バッド・ルーテナント
監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
出演:ニコラス・ケイジ/エヴァ・メンデス/ヴァル・キルマー/アルヴィン・“イグジビット”・ジョイナー/フェアルーザ・バーク/ショーン・ハトシー/ジェニファー・クーリッジ/トム・バウアー/ヴォンディ・カーティス=ホール/ブラッド・ドゥーリフ/デンゼル・ウィッテカー/イルマ・P・ホール/シア・ウィガム/マイケル・シャノン/ジョー・ネマーズ/J.D.イヴモア/ティム・ビロウ/ルシウス・バストン/ランス・E・ニコルズ/ニック・ゴメス
30点満点中17点=監4/話4/出3/芸3/技3
【それは穢れた正義か、美しき悪徳か】
ハリケーン・カトリーナ襲来直後、荒れ果てたニュー・オリンズ。勇敢な行動で警部補に昇進したテレンス・マクドノーは、麻薬密売人一家惨殺事件の捜査を指揮することになる。が、テレンス自身も娼婦の恋人フランキーと麻薬に溺れており、証拠隠滅や強権的な態度も厭わず、ギャンブルに入れあげて借金や内部調査にあえいでいた。事件の容疑者として売人ビッグ・フェイトが浮かび、目撃者の保護にあたるテレンスだったが……。
(2009年 アメリカ)
【この閉じた世界】
ヘルツォークは肌に合わないと思っていたのだが、意外と真っ当。青白い冷たさと赤茶けた荒廃感をミックスさせた色調で、顔には陰影を作り、善も悪もいっしょくたになって存在する世の中、というテーマをわかりやすく表現する。カット数は少なく、対象との距離も近くてインディペンデント風味がぷんぷんと漂うものの、その範囲内では手堅い撮りかただ。
テレンス役のニコラス・ケイジにつきっきり、彼のお芝居を存分に見せる作品ともいえる。左肩を常に上げ、くたびれたような猫背、苦しそうに腰掛ける姿。ちょっとやりすぎではあるけれど、閉塞の中でどうしようもなく足掻く男の“躁”はよく出ている。
で、観る者は「どうしようもない事に振り回される彼」に振り回されることになる。テレンスの中に息づく正義に期待する自分もいるし、彼が悪徳によって落ちていく様を見たいと思う自分もいる。
しかし、彼は彼のまま。ただ、語られ、思い知らされるのは、自分の未来はどっちにでも転ぶ可能性があるということだ。
正義の不在、あるいは何をもって正義とするか、何が悪なのかと問題を投げかける内容でもある。自堕落で信用ならないテレンスだが、彼に救われた者がいるのも事実だし、彼のような存在がピースとなって社会というパズルが完成するのもまた事実なのだろう。
結局のところ、人生、計略が5割、運が5割。どうしようもないと思えることでも計略次第ではどうにかできるし、何とかなりそうなことでも運次第でズブズブと深みにはまることはある。
そして、自分のおこないに与えられるのが“請求”なのか“報酬”なのかはわからないし、それが半年先になるのか1年先なのか想像もできない。
未来が読めないならば、正義とか倫理とか考えるより先に、何とかできそうなことを何とかしてみようとする態度しか取りようはない。
ラスト・シーンの水族館は、食うものも食われるものも仲良く狭い世界で生きていることを示しているのだろう。その外へ出ることがかなわぬなら、フワフワと泳ぎ続けるしかないのだ。
そんな閉じた世界をシニカルに描く作品である。
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