母なる証明
監督:ポン・ジュノ
出演:キム・ヘジャ/ウォンビン/チン・グ/ユン・ジェムン/ソン・セビョク/キム・ビョンスン/チュン・ウヒ/イ・ヨンサク/ムン・ヘラ/イ・ミド/ジャン・ピルキョン/キム・ジョンウク/イ・ソンヒョン/ムン・ボクドン
30点満点中19点=監4/話4/出4/芸4/技3
【息子の無実を証明するために】
頭が弱く、記憶力も悪いトジュン。友だちといえばゴロツキでトラブルメーカーのジンテだけで、この日もトジュンが轢かれかけたとクルマの持ち主を恐喝、警察沙汰になる始末だ。ある夜、酔って女子高生の後をフラフラと追うトジュン。次の朝、女子高生の遺体が見つかり、わずかな物証からトジュンが逮捕される。トジュンの母は息子の無実を信じ、なけなしの金で弁護士を雇い、ジンテが真犯人だと考えて独力で調査も開始するのだが……。
(2009年 韓国)
★ややネタバレを含みます★
【汚れも厭わぬ愛】
手持ちカメラでブレも気にせず撮る場面、あるいはちょっとリズムを外したシーンも多く、たっぷりとした間(ま)があり、画面はくすみがち、やや古い撮りかたに思える。少なくとも『殺人の追憶』や『グエムル -漢江の怪物-』、『TOKYO!』などポン・ジュノ監督の過去作ほどスタイリッシュや鋭角的な見た目ではない。
が、そこから何度も急転、出しながら飲む、暗闇から投げられる石、行為中のしりとり……と、日常の中に潜む不条理な光景をドカっと示し、予想外の展開ばかり叩きつけてくる。
生まれるのは、静かで冷ややかで心を急がせる空気感、真実がどこにあろうと結局は悲劇にしかならないだろうという予感。一応は母親が探偵役を務める謎解きモノといえるが、「何があったか」「誰が犯人か」といった事実よりも、この居心地の悪い空気・感覚の中で這いずり回る“母親の姿”を描いて見せることに主眼は置かれている。
その母親=キム・ヘジャがいい。自らを倒錯へと追いやるダンス、常識と非常識、ビニール手袋を外すことさえ忘れて没頭する熱意、へつらい、絶望と狂気……。この役柄を全身でまっとうする(LA批評家協会賞女優賞)。ウォンビン(兵役とヒザ手術リハビリからの復帰作)の、おたおたや、可愛い顔だからこそ痛々しいキャラクターメイクも上出来だが、やはりキム・ヘジャの存在に負うところが大きい映画、と思わせる芝居だ。
母親の苦闘とともに全編を通じて印象づけられるのは、液体。立ち小便、クスリ、ペットボトルの水、チューブから吐き出される絵の具、降りしきる雨、ぬかるみ、そして血。地面は常に汚され続ける。
大地といえば母の象徴。何をいわんとしているかは明らかであり、それはラストシーンでさらに鮮烈なものとなる。バスの中、トジュンの母も他の母親たちもいっしょくたになって踊り狂い、もはや見分けはつかない。
トジュンの母だけでなく、すべての母親は、みな同じ。汚れも厭わぬ愛で大切なものを守り続けるのだろう。
もちろん「濡れる地面」も居心地の悪さをもたらすものであり、そういう意味では“何を描くか”と“どう描くか”とをイコールで結びつけたような作品ともいえる。
相変わらず、この監督は切れている、と感じさせる1本だ。
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