裏切りのサーカス
監督:トーマス・アルフレッドソン
出演:ゲイリー・オールドマン/ベネディクト・カンバーバッチ/トビー・ジョーンズ/コリン・ファース/キアラン・ハインズ/デヴィッド・デンシック/トム・ハーディ/マーク・ストロング/サイモン・マクバーニー/キャシー・バーク/スティーヴン・グレアム/ステュワート・グラハム/コンスタンティン・カベンスキー/スヴェトラーナ・コドチェンコワ/ウィリアム・ハドック/ジョン・ハート
30点満点中17点=監3/話3/出4/芸4/技3
【裏切り者は誰だ?】
冷戦下の1970年代、“サーカス”の通称で知られる英国諜報部。東側の罠にはまって優秀な諜報部員ジムを失った責任を負わされ、コントロールとその片腕スマイリーはサーカスを追われる。が、残ったトップ4人、パーシー、ビル、ロイ、エスタヘイスの中に“もぐら”、すなわち二重スパイのいる疑いが浮上し、スマイリーは極秘調査を命じられる。果たして裏切り者は誰なのか? どのような策謀がサーカスの中で蠢いているのか?
(2011年 フランス/イギリス/ドイツ)
【あの衝撃を期待すると、物足りず】
前日に『ぼくのエリ 200歳の少女』を観て、こりゃこの監督の映画は落とせないぞと急遽の鑑賞。が、期待したような衝撃は得られず。
いや、本作だってダメな作品ではない。
見せて読み取らせる作りは『ぼくのエリ』と共通しているし、捜査にあたる人物たちが「本当に誰も信用できない」と思い知らされながら少しずつ核心に迫っていく展開、意味ありげなカットをサラリと盛り込んだり時制を分解・再構成したりして謎を増す手際などは、なかなかのもの。
電話の音も床の軋みも音楽といっしょくたにして聴かせるユニークなサウンドメイクとか、当時のロンドンを感じさせる美術・衣装など各パーツの仕事もいい。
しぶいオッサンたち、しかも各賞受賞&ノミネート級を揃えた出演陣にも迫力と重厚さがあり、お芝居映画としての質の高さがあるともいえる。
とりわけ主演ゲイリー・オールドマンは、いつもはどこかに浅はかさとか狂気とか情熱といった“陽としての悪”を感じさせるのに、今回はグっと静かに沈んで「スパイの宿命」「仕事男の悲哀」を噛み締める“陰”の姿がカッコイイ。
と、全体として丁寧に作ってあって格のある映画だとは思うのだが、『ぼくのエリ』に比べれば真っ当すぎるという印象が否めない。「うわっ」という驚きや心に残る描写の妙のようなものは、ほとんどない。
それはまぁ作品の内容・雰囲気に応じた真面目な作りとして評価することもできるのだけれど、その割には“伝わりにくさ”が前面に出てしまっている点が痛い。
頻出する隠語に、人物を姓で呼んだりファーストネームで呼んだりと一定しないセリフ(または字幕翻訳)。疑惑の対象である4人も、さすがに顔つきはみんな違うものの、スマイリーと因縁のあるビル以外はキャラクター描写が希薄、誰が何を目的にどんな仕事をしているかも描写不足。
また、事の真相に迫るためのファクターや心理についての“描写の重みづけ”のようなもののバランスが取れておらず、スマイリーが「いまの時点でどこまで推理・把握しているのか、何がキッカケでそれに気づいたのか」というミステリーとしての大切な部分の扱いがマズイ。
ラスト、さすがに「これこれこうでした」と説明だけで済ませる愚はギリギリ回避しているが、集中しないと観る者置いてけぼりというか、最後になって「なるほどね」で終わっちゃうというか、そんなイメージ。
通常、途中で「?」という部分があっても、そのうち「あ、そうか」がやってきて頭の中で交通整理できるんだけれど、本作では登場人物リストを手元に置いて各人の立場や動きを逐一理解しながら観ないと混乱する人が多いかも知れない。とりわけ『プリズン・ブレイク』をシーズン2まで観て「マイケル・スコフィールドって誰?」とかいいだす妻には、かなりキツそう。
確かに「下手な説明はしない」という姿勢とリアリティは立派。が、ちょっと語り口が独りよがりになっちゃったかな、との思いも残る仕上がりではないだろうか。
●主なスタッフ
原作は『ナイロビの蜂』などのジョン・ル・カレ、脚色は『ヤギと男と男と壁と』のピーター・ストローハンと、その妻で急逝したブリジット・オコナー。撮影監督のホイテ・ヴァン・ホイテマと編集のディノ・ヨンサーテルは『ぼくのエリ 200歳の少女』から引き続いてのお仕事。
プロダクションデザインは『マンマ・ミーア!』のマリア・ジャーコヴィク、衣装は『路上のソリスト』や『つぐない』のジャクリーン・デュラン。音楽は『君のためなら千回でも』のアルベルト・イグレシアス、音楽スーパーバイザーは『ラブ・アクチュアリー』のニック・エンジェル、サウンドエディターはTVドラマ『シャーロック』のスティーブン・グリフィスと『銀河ヒッチハイク・ガイド』のアンディ・シェリー。
SFXは『英国王のスピーチ』のマーク・ホルト、スタントは『キック・アス』のアンディ・ベネット。
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