くたばれ!ユナイテッド -サッカー万歳!-
監督:トム・フーパー
出演:マイケル・シーン/ティモシー・スポール/ジム・ブロードベント/コルム・ミーニイ/モーリス・ローヴス/スティーヴン・グレアム/ピーター・マクドナルド/マーク・キャメロン/ブライアン・マッカーディ/マーティン・カンプストン/ギレス・アルダーソン/エリザベス・カーリング/オリバー・ストークス/ライアン・デイ
30点満点中18点=監4/話2/出4/芸4/技4
【宿敵チームの監督になった男】
英プロサッカー界の強豪リーズで幾多の栄冠を勝ち取った名匠ドン・レヴィが、代表チームの監督に就任。後任としてリーズにやってきたのは、2部リーグの底辺であえいでいたダービーを1部優勝にまで引き上げたブライアン・クラフと、その片腕ピーター・テイラーだ。だがクラフは、これまでリーズの乱暴なプレイスタイルに対して数々の“口撃”を繰り返していた。かつての宿敵を率いることになったクラフは、果たして結果を残せるのか?
(2009年 イギリス)
【仕上がりに格はあるが掘り下げ不足】
いまをときめくトム・フーパー監督作品。『レッド・ダスト』では「手堅い演出。“その場感”を重視しつつ、必要なことをきっちり画面の中へ収めていく。密度が高く、またフラッシュバックを挿入してリズムとミステリー風味を生み出しており、なかなかに『見せる』仕上がり」と感想を記した。
本作は、そうした特徴を残しつつ、もう少しアート方向にも寄ったというか、作家性が出た仕上がりとなっている。
やや赤みがかった、褪せた、カラーネガっぽい色調。ロケーションや部屋の内装、衣装などでも当時っぽさを創出しようとしている。ドキュメンタリー・タッチやアーカイブ映像も交えながら、1970年代の空気感を再現することに力を注ぐ。
人物を周辺や背景込みで捉えるような撮りかたも見せる。どことなく『Number』の写真的なフレーミング。ただし「スポーツ報道写真」というより、クローズドな物語の中にいる偏狭な人物たちの焦りや苛立ちや不安を増長していくようなイメージだ。
で、偏狭な人物の代表格が主人公のクラフ。さすがのマイケル・シーンが多彩な表情と身振りと台詞回しで、出来事と展開の一切を引き受ける。
クラフの経歴を調べるとだいぶ省略されていることもあるようだが、かなりエキセントリックな人物であったことは確からしい。本作では「自分で何事もリードしていくつもりなのに、実際には引きずり回されている」という解釈が採られていて、その点がユニーク。
ただ、掘り下げ不足であることは否めない。
試合シーンをなるべく排除してリズムを保ちながら、1シーンをたっぷりと描き、時制も適度に往復させて、クラフ本人に焦点を当てるという作りは妥当だろう。が、クラフと英サッカーをマクロに描くのでもなく、クラフとピーターなど周辺人物の関係へミクロの視線で切り込むのでもなく、その中間=ミディアムな視点が、どうも中途半端。「人間としてのクラフ」の描写がマイケル・シーンの芝居に頼りすぎている。
また「サッカーの監督としてのクラフ」も、イデオロギーやタクティクス面がほとんどスッポリ抜けていて、これも奥行きを欠く原因だ。
全体に格を感じるデキだけれど、物語や人間心理やスポーツの真理の部分がちょっと足りない作品である。
●主なスタッフ
脚本は『クィーン』、『ラストキング・オブ・スコットランド』、『フロスト×ニクソン』、『ブーリン家の姉妹』といった伝記モノのほか『ヒアアフター』も手がけたピーター・モーガン。
美術は『ヴェラ・ドレイク』や『恋愛上手になるために』のイヴ・スチュワート。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント