正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官
監督:ウェイン・クラマー
出演:ハリソン・フォード/レイ・リオッタ/アシュレイ・ジャッド/ジム・スタージェス/クリフ・カーティス/アリシー・ブラガ/アリス・イヴ/サマー・ビシル/ジャクリーン・オブラドルス/ジャスティン・チョン/メロディ・カザエ/メリク・タドロス/マーシャル・メナシュ/ナイラ・アザド/シェリイ・マリル/リジー・キャプラン/マハーシャラハシュバズ・アリ/レイ・バレンティン/オゲチ・エゴヌ/アラミス・ナイト
30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3
【この国で暮らすために】
LAにある移民税関捜査局(I.C.E.)。捜査官マックスは強制退去となったメキシコ人女性の行方を探し、相棒ハミードは父の帰化式典を心待ちにしながら勝手な妹の行動を気に病んでいた。永住権欲しさに、判定官コールに身体を売る女優クレア、偽りだらけの書類でグリーンカードを得ようとするギャヴィン、不法滞在者専門の弁護士デニス、危険な思想を持つとして拘束された女子高生タズリマ、犯罪に巻き込まれるヨンらの未来は?
(2009年 アメリカ)
【移民に可能性を与え、移民から自由を奪う国】
オープニング・クレジットで「やけに多民族のキャストだなぁ」と思ったら、それもそのはず。堅苦しいタイトル(原題は『Crossing Over』)とハリソン・フォード主演からイメージするようなアクション系刑事ドラマではなく、『クラッシュ』や『扉をたたく人』などとテーマを同じくする移民問題群像劇(監督自身、南アフリカ出身の移民らしい)である。
黒い人形。アフリカ系に苛められるアラブ系。危険防止のために統制される思想と言論。揶揄されるのは、部下の大勢いる弁護士が誰よりも偉く、大切な会話の途中でも携帯電話に出て問題ない、アメリカ流の正しさ。
世界にはさまざまな価値観があり、その価値観のズレや歪みを許容しない狭量さこそが住みにくい社会を生んでいる、という事実を、捜査官や不法滞在者など当事者たちのパーソナルな出来事に落とし込んで描いていく。
LAっぽい乾いた空気感の中に広がるその住みにくい世を、フレームを広く使い、陰影や舞台の立体感にも気を遣った撮影(『サンキュー・スモーキング』のジェームズ・ウィテカー)が丁寧かつスケール豊かで、いい。おなじみマーク・アイシャムのスコアも物悲しい。
演じるのは前述の通り多国籍な面々だが、ざっとキャストのルーツを調べてみたら、ハリソン・フォードはアイルランドとロシアとユダヤ、レイ・リオッタは「養子として育てられ、自身はイタリア系が混じっていると思っていたが純粋なスコットランド系だった」とWikipediaにあり、クリフ・カーティスは『クジラの島の少女』で演じたようにニュージーランド・マオリ、サマー・ビシルは父親がインド系、アリシー・ブラガはブラジル出身、ジム・スタージェスとアリス・イヴはイギリス生まれ……と、役柄と実際とがかなり錯綜している。
いわゆる“9・11以後”に属する作品を観ていてたびたび感じることなのだが、本作もまた「見た目と事実との違いに、あなたたちは気がつかないか、あるいは気にも留めない」というメッセージを含むキャスティングなのだろう。また「国籍や出自がどうあろうと、1つの優れたものを作り上げる力がある」ことの証であるとも思える。
そして明らかにされるのは「結局のところ、人次第」だということ。住みよい社会を作るために必要なのは“理解”や“許容だが、そこには“誤解”や“恐怖”が混じることもある。間違いも怯えも人の性質だ。
いっぽうで、ギャビンを助けるラビ、帰化式を明日に控えたヨンと向き合うハミードの態度からわかるように、“信頼”や“希望”や“許し”もまた人が人に示せる心であるはず。
安全を守るための法律・ルールで人を苦しめ、法律・ルールを破って人を助ける、そうした「人のありよう」に迫る作品といえるだろう。
ストーリー面ではコールの心変わりが唐突な点、作りではカットのつなぎの乱暴さが残念だが、全体にセンスよく撮られていて、問題を提起するパワーも持つ映画である。
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