フィリップ、きみを愛してる!
監督:グレン・フィカーラ
出演:ジム・キャリー/ユアン・マクレガー/レスリー・マン/ロドリゴ・サントロ/アントーニ・コローン/ブレナン・ブラウン/デイヴィッド・ジェンセン/ルイス・ハーサム
30点満点中18点=監4/話3/出4/芸4/技3
【そのひとことを伝えるために】
養子に出された過去を気に病みつつも、敬虔なキリスト教徒である妻デビーや愛娘と仲睦まじく暮らす警察官のスティーヴン・ラッセル。ある日、彼はゲイであることをカミングアウトし、自分らしく生きることを誓う。新たな恋人ジミーと幸せをつかんだかに見えたスティーヴンだったが、詐欺罪で収監されることに。スティーヴンは刑務所の中で出会ったフィリップ・モリスにひとめぼれし、今度は彼と幸せを築こうと策を巡らせるのだった。
(2009年 フランス/アメリカ)
【嘘の向こうにこそ愛がある】
序盤は“唐突”の連続だ。命の危機から幼少期、温かな生活、それを壊しかねない「実の母宅への訪問」、そしてカミングアウトに暴走と、とにかく行動も展開もシーンからシーンへの移り変わりも、観る者を振り回すようにして突き進む。
後半も、柔らかで軽快な音楽とともに流れよく期待を裏切り続ける。「周囲はくだらない人間ばかりだ」とスティーヴンが気づくところがツボで、このシークエンスに代表されるように、どっちへ話を転ばせようとするのか、予断を許さぬまま観客を翻弄する。
撮りかたとしては、グルリ360度回転して時間経過を示す、なんていう面白い場面もあるけれど、基本的にはそれほど凝っているわけではない。ただ、その変拍子的なリズムで楽しませてくれる。
また、表情や歩きかたといった演技を大切にしているのも特徴。
この点では主演ジム・キャリーの、例によってのオーバーなアクションが意外といい。「嘘」を積み重ねてきた男の「実話」という構造がジムの芝居と化学反応を起こして、不思議な物語/世界を作り出すのだ。
ユアン・マクレガーの、さりげないオカマ演技(プラス、にじみ出てくる人のよさ)もなかなかのもの。元妻デビーを演じたレスリー・マンの、あまり頭の回転が速くはなさそうなのに愚かではなく、すべてを噛み砕いたうえでスティーヴンを「距離を置いて受け入れる」という空気感がいい。
で、予想もつかないお話の成り行きは、当然ながら「愛とは何か?」へと向かっていく。
愛とは、認められようと努力すること。そんな相手の好意や行為を喜びとともに受け入れること。果たすべき義務をやり遂げたり、「その人のためにそうしたい」という意志を貫くこと。
本来なら、そこに嘘なんて必要はない、ただ真っ直ぐ突っ走ればいいはずなのだ。なのに、どうしても嘘が絡んできてしまうのが、人の愚かしさであり愛らしさ。
だって僕たち、気に入られようとしてデマカセをいったり、相手を傷つけたくなくって本心を誤魔化したりって、普通にやっちゃうことだもの。とりわけスティーヴンの場合、なまじっか才覚があるばかりに、その嘘はスケールが大きくなっていくわけで。
でもスティーヴンがいう通り、嘘の下には常に真実があるのだ。もちろんここでいう真実とは、愛。ひょっとすると「愛は嘘の下にこそ存在する」のかも知れない。
僕ら人間が「あの人に何かをしたい」と抱く愛情は、嘘でも吐いて無理やり自分を奮い立たせて、その勢いでどうにかしちゃわないと果たせないくらい無茶な想いなのだから。
●主なスタッフ
撮影は『エンバー 失われた光の物語』のハビエル・ペレス・グロベット、編集は『守護神』のトーマス・J・ノードバーグ。
プロダクションデザインは『あぁ、結婚生活』のヒューゴ・ルジック=ウィオウスキ、衣装は『ファニーゲームU.S.A.』のデヴィッド・ロビンソン。音楽スーパーバイザーは『Dr.HOUSE』や『ラッキー・ユー』のゲイリー・カラマー。
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