きみがぼくを見つけた日
監督:ロベルト・シュヴェンケ
出演:エリック・バナ/レイチェル・マクアダムス/アーリス・ハワード/ミシェル・ノルデン/ロン・リヴィングストン/ジェーン・マクリーン/スティーヴン・トボロウスキー/マギー・キャッスル/フィリップ・クレイグ/フィオナ・リード/ブルックリン・プルー/ヘイリー・マッキャン/テイタム・マッキャン/アレックス・フェリス
30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4
【タイムトラベラーの妻】
母を事故で失った6歳の頃から、人にいえぬ“事情”を抱えて生きるようになったヘンリー。彼は、予期せぬ場所、予期せぬタイミングで、ある日のどこかへ飛んでしまうタイムトラベラーになってしまったのだ。成長したヘンリーはアーチストのクレアと知り合う。少女時代から何度も、時を越えてやって来るヘンリーと会っていたという彼女。やがてヘンリーとクレアは結婚するのだが、ヘンリーの特殊な事情が夫婦生活に影を落とすのだった。
(2009年 アメリカ)
★ややネタバレを含みます★
【タイムトラベル・ラブの秀作】
時間を超えて恋人を見守るという状況は星野之宣の『遠い呼び声』を思わせるし、特殊な事情ゆえの悲恋はバンパイア映画と共通する要素。そういう意味では真のエポックとはいえまい。
だが、時間跳躍能力を“体質”と位置づけ、思いも寄らない時空へいきなりジャンプ、服は時間旅行できないので素っ裸とか、飛ぶ際に予感があるとか、もはやヘンリーは自分の事情に慣れている(対処法を確立している)とか、正常時間軸のヘンリーと跳んできたヘンリーが入れ替わったりとか、設定の細かな部分にまで気を払ってある。
また「なぜ跳ぶのか?」については遺伝に因を求めながらも「そういうもの」と割り切って適度に端折り、けれど物語の行く末を左右する重要なキーとしても機能させる。
つまり、設定をただの設定に押し止めるのではなく「だから、こういうことが起こる」とストーリー/展開を無理なく広げる手際がいいのだ。
ヘンリーとクレアが抱く「失いたくないものは、手に入れることを望まないと決めていた」とか「あなたの子どもが欲しい」といった想いや、いまの自分のライバルは未来の自分(または過去の自分)という皮肉は、特殊な事情を抜きにしても愛する者どうしに渦巻く感情。そういう要素もしっかりと盛り込んで、オトナのラブ・ストーリーへと昇華させている。
全体に、タイムトラベルものとしての新しさと手堅さ、恋愛モノとしての切なさを上手くミックスしてまとめてあるといえるだろう。
オードリー・ニッフェネガー著の原作小説が持つパワーだけでなく、脚色の力もかなり大きかったはず。「ラブ・ストーリーに必要なのは愛じゃなくて哀」ということがわかっているからこそ、こんな風に上手くまとめられるのだと思う。
描きかたも上々で、まずはショッキングなオープニングでグっと観る者の心をツカむことに成功。その後も1シーン/1カットずつを丁寧に、カメラを大仰に動かすことでドラマチックに撮っていく。とりわけ、6歳のクレアと現代のクレアの走る姿をリフレインさせた場面がお気に入りだ。
オイリーながらアンダーな画質、しっとり沈むようなサウンドトラックは悲劇を予感させるし、生活感のある美術と衣装も「実在としての彼と彼女の遠さ」という雰囲気を加速させる。
それらパーツの組み立て/アレンジにも優れていて、『フライトプラン』の評判がイマイチだったロベルト・シュヴェンケの力量は意外と高そう。監督としてスピルバーグやガス・ヴァン・サント、デヴィッド・フィンチャーなども候補に挙がったそうだが、本作の「底辺に暗さと哀しさが流れながらも、決定的にやるせなくはならない」空気感を、この3人に出せたかどうかは疑問だ(まぁスピルバーグかフィンチャーなら、また別の魅力を創出できただろうが)。
キャストも、当初はブラピ(本作では製作総指揮)とジェニファー・アニストンとか、エイドリアン・ブロディやエヴァ・グリーンの名前も挙がったらしいが、この出来上がりこそが正解だろう。
エリック・バナは依然としてエリック・バナだけれど、適度な木偶の坊さ加減が「運命に翻弄される男」という役割にピタリとハマっている。
レイチェル・マクアダムスの可愛らしさは、いうまでもなし。ヘンリーとの“正常時間での初対面”における輝く笑顔、ちょっとした嫉妬、苦悩、寂しさ、決意や喜びなど、あらゆる感情を画面いっぱいに撒き散らして、実に魅力的だ。少女時代のクレアを演じたブルックリン・プルーちゃん(『ブロークバック・マウンテン』や『ジェシー・ジェームズの暗殺』)も、さすがに上手い。
ケチをつけるとしたら、夫婦生活+時間の行き来の中で見られるヘンリーとクレアの成長・変化が、あまり有機的でも鮮やかでもない点。初対面のシーンで大人のヘンリーと少女クレアの大きさの違いを印象づけたのはよかったが、それ以後も「おたがい相手のおかげで成長・変化していった」という雰囲気が欲しかったところ。若い頃と中年期のヘンリーの見た目の違いも、もう少しあってよかっただろう。
が、それらは些細な注文。「フツーに考えたら、ヘンリーは施設に収容されているか指名手配されているだろ」というのも野暮なツッコミだ。
タイムトラベルものやラブロマンスとしてだけでなく「のこされた者のための映画」という温かさもあって、なかなかの秀作である。
あと原題『The Time Traveler's Wife』に、この邦題をアテた人に対しても花丸を差し上げたい。
●主なスタッフ
脚色は『ゴースト/ニューヨークの幻』のブルース・ジョエル・ルービンで、撮影は『プラダを着た悪魔』のフロリアン・バルハウス、編集は『パッセンジャーズ』のトム・ノーブル。
美術は『リバー・ランズ・スルー・イット』や『ホリデイ』のジョン・ハットマン、衣装は『ボビー』のジュリー・ワイス。音楽は『リトル・ミス・サンシャイン』などのマイケル・ダナ、音楽スーパーバイザーは『マグノリア』のボブ・ボーウェン、サウンドエディターは『アイランド』のデイヴ・マクモイラー。
SFXは『トロン:レガシー』のアレックス・バーデット、VFXは『オペラ座の怪人』のデイヴィッド・ジョーンズ、スタントは『SUPER 8』のジョン・ストーンハムJr.。
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