【下町に暮らす彼女たち】
20世紀はじめのブルックリン、下町のアパートに暮らすノーラン一家。いつかステージに立つことを夢見る“歌う給仕”ジョニーの稼ぎは少なく、家計を切り盛りする妻のケイティは、勉強が好きな長女フランシー、やんちゃな長男ニーリィを厳しく育てていた。シシー伯母さんの3度目の結婚、紳士的な警官マクシェーンとの出会い、フランシーの転校、貧しくとも温かなクリスマス……。やがて一家に、ある大きな転機が訪れることになる。
(1945年 アメリカ)
【現実の中でつかむ、小さな幸せのために】
本作で使われる「真実を語るための嘘は、嘘ではなく物語になる」というセリフに心を打たれるものがあって鑑賞。
他にも印象的な言葉が多数散らされてあって、シナリオ/会話主導の映画というイメージ。楽しい時間は永遠。(やっていて)気分が悪いことは間違い。心で考える。想像力は、ときに危険にもなるが、大切なもの。現実を受け止められるのが大人。……。
そうしたセリフをもとに、価値観の違いを抱えながらも肩を寄せ合い、奪い合いながら助け合うという奇妙なルールが支配する時代・土地に暮らす小市民の姿を、装飾なく描いていく。
小さな嘘(自分を誤魔化すための嘘も含む)と小さな希望を積み重ねて生きていく人々。自分がちょっぴりイヤになることも、置かれた境遇を恨みたくなることもあるけれど、結局は理想と現実のバランスを自分の中で取りながら前に進んでいくほかない。そんな様子が紡がれる。
いわば“小さな幸せモノ”とでも呼ぶべき内容。それは作られてから60年たったいまでも通用するテーマであり、「過酷な現実に立ち向かいながらも希望の花を心に咲かせる、人の強さと弱さ」は、人生普遍の真理ということなのだろう。
会話中心の構成で場面バリエーションは少ないものの、舞台を広く立体的に見せることに腐心し、1シーンが適度な長さにまとめられていてダレることはない。父ジョニーが好かれる理由、そんなパパが大好きなフランシーの様子、ケイティの葛藤といった一家の現状を、フランシー役ペギー・アン・ガーナーらの優れた芝居をベースとして、コンパクトにすくい取っていく手際もいい。大昔の下町の再現やイスの背もたれを使ってセットされるアイロン台など美術のディテールも楽しい要素だ。
正直、心が晴れやかになるような映画ではないだろう。かといって「どうせ小市民には小さな幸せがお似合い」と開き直ろうとも思わない。
ただ、窓の外では木が切られ、雪が積もり大雨が降る、一歩外へ出れば待っている厳しい現実社会を、しっかりと受け止めて立ち向かうためには、自分の立ち位置を把握し、自分なりの価値観を持って、自分の幸せを追い求めることが大切。そんなことを再確認させてくれる作品である。
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