インフォーマント!
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:マット・デイモン/スコット・バクラ/ジョエル・マクヘイル/メラニー・リンスキー/トニー・ヘイル/トム・パパ/リック・オーヴァートン/トーマス・F・ウィルソン/アンドリュー・デイリー/トム・スモザース/スコット・アツィット/エディ・ジェイミソン/ラスティ・シュワイマー/アン・ダウド/アラン・ヘイヴィ/ジェイデン・ランド/ルーカス・マクヒュー・キャロル/神田瀧夢
30点満点中17点=監3/話3/出4/芸4/技3
【密告者となった男の受難】
1992年のイリノイ。大手化学メーカーADM社に勤めるマーク・ウィテカーは、食品添加物リジンを精製する工場の責任者だ。だがウイルス発生のため生産量を上げられず、社はピンチに。彼は自らの身を守るべくある嘘をつくが、その嘘がFBIの捜査を呼び込み、さらにマークはブライアン・シェパード捜査官に会社の大きな不正を密告する。潜入捜査に協力することになったマークは、嘘と秘密で固められた生活を送るうちに……。
(2009年 アメリカ)
【ふわっふわっで押し通す】
相変わらずソダーバーグの語り口とリズムは、どこかふわっふわっとしていて居心地が悪い。
まぁテーマがテーマだけに「マークは何を望んでいるのか?」や「実際に何が起こっているのか」を明らかにせず、彼の焦燥感だけを拾いながらジリジリと進めるのはいいとしても、1~10の出来事のうち、普通なら1と4と7と10を描くところを、3と6と9で構成するようなイメージ。
おまけにマーヴィン・ハムリッシュのサントラは、完全に大仰なスパイもののノリで内容とはアンバランス(もちろん確信を持ってそうしてある)。その“ハズシ”によって観る者を置いてけぼりにするというか、シリアスとコメディの間で落ち着かず、「さぁて、どういう話なんでしょうかね」とスラっトボケている感じ。
劇中で『ザ・ファーム/法律事務所』が登場し、マークは自分をトム・クルーズになぞらえるけれど、彼の行くところに正義はない。あるのはただ錯乱だけ。主人公がふわっふわっとしているんだから、映画全体の印象がそうなっても無理はない。
でも、その“ふわっふわっ”がフニャフニャにはなっていない。
いかにも数十年続いていますというADM社や、その重役としてちょっと豪勢な暮らしをするウィテカー家の様子(美術スタッフは『クローバーフィールド』や『ミニミニ大作戦』のダグ・J・ミーアディンク、『スター・トレック』のビリー・ハンター、『トロン:レガシー』のデヴィッド・スコット)を、ソダーバーグ自身のカメラが侘しげな空気感とともに拾い上げていて、なかなかにいい雰囲気。
また、あえて「ここは見せません」というカット(結ばれる夫婦の手や証拠となる書類など)が多用され、真実は見えないところにある、というメッセージも発せられている。
役者も上質。マット・デイモンは苛立つおっさん会社員をまっとうし、シェパード捜査官役スコット・バクラの「頼むよ、おい」という倦怠感、マークの妻ジンジャー役メラニー・リンスキーの「お願いよ、あなた」という孤独感も相当に上手い。
で、全体としては、やっぱり「お前(マーク)、結局のところふわっふわっしすぎやろ」という気持ちは残るものの、いつしかお尻のムズガユサは忘れて、「まぁこういうヤツの身勝手さと犠牲のおかげで世の中は回っているのかもね」的な感想へと向かっていく。
しっくりこない人間に周囲がかき回された、しっくりこない事件を、しっくりこない演出のソダーバーグが、カッチリとしたパーツを揃えてまとめてみたら、不思議と味わいのある作品が生まれた、といったところだろうか。
ちなみにモデルとなっているのは、実際に味の素や協和発酵が関わっていた国際カルテル事件。わが家の買い置き食料の原材料・成分欄に「リジン」は見当たらなかったけれど、「調味料(アミノ酸など)」に含まれているのだろうか。
そういう、日本人にとっても身近な大事件を、いわゆる“社会派”を気取って告発したり問題提起をしたりするのではなく「大きな出来事の真ん中には、こういう“ふわっふわっ”があったのかも知れませんね」とスラっトボケてみせる映画である。
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