« キル・ビル Vol.2 | トップページ | アルゴ »

2012/10/28

エリン・ブロコビッチ

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジュリア・ロバーツ/アルバート・フィニー/アーロン・エッカート/マージ・ヘルゲンバーガー/マイケル・ハーネイ/チェリー・ジョーンズ/クリスタ・マロータ/ウェイド・ウィリアムズ/コーデリア・リチャーズ/トレイシー・ウォルター/ジーナ・ガレゴ/ピーター・コヨーテ/ヴィエンヌ・コックス/シーラ・ショウ/ヴァレンテ・ロドリゲス/コンチャータ・フェレル/スコッティ・リーヴェンワース/ジェミニ・デラペーニャ/エミリー・マークス/ジュリー・マークス/アシュリー・ピメンタル/ブリタニー・ピメンタル

30点満点中20点=監4/話4/出4/芸4/技4

【シングルマザー、裁判に奮闘す】
 バツ2で3人の子を抱えるシングルマザーで無教養で無職のエリン。口の悪さが災いして自動車事故の裁判に敗れた彼女は、アテにしていた賠償金が入らなかったため、勝手に弁護士エドの事務所で働き始める。そこで電力会社PG&Eに関する訴訟資料に不審を抱き、原告のもとを訪ねるなど自ら調査に乗り出したエリン。やがて彼女はPG&Eが環境汚染を隠蔽しようとしていることに気づく。それは途方もない大訴訟へと続く一歩だった。
(2000年 アメリカ)

【人と社会の映画】
 エリンを演じたジュリア・ロバーツのオスカー受賞作ということで「彼女の映画」だと思っていた。
 それは間違いではない。胸元を惜しげもなく見せ、激しくまくし立て、子育てや隣人との愛や上司や事件や社会に振り回され、悩み苦しみ、それでも信じる道を往く、一途な女性の役をまっとうする。

 彼女の相手役といえるアルバート・フィニーも、老いた弁護士をチャーミングに好演。アーロン・エッカートも繊細なヒッピーという難しい役柄を完遂する。視線や立ち姿・座り姿で感情を表現するなど、みんなしっかりとお芝居していて、ジュリア・ロバーツを中心とするアンサンブルを楽しむ映画であることは確かだろう。
 が、それだけじゃない。

 まずは脚本が良。題材的にどうしても文字資料を見せたり最低限の事実説明をすることは欠かせないのだが、そこでクドくなったり野暮になったりしないようスマートに処理してある。
 エリンが典型的なダメ人間であること、働き始めて事件に顔を突っ込む顛末、原告からの信頼を勝ち取るためには何が必要か、勝つためには何が必要か、覚醒と行動力、反発と和解など、エリンのアイデンティティに照準を絞りつつポイントをわかりやすく整理。不要な部分や裁判に関する煩雑な事柄を思い切って省き、説明的になることなく、流れよくまとめてあるのだ。

 演出的にも、流れのよさを重視。とりわけ“時間”というものにことさら気を遣ったことは明らかで、事故シーンでの衝撃的な1カット描写、ジャンプカット、服装とアングルの違いで見せる「何日も就職活動している様子」の表現、9か月の大胆な飛躍など、時間の経過・流れを自在に操って上質なリズムとテンポを生み出している。
 また、エリンの手元に照明を点けてあげる職員、エリンが相手弁護士をやりこめる際に思わず吹き出してしまうドナルド、資料を読んで母親の仕事に理解を示す息子マシューなど、彼女が認められていく過程をサラリと描写してあるのもいい。

 ノイズを拾うことで醸し出される実在感と不安、明かりが作り出す希望や焦燥、各人に適した衣装、赤く殺伐とした景色を映し出す撮影、シェリル・クロウをはじめとする静かで軽快で熱い音楽……。各要素がピッタリガッシリと作品を構成し、単なるお芝居映画にとどまらない、トータルな完成度の高さを見せてくれる。

 だからこそ、メッセージもしっかりと伝わってくる。
 これはタイトルである「エリン・ブロコビッチ」の映画ではなく、この世の普遍を描いた「人と社会」の映画だ。

 たぶん多くの人が「自分は何かができる特別な存在だ」と考えている。それは思い上がりだったり勘違いだったり無知ゆえだったりするのだけれど、それでも別にいいじゃないか。特別な存在であろうと自分を奮い立たせたり実際に行動へと移したりする際にも、動機がお金だったり、結構な幸運に助けられたり、周囲を傷つけたり、あまりカッコのいい生きざまは見せられないかも知れないけれど、でもやっぱり、それでいい。

 実はひとりの裁判官の気持ち次第で審理(人の命)の行方が決まったりする、この世の中。と同時に、ひとりの無知な女性のおこないによって未来が変わる可能性も秘める、この社会。
 だとすれば、たとえ思い上がりとカッコ悪さに満ちていても、ひとりひとりが「自分は何かができる特別な存在だ」という信念を大切にし、行動に移して貫くことが、よりよい社会を作っていく力になるのではないだろうか。

 そんな「人と社会」の映画であり、3・11以後の日本においてある種の指針になってくれる作品だと感じるのである。

●主なスタッフ
 シナリオは『28DAYS』『イン・ハー・シューズ』『路上のソリスト』のスザンナ・グラント。
 撮影は『アイム・ノット・ゼア』のエドワード・ラッハマン、編集は『ライラの冒険』『テイキング・ライブス』のアンネ・V・コーツ。
 美術は『オーシャンズ』シリーズや『8Mile』のフィリップ・メッシーナ、衣装は『インセプション』『コラテラル』のジェフリー・カーランド、音楽は『WALL・E』のトーマス・ニューマン、サウンドは『インフォーマント!』などのラリー・ブレイク。

|

« キル・ビル Vol.2 | トップページ | アルゴ »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: エリン・ブロコビッチ:

« キル・ビル Vol.2 | トップページ | アルゴ »