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2012/11/02

アルゴ

監督:ベン・アフレック
出演:ベン・アフレック/ブライアン・クランストン/アラン・アーキン/ジョン・グッドマン/ヴィクター・ガーバー/クリストファー・デナム/スクート・マクネイリー/ロリー・コクレイン/クレア・デュヴァル/ケリー・ビシェ/テイト・ドノヴァン/カイル・チャンドラー/クリス・メッシーナ/ジェリコ・イヴァネク/タイタス・ウェリヴァー/キース・ザラバッカ/ボブ・ガントン/リチャード・カインド/シェイラ・ヴァンド/マイケル・パークス/エイドリアン・バーボー/テイラー・シリング/エイダン・サスマン/ペイジ・レオン

30点満点中18点=監3/話3/出4/芸4/技4

【映画を騙る救出劇】
 1979年、イランで革命が勃発。暴徒らがアメリカ大使館に押し寄せて職員らを人質に取り、米国に逃げたパーレビ前国王の引き渡しを要求する。大使館占拠の直前に脱出した職員6名はカナダ大使邸で身を潜めていたが、もし見つかれば公開処刑となるのは必至、国務省とCIAは6人の救出作戦に頭を悩ませることとなる。人質救出の専門家であるトニー・メンデスが立案したのは、映画の撮影を利用するという途方もない作戦だった。
(2012年 アメリカ)

【壮大な再現フィルムの根っこには】
 この映画には“熱さ”がない。
 より正確にいえば、たとえばトニーを英雄に仕立てるとか、6人の焦りを抉り取るとか、アクションで見せるとか、反戦を謳うとか、普通なら作品に込めるであろう「こうしたい」という志のようなものをあえて封印、再現フィルムであることに徹しているような仕上がりだ。
 その範囲の中では、上々のデキ。

 冒頭から、本編とはサイズの異なるアーカイブ映像であっても大胆かつ惜しげなく突っ込み、編集も手際よく、史実と本編との地続き感を創出。その後もドキュメンタリー・タッチの撮りかたがメイン、カメラはなるべく出来事の近くに位置しようとする。映像の質感も70年代っぽいし、ロケーションもリアル。
 ラストで登場人物たちの本物の映像・写真が出てくるのだけれど、まぁよくこれだけ似せたものだと感心するくらい役者たちは化けている(クレジットを見るまでクレア・デュバルだとわからなかったもの)。もちろん、衣装やメイクの力も大きい。

 主演ベン・アフレックは、グっと抑えた演技。髭を伸ばして表情が読みにくいこともあって、目だけの静かな芝居を敢行する。その抑制がいい。
 CIA内部&ホワイトハウスのシーンは“いかにもポリティカルサスペンス映画っぽい”作りなのだが、その部分とドキュメンタリーっぽい部分、さらには後述の「ハリウッド・パート」という3つの異なるテイストを無理なくつなぐ役割を、この「静かなトニー=ベン」が担っているともいえるわけで、そういう意味でもいい仕事だ。

 唯一、微かに漂うのは“映画が世界を救う”という主張だろうか。
 序盤から続く緊張感が、『猿の惑星』のメイキャップ・アーティスト=ジョン・チェンバースの登場で一気に転調する。チェンバースを演じたジョン・グッドマン、プロデューサーのレスター・シーゲル役アラン・アーキンが嬉々として演じているこの「ハリウッド・パート」は、なんというか当時の映画製作の舞台裏を覗く下世話な楽しさに満ちていて、無責任さ、あるいは「コーネリアスが発端となった大作戦」が人命を救うというカオスにヤられてしまう。

 キーとなる『猿の惑星』(第5作『最後の猿の惑星』は1973年公開)のほか、『スター・ウォーズ』(1977年)とか『クレイマー、クレイマー』(1979年)などの話題やポスターが散らされていたり、チョイ役でエイドリアン・バーボー(初期のジョン・カーペンター作品や『キャノンボール』とかで見た顔だ。当時っぽいよな)が出てきたり。それだけでもう、ああ人間社会には映画という幸せがあるんだよなぁという感慨がわく。
 で、イランの警備隊も、ストーリーボード/イメージイラストを見せられて「おお、俺たちの国でこんな楽しそうな映画を撮影するのかよ」みたいな感じで喜んだり。

 なんかね、争っているのはバカバカしいじゃん、楽しいって感じられるものはけっこう世界共通なんだから、みんなでそっちの方向を見ようよ、とでもいうような声が聞こえてくる気がする。

 中東と欧米との国家間対立や宗教衝突は、そんなオプティミズムを許さない深刻なものだとは承知している。ならば、こう言い換えよう。
「映画ってそもそも、こんなことに利用されるべきものじゃないよね」
 何か特定の主張を声高に叫んだり劇映画としてのベクトルを明確に示したりするのではなく、どちらかといえば淡々とした再現フィルムであるからこそ、根底にあるそうした苛立ちのようなものが感じ取れるのである。

●主なスタッフ
 撮影は『バベル』などのロドリゴ・プリエト、編集は『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』のウィリアム・ゴールデンバーグ。
 プロダクションデザインは『ザ・タウン』のシャロン・シーモア、衣装デザインは『ソーシャル・ネットワーク』のジャクリーン・ウェスト。
 音楽は『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』のアレクサンドル・デスプラ、音楽スーパーバイザーは『リリィ、はちみつ色の秘密』のリンダ・コーエン、サウンドエディターは『ワルキューレ』のエリック・アーダール。
 SFXは『マイアミ・バイス』のR・ブルース・スタインハイマー、VFXは『インフォーマント!』のトーマス・J・スミスや『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』などのマット・デセーロ。
 スタントは『ザ・タウン』のゲイリー・ハイムズ、『シャーロック・ホームズ』のマーク・ヘンソン、『アイアンマン』のJ・J・ペリー。

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