ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
監督:スティーヴン・ダルドリー
出演:トム・ハンクス/サンドラ・ブロック/トーマス・ホーン/ゾー・コードウェル/ヴァイオラ・デイヴィス/ジェフリー・ライト/ジョン・グッドマン/スティーヴン・ヘンダーソン/ヘイゼル・グッドマン/クロエ・ロー/ウィリアム・ユーマンズ/マックス・フォン・シドー
30点満点中20点=監4/話3/出5/芸4/技4
【パパが残した鍵、その鍵穴を探して】
宝石商のパパと会社員のママを持つオスカー・シェルは9歳の少年。ニューヨークの調査研究や、パパが見せる肩をすくめる仕草が大好きだ。だが平穏なオスカーの日々に3・11が訪れ、彼のパパは帰らぬ人となる。1年が経ち、パパのクローゼットから1本の古い鍵を見つけるオスカー。この鍵に合う鍵穴を見つけ出せれば、パパの死を受け止めることができるかも……。オスカーは鍵の袋に書かれた「ブラック」の文字を頼りに調査を始める。
(2011年 アメリカ)
★ネタバレを含みます★
【絶対的な真実が、そこにある】
ありふれたテーマ/ストーリーといえるかも知れない。「アスペルガー症候群の疑いがある少年の目線」という特異性はあるものの、残された者が自ら定めた使命に取り組み、その過程で、または結果として、喪失感からの再生を得る。そういうお話はいくつも語られてきた。
さらにいえば本作は、その再生の方法に関して明確な答えや希望を用意しているわけではない。むしろオスカーにとっては(観客にとっても)、期待とは異なる旅の終着点が待っている。
それでもこの映画が感動を生む(ぶっちゃけ2時間のうち半分は映画館のシートで泣いていたと思う)のは、ディテールや個々のパートの確かさと、“明確な答え”以上の“絶対的な真実”があるからだろう。
最悪の日を機に変わってしまったもの、変わらずにあるもの、オスカーの身の回りに潜む恐怖のもと、ライナスの毛布として機能するタンバリン、人それぞれが抱える苦しみや希望、ドアマンとの口汚い交流の中に含まれる平穏、一気に吐き出される溜め込んだ感情、モノゴトとモノゴトとの意外な結びつき、導く父性、放り出す父性、自分の知らないところから自分に注がれていた視線……。
そうした人やモノや出来事たちを、丹念に、明かりも音も整然と、しっかり切り取っていく。
多くを説明することはない。1シーンに長く時間を割くわけでもない。だがコンパクトで言葉少ないながらも背景まで感じさせるように、実在感と美しさとを両立させながら、オスカーと、彼の周囲に広がる世界を作り、うつし出していく、といった感じ。
たとえばパパの葬式のシーンでのオスカーは、パジャマ姿。もうそれだけで「来たくなかったのに連れ出された」という経緯がわかる。しきりにニオイや肌触りを感じ取ろうとするオスカーの姿に、彼の価値観や対象物への向き合いかたが浮かび上がる。オスカーが出会う数多くのブラックさんたちそれぞれに、それぞれの生活があることも滲み出ている。そうした描写の細やかさが、いい。
また印象的なのは、あるときは寄り添い、またあるときは俯瞰ぎみに捉えられるオスカーの様子と、そのオスカーがWTCから落下する人たちを「パパかも知れない」といい、けれど「多くの子どもが同じようにこの写真を見ているだろう」とも認識していること。
世界はその人のためだけにあり、と同時に、その人は世界の一部であるという、本作の底に流れる主張を表現する撮りかたと設定だ。
今回助演男優賞にノミネートされたマックス・フォン・シドーをはじめ、アカデミー賞級の役者がズラリ勢ぞろいしているわけだが、その面々を完全に食ってしまっているオスカー役、トーマス・ホーン君が素晴らしい。
クイズ番組に出演していたところがスタッフの目にとまり、オーディションを経て、これがデビュー作なんだとか。いつもながら、これだけの才能がポンと音を立てて簡単に飛び出してくるアメリカの“映画という場における底知れなさ”に恐れ入る。
で、彼の旅路の果てに、オスカー自身と観る者が思い知らされるのは、生きざまが人それぞれであるように、死への向き合いかたも人それぞれなのだという事実。自分なりの方法で死に向き合いながら、とりあえず生き残った者は生き残った者どうし、たがいに助け合い、相手のいい面と悪い面を認め合いながら、やれることをやっていくほかないのだ。
それこそがまさに“生きる”こと。そんな絶対的な真実を、温かく伝えてくれる作品なのである。
●主なスタッフ
原作小説を『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のエリック・ロスが脚色し、監督は『リトル・ダンサー』や『愛を読む人』のスティーヴン・ダルドリー。
撮影監督は『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』のクリス・メンゲス、編集は『ナイロビの蜂』のクレア・シンプソン。プロダクションデザインは『かいじゅうたちのいるところ』のK・K・バレット、衣装は『グッド・シェパード』などのアン・ロス。
音楽は『英国王のスピーチ』のアレクサンドル・デスプラ、サウンドチームには『アイアンマン2』のデビー・ファンポーク、『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』のヘザー・グロス、『ラッキー・ナンバー7』のダニー・マイケルら。VFXは『ビッグ・フィッシュ』のケヴィン・スコット・マック。
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