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2012/07/03

戦火の馬

監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ジェレミー・アーヴァイン/ピーター・ミュラン/エミリー・ワトソン/デヴィッド・シューリス/マット・ミルン/ロバート・エムズ/ニエル・アレストリュプ/セリーヌ・バッケンズ/トム・ヒドルストン/ベネディクト・カンバーバッチ/トビー・ケベル/パトリック・ケネディ/エディ・マーサン/ジェフ・ベル/リアム・カニンガム/デヴィッド・クロス/レナード・キャロウ/ニコラス・ブロ/ライナー・ボック/ハイナーク・ショーネマン

30点満点中19点=監4/話3/出4/芸4/技4

【戦場を駆け抜けた奇跡の馬】
 20世紀初頭のイギリス。地主へのあてつけから1頭のサラブレッドを競り落とした小作人テッド。その息子アルバートは気の荒いこの馬をジョーイと名付け、愛情深く育てていた。が、やがて第一次大戦が始まり、生活に困ったテッドは軍にジョーイを売り渡す。「きっと見つけ出す」と誓うアルバートだったが、ジョーイは、突撃作戦、負傷兵や大砲の運搬、逃亡の道連れなど過酷な運命を辿ることになる。やがてアルバートも兵となり……。
(2011年 アメリカ)

★ややネタバレを含みます★

【身勝手の中に生きる馬と人】
 馬、とりわけサラブレッドというのは経済動物なんである。必要性によって取り引きされ、カネがかかり、カネを生み出す。
 いやもちろんアルバートやメアリーのように馬に愛情を注いだって構わないのだけれど、人間の勝手と都合で振り回される経済動物だからこその“いたましさ”、にもかかわらず人間に信頼を寄せて懸命に走る姿の“切なさ”が、(人の近くで生きる)馬という生き物を構成する重要なファクターなのだと、競馬ファンとしては思うわけだ。

 まさしく、ジョーイの周囲には人間の身勝手があふれている。地主へのあてつけで貧乏農夫に買われ、生活苦ゆえに売られ、戦場の真ん中に放り込まれ、使役され、逃亡の手段として活用される。
 馬と馬との友情など、ちょっと「やりすぎ感」が漂う部分もあるけれど、馬=経済動物という大原則を踏み外さなかった点は、この映画の評価すべきところ。また「馬は何の喩えか?」と考えさせる寓話的な空気もあり、と同時に単純な感動モノとして一直線に見せ切るパワーもあるといえる。

 その「何の喩えか?」だけれど、結局のところ人の生き死にだって他人の身勝手に振り回される、つまりは馬も人も同じ、ということなのだと思う。それを明確に示すのが、ノーマンズ・ランドの場面。
 鉄条網に動きを封じられたジョーイをイギリス人兵士とドイツ軍兵士が力を合わせて救うのだが、そこでの一瞬の交流には、「バカバカしさの中にいる俺たち」的な哀切と悔恨がたっぷりと含まれている。
 さっきまで銃口を向け合い、ひょっとしたら間もなく死んでしまう者どうしが、戦場の真ん中で、使役されるため(消耗品として)徴用された馬を救うバカバカしさ。その向こうにある、そもそも戦争に明け暮れることのバカバカしさ。
 たがいに毒づく兵士ふたりの様子は、あったかいように見えて実はとてつもなく哀しい。

 要は、馬というツールを通して戦争の真理を描く作品。
 舞台を大きく捉え、人物を背景ごと切り取り、遠くから見守るような視点も多用される。まず音から入るカットと囲み込むサウンドメイクも特徴で、「世界の中の、ちっぽけな存在」としての人を印象づけていく。

 役者もそれぞれに存在感と、「世界の中の、ちっぽけな存在」としての苦悩を漂わせて良質。とりわけピーター・ミュラン、ニエル・アレストリュプというおっさんふたりの味わいがしぶい。
 それ以上に素晴らしいのが、馬。四白流星と、いかにも米血統らしいガッシリとした短距離体型が戦場に映える。いくつかCGで処理しているカットもあるようだが、馬のトレーナーやメイキャップのしっかりした仕事ぶりが感じられる。

 あれっ、と思ったのは『プライベート・ライアン』から『バンド・オブ・ブラザース』にかけて培った「戦場真っ只中感」の創出が、封印したといっていいくらい見られなかったところ。
 それなりに臨場感はあるし、あちらは第二次大戦、こちらは第一次大戦という違いがあり、描写テクニックも違って当然ではあるが、あれを経験した後ではスケールの小ささに戸惑いを覚えてしまう。
 その点も含め全体に渡って「手早く、手堅く撮った」的な雰囲気で、映像的・展開的なワクワク感より見やすさやわかりやすさが重視されているイメージも強い。
 それに、『プライベート・ライアン』を撮った人がいまさら手を出す題材かなぁという不満も。

 面白いことは面白いのだが、スピルバーグ作品の中での格とか存在意義に関しては“薄い”といわざるを得ないのではないだろうか。

●主なスタッフ
 マイケル・モーパーゴによる原作(もともとは児童文学だが舞台化もされている模様)を『リトル・ダンサー』のリー・ホールや『ラブ・アクチュアリー』のリチャード・カーティスが脚色。
 撮影監督のヤヌス・カミンスキー、編集のマイケル・カーン、プロダクションデザインのリック・カーター、衣装のジョアンナ・ジョンストン、音楽のジョン・ウィリアムズ、サウンドのゲイリー・リドストロームとリチャード・ハイムズ、SFXのニール・コーボルド、スタントのロブ・インチなど主要スタッフのほとんどが『宇宙戦争』や『プライベート・ライアン』と共通しており、いわばスピルバーグ組としておなじみの面々。
 そのほかでは、VFXが『ライラの冒険』のベン・モリス、ホース・トレーナーが『シービスケット』のボビー・ロブグレン。

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出逢った人達に愛されて [E:horse]公式サイト http://disney-studio.jp/movies/warhorse原作: 戦火の馬 (マイケル・モーパーゴ著/評論社)監督: スティー [続きを読む]

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