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2012/11/22

インビクタス/負けざる者たち

監督:クリント・イーストウッド
出演:モーガン・フリーマン/マット・デイモン/トニー・キゴロギ/パトリック・モフォケン/マット・スターン/ジュリアン・ルイス・ジョーンズ/アッジョア・アンドー/マルグリット・ウィートリー/レレティ・クマロ/パトリック・リスター/ペニー・ダウニー/シボンギル・ノジラ/ボニー・ヘンナ/シェイクス・ミィエコ/ルイス・ミンナー/ダニー・キオーグ/マクニール・ヘンドリクス/ザック・フィウンナティ

30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3

【生まれ変わる祖国のために】
 1990年に釈放されたネルソン・マンデラは、やがて南アフリカの大統領に就任。多くの公務を抱える彼にとって、大きな気がかりの1つが自国開催のラグビー・ワールドカップだった。白人だけに愛される代表チーム“スプリングボクス”は絶不調で国際試合の経験も少なく、苦戦が予想されている。国家の団結のためにはボクスの活躍と国民をあげての応援が欠かせないと考えるマンデラは、代表主将のフランソワ・ピナールを呼び寄せる。
(2009年 アメリカ)

【不可分の三者】
 チェスター役はホンモノのラグビー選手が起用されているらしい。その他のメンバーも多くが役者ではなくラグピー・プレーヤーなのだろう。役者陣も現地の人たちをかなり使っているみたいだ。

 そして、モーガン・フリーマンはネルソン・マンデラになりきる。マンデラ本人から「自分を演じるなら彼に」と名指しされ、面会も果たしたとあっては、これくらいの仕事は当然。にしても、リサーチも入念に、口調はおろか立ち姿や歩きかたや笑顔の作りかたまで真似て、というか、変身してみせている。
 マット・デイモンだって、おそらく相当に肉体改造をしたはずだ。

 わざと暗い場所で撮ったのか暗いレンズを使ったのか、画面は全体にアンダーで、とりわけ陰の部分の解像度は低い。音の鮮度も低い。それが先行きの見えない社会やチームの不安を暗示するとともに、“その場”の雰囲気を作り出す。
 そこへ打楽器が乗っかり、当時の南アフリカの様子が再現され、スタジアムは埋め尽くされる。
 で、あの747低空飛行のエピソードは実話らしい。

 要するに、リアリティにこだわった作り
 もちろん映画的な挑戦としての試合シーンの描写(グラウンド・レベルからの撮影)はあり、それが「通常では見られないアングル」ゆえ逆に迫力やスピード感より作為を感じさせることも事実だ。かなりの脚色も施されているはずだし、本当はもっと泥臭いことだってあっただろう。
 けれども限界や嘘っぽさよりも、「作り物なんだけれど事実が元になっているんだよということをちゃんとわからせる」、あるいは「今回のストーリーに必要なことだけを整理して盛り込む」という意識が先行し、バランスのよさが実現しているのは、さすがだ。

 たとえば、クライマックスの試合シーン。セリフや音楽よりも重視されるのは歓声であり、観客に幻聴となって届いているはずの、選手と選手、選手とボール、選手と地面の接触音。そして熱さだ。
 これはもうスポーツを観戦したことのある人なら誰にでも理解できるはずだが、いわば“スタジアム・ハイ”とでも呼ぶべき不思議な熱が会場を覆っていて、それこそが何よりもスポーツをスポーツたらしめる。そういうことをよくわかっている作りではないだろうか。

 そんなわけで真面目に誠実に撮っているぶん、映画的なワクワクドキドキは少なめなのだけれど、こめられたメッセージはなかなかに興味深い

 たぶん、ボクスに懸けるマンデラには政治家としての計算も、彼がいう通り、人としての打算もあっただろう。が、そこに作用しているのはイデオロギーとかポリシーといった安っぽいもののもっと奥にある“真理”だ。

 周りに味方が何人いても戦いは孤独だという事実。「完璧な状態で戦えることなどない」という事実。が、だからこそ力を合わせてひとつになることが何よりも大切なのだという事実。そして警備や代表チームといった、プロフェッショナルから一体化が始まるという事実。
 そうした事実の集合体として存在する“ものごとの真理”、その象徴として、マンデラとチームと国民の関係があるのだ。

 政治と、スポーツと、人々が、たがいに学び、支えあい、影響しあう。三者は不可分であり、だからこそ、いい方向へ進むこともあれば振り回されることもある。
 ということが、よくわかる作品である。

●南アフリカ関係
『マンデラの名もなき看守』
『レッド・ダスト』
『ツォツィ』

●主なスタッフ
 脚本は『シャーロック・ホームズ』のアンソニー・ペッカム。その他の主要スタッフは『チェンジリング』『グラン・トリノ』『ヒアアフター』などに携わったイーストウッド組の人たち。

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