第三の男
監督:キャロル・リード
出演:ジョセフ・コットン/アリダ・ヴァリ/トレヴァー・ハワード/バーナード・リー/ポール・ハービゲル/エルンスト・ドイッチュ/ジーグフリード・ブリュワー/エリッヒ・ポント/ウィルフリード・ハイド=ホワイト/ヘドウィグ・ブレイブトル/オーソン・ウェルズ
30点満点中19点=監4/話3/出4/芸4/技4
【親友の死、その真相を追って】
大戦後、各国によって分断統治されているウィーンに、親友ハリー・ライムを頼ってやって来た米国人小説家ホリー・マーティンス。だが彼を待っていたのは事故死したハリーの葬儀だった。ハリーの恋人アンナ・シュミットやハリーの友人だというクルツ男爵とルーマニア人ポペスク、アパート管理人などの話を聞くうち、事故ではなく殺人ではないかと考えたマーティンスは、英国軍キャロウェイ少佐の警告を無視して独自に調査を始める。
(1949年 イギリス)
【クラシックと呼ぶにふさわしい1本】
全体に格を感じる仕上がり。ただ「撮る」のではなく、こっちからこんなサイズでこう「撮りたい」という意志があふれている。
ナナメだったり、タテ方向と奥行きを常に意識していたり、とにかく大胆な構図の連続。闇と光も巧みに使い分け、とりわけオーソン・ウェルズの登場シーンは、彼のイタズラっぽい顔ともあいまって鋭角的。おなじみのテーマソングが、さまざまなシーンでリフレインされるのも面白い。
何かを表現するとか、特定の心情を表すためというより、ただただこの作品を印象に残すことが目的、という、ある種の潔さのようなものを感じる。確かに他にはない、どこか1カット取り出すだけで『第三の男』だと紛れもなくわかるような、独特の映像世界。
ただし極端に奇異にはならず、見知らぬ町での不安、気まずさ、親しみ、疑問などを適度に示すなど、必要なことは手堅くうつし、サスペンスをジワリと盛り上げる程よいバランス感覚も維持。キャロウェイがハリーの悪事についてマーティンスに説明する場面、あるいはマーティンスを乗せたタクシーが疾走するシーンなどリズムとスピード感も上々だ。
素人探偵が意外な事実に迫るという設定、予想外の展開、素性がわからぬ者たち、子どもという無垢な存在によって呼び起こされる恐怖など、盛り込まれた要素は多彩ながらよく整理されていて、「地獄に昇ったか、でなければ天国に落ちた」とか「未練なんかないわ。でもまだ私の一部なの」といったセリフもシャレている。
悪党側でも話が進むなど視点の揺らぎは気になるし、マーティンスとハリーの関係、ハリーとアンナの関係、ハリーの無実を証明しようとマーティンスが思い立つ動機など、もう少し掘り下げてもよかったと思うが、サスペンス/ミステリーのバイブルとしても機能しそうなパッケージとなっていて、クラシックと呼ぶにふさわしい1本といえるだろう。
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