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2012/07/11

ファミリー・ツリー

監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ジョージ・クルーニー/シャイリーン・ウッドリー/アマラ・ミラー/ニック・クラウス/パトリシア・ヘイスティ/メアリー・バードソング/ロブ・ヒューベル/レアード・ジョン・ハミルトン/バーバラ・L・ソーザーン/マシュー・リラード/ジュディ・グリア/ミルト・コーガン/ロバート・フォスター/ボー・ブリッジス

30点満点中19点=監4/話4/出4/芸4/技3

【楽園で悪戦苦闘する男】
 ハワイで弁護士業を営むマット・キングは、家族を顧みない仕事人間。いまは先祖から受け継いだ広大な土地を売るため、一族会議の取りまとめで忙しい身だ。そんな折、妻エリザベスがモーターボートの事故で昏睡状態に陥る。彼女が目覚めたら良き夫、良き父親になろうと心に決めるマットだったが、妻に関する意外な事実が明らかとなり、17歳のアレクサンドラと9歳のスコッティ、ふたりの娘への接しかたにも苦労するのだった。
(2011年 アメリカ)

【積み重ねが未来を作る】
 ハワイを舞台にしたどんな映画や旅番組よりも、ハワイへ行きたいと思わせる。たぶん本作には、まぁ絶景やビーチやお食事スポットもインサートされ、BGMもたっぷりとハワイアン、観光映画的な側面もあるものの、それ以上に“生きる人”がいるからだろう。

 描かれるのは、出来事よりもまずは「確かにそこにある感情」だ。むっつりと黙り込み、焦って走りだし、心配し、仕事を黙々とこなす。そんな様子の陰にある、怒りや悲しみや愛。人の行動の根っこには必ず何らかの感情がある、ということを匂わせる。
 作品中ただひとつの「心からの笑顔」の主が、いまや一切の感情を失った存在であることの皮肉も感じさせる。ある人から見れば被害者、でも別の人にとっては加害者。そんな事実の裏側には、やっぱり感情が渦巻いていることも示す。
 何をキッカケにどんな感情を抱くのか、その感情の発露としてどのように振る舞うのかは、人それぞれ。すべての人には各個の事情や過去があり、見た目だけではわからない、行動そのままの事情や感情の持ち主だとは限らない、ということも盛り込む。

 ただ、永遠不変なものなどない。事情は刻々と変わるし、それに連れて感情も変化し、これまでとは別の行動も取るようになる。いってみれば、その繰り返しが「生きる」ってこと。
 そして、だからこそ、変えたくないもの、ずっと抱き続けたい感情というものも、ある。

 人は、さまざまな事情と、それによって揺れる感情と、その感情が引き起こす新たな行動や事情とにさらされてはじめて、変えたくないもの、守るべきものを見分けられるようになるのだろう。マットにとってそれは、当たり前のように「いままでそこにあった」自然と家族だ。
 自然も家族も人の感情の影響を受けて変わりやすい性質を持つからこそ、変えないでおこう、せめていい方向に変わるよう努力しよう、と、アクセクしなければならない。そんなことを再認識させる。

 死別をあつかった映画の多くがそうだったように、本作も「とりあえず、生き残った者は、やれることをやっていくほかないんだよなぁ」とも感じさせる。そうすることでのみ、僕らは“生きる人”としての自身の存在を確かなものにできるのだ。「ひとまず、やれることをやる」の積み重ねが、未来を作っていくのである(原題『THE DESCENDANTS』は「子々孫々」の意)。

 それにしても、相変わらず「イケてない人」を描かせれば天下一品のアレクサンダー・ペイン。でも、そのイケてなさゆえに人は人であり、やれることをやろうとバカのように前進するのなら、それは意外と「イケている」のかも知れない。だいたい、高校生の娘を抱っこしてベッドへ運ぶパパって、かなりイケているんじゃないか。

 そのパパ・マットを演じるジョージ・クルーニーがいい。最近「やっぱこの人って上手いんだな」と見直すことが多いのだが、本作でも、表情は抑え目に、でも歩く姿と走る姿は目いっぱいオッサンで、楽しい。
 アレックス役シェイリーン・ウッドリーの可愛さも、この映画の魅力。ナタリー・ポートマンを髣髴とさせるルックスで、可愛いだけじゃなく、ちゃんと存在感と演技力(各賞で助演女優賞ノミネート&受賞)を示すあたりもナタリーっぽい。今後、華々しいキャリアを歩むことは間違いない。

 ほかでは、まあまあ深刻な出来事に甘く軽快なハワイアン・ミュージックがのっかるミスマッチがユニーク。でもハワイ音楽って「命への感謝」が歌われているイメージがあって、そういう意味ではテーマに即した作りなのかなと思ったりもする。
 その場感たっぷりのサウンドメイク、マットの“くたびれ”を助長する衣装、不自然さのない美術なども印象的だ。

 序盤は状況説明のナレーションがうるさく感じるけれど、だからこそスムーズにマットの心情に入っていける(中盤からはナレーションなし)点と、説明なんてしているヒマもなくなるマットのあたふたをそのまんま表現するような構成だとも感じられて、なかなか心憎い。

 作りとしてもお話としても、興味深い仕上がりである。

●主なスタッフ
 原作小説を監督自身と役者出身のナット・ファクソン、ジム・ラッシュが脚色。撮影監督は『3時10分、決断のとき』などのフェドン・パパマイケル、編集は『ライラの冒険』のケヴィン・テント。プロダクションデザインは『マイ・ライフ、マイ・ファミリー』のジェーン・アン・スチュワート、衣装は『トワイライト~初恋~』のウェンディ・チャック。
 サウンドエディターは『ダーク・ウォーター』のフランク・ギータ、音楽スーパーバイザーは『ガタカ』のドンディ・バストーン。
 これらスタッフは『サイドウェイ』『アバウト・シュミット』でも仕事をしていて、ペイン組とでも呼ぶべき人たち。

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