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2012/12/06

17歳の肖像

監督:ロネ・シェルフィグ
出演:キャリー・マリガン/ピーター・サースガード/ドミニク・クーパー/ロザムンド・パイク/アルフレッド・モリナ/カーラ・セイモア/オリヴィア・ウィリアムズ/マシュー・ビアード/アマンダ・フェアバンク=ハインズ/エリー・ケンドリック/サリー・ホーキンス/エマ・トンプソン

30点満点中18点=監3/話3/出5/芸4/技3

【もうすぐ17歳の誕生日】
 厳粛な高校に通う16歳のジェニー。フランスに憧れながらも、口やかましい父に叱咤され、チェロを習い、ラテン語に苦しみ、オックスフォードを目指す退屈な日々。彼女はある日、紳士的な男性デイヴィッドと出会い、教会での演奏会やナイトクラブなど、いままで見たこともなかった大人の世界を体験する。デイヴィッドへの恋心は募り、両親もすっかり彼を気に入ったようだ。だがジェニーはデイヴィッドのもうひとつの顔を知ってしまう。
(2009年 イギリス/アメリカ)

【人の「学び」の過程と未来】
 簡単にいえばこれは、浮かれる女子高生のゴシップ。一歩間違えればワイドショーで取り上げらて、観た者が「バカなコだね」と無責任に感想を漏らすような出来事だ。
 また、この監督の『幸せになるためのイタリア語講座』は、ややノッペリとした空気感にどうにも馴染めず、確か開始10分ほどでギブアップしたはず。脚本ニック・ホーンビィの『アバウト・ア・ボーイ』も、人生の真理に迫る面白いお話ではあったけれど、「終盤、やや舌足らず」だったように、もうひとつ奥へと踏み込んでいく鋭さには欠けていた。
 本作にも、そうした気配はある。

 たとえばデイヴィッドがジェニーの両親の懐へ潜り込むくだりなんかは、ウソでもいいからもうちょっと説得力が欲しかったところ。テーマと展開を考えればジェニーの周囲、とりわけスタッブス先生の想いについては深みを持たせるべきだったと思う。そういう“甘さ”のようなものが残っているのは確かだ。

 ただそれでも本作が魅力たっぷりに仕上がっているのは、やはりキャリー・マリガンの力が大きい。ヘアメイクも含めて好みのタイプというだけでなく、目線の温度まで感じさせる芝居が上質。文字通り「コロコロ」という笑い声がチャーミングで、これはもうね、確実に惚れますよ、男だったら。

 彼女だけでなく全体に「表情の動きで感情をあらわす」という芝居&演出のプランニング。「いや頼れるオジサマなのはわかるけれど、もっといい男が欲しかったな」という若干の不満が結局はラストに生きてくるピーター・サースガード、優しさと頑固さとスタイリッシュさとがいいバランスで渦をなすドミニク・クーパー、「バカだけれど愚かじゃない」という難しい役柄を演じきるロザムンド・パイク、名もなき中流家庭の父親にハマる感情豊かなアルフレッド・モリナ、冷たい優しさをしっかりと表現するオリヴィア・ウィリアムズと、役者陣が素晴らしい映画だ。

 それに“甘さ”の中にもセンスはあふれている
 まずは16歳の女の子を包むものが数々散らされるオープニングクレジットがオシャレ。ロンドンやパリ、ジェニーの暮らす環境を雰囲気よく作り出した美術や音楽の仕事もいい。
 娘の教育を投資と考えモノゴトを役に立つか立たないかで判断する父、ずっと鍋を洗い続ける母、授業風景、まだまだ子どもの男子生徒たちといった要素と様子をサラリと描き、ジェニーの周囲をわからせていく流れのよさもある。「何もしなければ何者にもなれない」、「理由なくいいものがわかるなら勝ち組」といったセリフも楽しい。

 けっこうツボだったのが、ジェニーがラテン語の試験でBを取ったと知ったときのダニーとヘレンの反応。「おめでとう」と祝いつつ「50年後にはなくなってしまう言葉だから無駄」ともいう。
 それは、苦手なラテン語を頑張ったことに対する理解とねぎらいであり、ジェニー自身の考えの代弁でもある。つまりは私のことをわかってくれている人がいるという安心感につながるものではあるけれど、反面で「本当はわかっていないクセに」という不満、価値観の違いも潜む。

 だからこれは、ただの女子高生のゴシップではなく、生きかたを問う性質の映画でもある。何を大切に思い、それを守るために何を選択し、何を捨てるのか? そしてたいていの場合そこで人は、若さや無知ゆえの過ちを犯してしまう。そんな様子を綴った作品。

 過ちに引き摺られたまま生涯を終えてしまう人も多いだろうが、幸いにもジェニーには、ミス&ゴシップのままで終わらせない強さがあった。周囲にはデイヴィッドと同じように、けれど彼とは違う方法や方向で自分を大人へと導いてくれる存在がいることも認識できている。

 原題の『AN EDUCATION』を直訳すれば「教育」となるけれど、それは受動的なものではなく能動的な「学び」と考えるべきだろう。選択や行動のもととなる知識、経験の中でつかみとったり再認識したりする価値観、それらを生かしたり方向転換のために用いるのに必要な器量。そうしたものを身につけていく少女の物語なのだ。

 彼女は「自分を隠して生きる」と宣言する。それが選ぶべき幸福なのかどうか、決めるのはジェニー自身と、観客と、社会という現実である。

●主なスタッフ
 撮影は『フル・モンティ』『セレンディピティ』のジョン・デ・ボーマン。プロダクションデザインは『イーオン・フラックス』のアンドリュー・マッカルパイン。衣装は『ナイロビの蜂』『バンク・ジョブ』『ザ・デンジャラス・マインド』のオディール・ディックス=ミロー。音楽は『ウルフマン』で音楽監督を務めたポール・イングリッシュビー。

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