アンナと過ごした4日間
監督:イエジー・スコリモフスキ
出演:アルトゥール・ステランコ/キンガ・プレイス/イエジー・フェドロヴィチ/バルバラ・コウォジェイスカ/レッドバッド・クリンストラ
30点満点中17点=監4/話3/出3/芸3/技4
【すべては愛ゆえに】
ポーランドの田舎町、床に臥せっている祖母の面倒を見ながら病院の焼却施設で働く中年男レオン。ある事件で投獄された過去を持つ彼には、密かな楽しみがあった。家の窓から見える看護師寮、そこに暮らすアンナの様子をひっそりとうかがうことだ。アンナが使う砂糖に睡眠薬を混ぜることに成功したレオンは、アンナが寝静まった後、彼女の部屋へ忍び込む。誰にも知られてはいけない秘密の逢瀬は4夜連続に及ぶのだが……。
(2008年 ポーランド/フランス)
★ネタバレを含みます★
【カッチリと生々しく、そして不思議】
役名のある登場人物は限られ、舞台範囲も狭い。規模的・題材的には手持ちカメラのドキュメンタリー・タッチで撮ってもよさそうな作品だが、意外とカッチリとした作り。
リアルタイムの出来事に過去を織り込み、少しずつ「何が起こったのか」「これから何が起ころうとしているのか」「何が起きているのか」を明らかにしていく構成といい、長めの1カットの中に行為や感情を凝縮させて密度を上げていく手法といい、絵画的と称される映像とそれに応えるロケーションといい、全体に「考えて作られているな」と感じさせる。
とりわけ力が入っているのは音関係。鎮魂歌を思わせる教会の鐘、ノイズとの境目がないBGM、踏まれる砂利、擦れる布、ぶつかる金属など細かな音が拾い上げられ、サイレンや爆音が静寂を破る。
また、動物や虫の存在を印象づけたり、火(焼却炉、タバコ、燃やされる家具、ロウソク)や水(川、雨、水道、ぬかるんだ地面)をふんだんに配したりもする。
カッチリとした作りの中に“世界の生々しさ”を植え込もうとしているようなイメージだ。
抑えられたセリフ量、時制の工夫、密度感、生々しさに引き込まれて、観る者はジっとレオンのおこないを凝視することになる。しかも彼の視点からの描写に終始しているのがポイント。
少しずつ大胆になっていく侵入劇を、それが汚らわしい犯罪行為・異常行為であるにもかかわらず、なぜかレオンに感情移入してしまう自分がいる。ひょっとして、ほとんどの観客がそうなんじゃないか。
ふだんはくたくた、けれどアンナの誕生日には一張羅(大昔にあつらえた安物なので袖は短めだ!)というジャケットの変化が愛らしい。
で、異常者を見守るという不思議な体験を味わい、最終的には「理不尽な運命に翻弄される愚者」へ持っていくかと見せて、ドンと別の地点へ着地してみせる。
いや主題が「理不尽な運命に翻弄される愚者」という点にあるのは確かなんだろう。けれど、ゲットーを思わせる壁が登場するラストには、歴史的大事件とパーソナルな倒錯とをニアリーイコールで結びつける現代的戦争映画としての顔が見え、その、パワーによって分断される愛と人間性=「理不尽な運命に翻弄される愚者」というテーマが、時代とか立場とか出来事とか善人・悪人などの差異を越えて、すべての人間に降りかかる真理なんじゃないかとすら思わせるのだ。
不思議な佇まいで、不思議なメッセージを突きつけてくる作品だ。
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