ヒューゴの不思議な発明
監督:マーティン・スコセッシ
出演:エイサ・バターフィールド/クロエ・グレース・モレッツ/ベン・キングズレー/サシャ・バロン・コーエン/ヘレン・マックロリー/エミリー・モーティマー/クリストファー・リー/マイケル・スタールバーグ/フランシス・デ・ラ・トゥーア/リチャード・グリフィス/レイ・ウィンストン/ジュード・ロウ
30点満点中18点=監3/話2/出4/芸4/技5
【そのカギが開くのは、秘密の過去】
1930年代のパリ。技師だった父を亡くした少年ヒューゴ・カプレは、大きな駅の壁の中に住んでいた。誰にも見られない通路を進み、駅じゅうの時計を調整するのが彼の仕事だ。と同時に、構内のあちこちからネジや歯車を盗むヒューゴ。父の形見であるオートマタ(機械人形)を修復しようとしているのだ。だが、おもちゃ屋の老店主パパ・ジョルジュに捕まり、オートマタの仕組みを記したノートも取り上げられてしまった彼は……。
(2011年 アメリカ)
★ややネタバレを含みます★
【技術はさすが、お話はブレまくり】
最近のお気に入りのひとり、クロエ・グレース・モレッツちゃん。観るたびに“オンナ”っぽくなっていくなぁ。イメージでいうと「数年後の芦田愛菜」とか「金髪で若い石原さとみ」だろうか。このコにグーで殴られても笑っていられる自信がある。
タイトルロールのエイサ・バターフィールド君も美形で、薄汚れたカッコとピシっと決めた姿の健やかなギャップがいい。若い子好きとしては、なかなかに楽しいキャスティング。
もちろんそれだけの映画じゃない。作りとしても、もうアヴァンタイトルの部分からシビレさせてくれる。広がりと高低差にあふれる駅構内のデザイン、人物の配置、雪や水蒸気の浮遊感など、あらゆる部分において「いかに3Dを体感できるか」にこだわった仕上がり。いや、それにしてもサシャ・バロン・コーエンのドアップが3Dって、かなり笑えるぞ。
おまけに豪胆ともいえるカメラワークで観客をその世界の中へと誘ってくれて、下手したら3D酔いを起こしそうなほど。音響も立体的で、間違いなく映画館の大スクリーンと3Dとサラウンドで観るべき映画だろう。
これが初の3Dなのに、スコセッシったらキモをしっかり掴んでいらっしゃる。というより5部門のオスカー受賞が物語る通り、スタッフがそれぞれの仕事を高いレベルでまっとうした結晶といえそうだ。
そうした技術、とりわけ最新のデジタルワークで“手作り”への懐古に挑んだ、いわば倒錯の味わいが本作の特色。
オートマタとネジと歯車とゼンマイには「ICチップよりメカだよね」的なノスタルジーを感じるわけだが、無声映画のアーカイブや過去の名画を思わせるカットが散りばめられていて、往時のフィルムへの愛もたっぷりだ。
はい、リュミエール兄弟のフィルムも『月世界旅行』も観ていますよ。そういう映画好き・映画ファンには嬉しい作品かも知れない。パパ・ジョルジュの正体がわかった瞬間、鳥肌が立ったもの。
でもいっぽうで、映画好きとして看過できない点もある。お話として上手にまとまっていないのだ。
ともに両親を失くしている主人公とヒロイン、忘れ去られることで大切なものを失ったパパ・ジョルジュ、彼の栄光をなんとか世に知らしめたいと願う作家、戦争で傷を負った鉄道公安官。失意と喪失感の中で「自分に与えられた役割」を探し求める彼ら……。
そういうテーマは上等だと思うのだけれど、最初はヒューゴとパパの関係に軸を置きながら、コミカルな音楽+ベタなドタバタという“お子ちゃま向けコメディ”を交えて、あっちこっちとブレまくり、結局パパ・ジョルジュと彼の過去(というか前述のノスタルジー)が着地点、ラストはイザベルの一人称。どこへ向かっているのか、かなり不安定な進行だ。
また、このオートマタを直せれば父に近づけるとか、飽きられて忘れられてヤんなっちゃったとか、主役たちの動機や行動基準が乱暴で短絡的で同調できないのが痛い。冒険譚が好きなイザベル、横暴だが人はいいはずの鉄道公安官、意味ありげな本屋のムッシュのしかめっ面、犬を介した老カップルの恋など、要素ばっかり詰め込んで描き込まれていないものも多い。
この脚本家、『タイムマシン』でも「途中から話が変わっとるやん」と感じさせられたんだよな。いずれも原作からしてそうなんだろうけれど、小説なら許される“ブレ”も、2時間の映画だと気持ち悪くなる。
あれ? 結局なんの映画なの、とモヤモヤしてしまう後半。これを解消するには前半(というよりヒューゴとパパの関係)から練り直さなくちゃいけないけれど、そこがクリアされれば文句のない傑作になるのだが。
●主なスタッフ
ブライアン・セルズニックの原作小説を『エニイ・ギブン・サンデー』のジョン・ローガンが脚色。
撮影は『グッド・シェパード』のロバート・リチャードソン、編集は『救命士』のセルマ・スクーンメイカー。プロダクションデザインは『スウィーニー・トッド』のダンテ・フェレッティ、衣装は『恋におちたシェイクスピア』のサンディ・パウエル。音楽は『ロード・オブ・ザ・リング』のハワード・ショア、サウンドエディターは『ソルト』のフィリップ・ストックトン。VFXは『アバター』のロバート・レガト。
ここまでは『シャッター アイランド』や『アビエイター』あたりでも仕事をしていて、いわばスコセッシ組。
ほかでは、音楽スーパーバイザーが『マイレージ、マイライフ』のランドール・ポスター、サウンドミキサーは『英国王のスピーチ』のジョン・ミッドグレイ、SFXは『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』のジョス・ウィリアムス、スタントは『SAYURI』のダグ・コールマン。
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