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2013/01/30

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

監督:アン・リー
出演:スラージ・シャルマ/イルファン・カーン/アディル・フセイン/タブー/レイフ・スポール/ジェームス・サイトウ/ジュン・ナイトウ/アンドレア・ディステファノ/シュラバンティ・サイナス/エリー・アルーフ/ボ・チェ・ウォンアユシュ・タンドン/ゴータム・ベラール/アヤン・カーン/モード・アッバス・カレーリ/ヴィディシュ・シヴァクマール/ジェラール・ドパルデュー

30点満点中19点=監4/話3/出4/芸4/技4

【嵐の中、小舟の上、虎とともに】
 パイ・パテルが作家に語り聞かせるのは、彼がまだ若かった頃の話。動物園を経営する父と植物学者である母との間に生まれ、いくつもの信仰を同時に抱えながら暮らすパイ。父の決断により、一家は動物たちとともに生まれ故郷のインドから北米へ渡ることとなる。だが嵐に見舞われ、パイは荒れ狂う海に投げ出された。救命艇に乗ったのは、パイとシマウマとオランウータン、そしてベンガルトラの“リチャード・パーカー”だけだった……。
(2012年 アメリカ/台湾)

★ネタバレを含みます★

【それは人の心の中にある】
 2Dでも十分に体感できる“凄さ”がある。人が想像できるもの以上のヴィジュアルを見せてくれる。これ以上なく荒れる波と、一転して鏡と化す海面、発光するクラゲにダイブするクジラ、飛び跳ねる生き物の群れ。
 それらを大胆な1カットで見せ切る映画的なパワー。輸送船の沈没シーンなんか、キャメロンが嫉妬するんじゃないかと思えるほど圧巻だ。
 本作の助演男優ともいうべきリチャード・パーカーの作りも素晴らしい。所作や次第に痩せていく様子だけでなく、船べりに掴まってパテルを見上げる表情が絶品。もはやCGではなく、れっきとした生き物。

 それでもやはりCG臭さを感じてしまう部分はあるし、イメージの視覚化に凝りすぎたきらいはある。音響的なまとめは良質だけれど、いっぽうサントラは「盛り上げますよー」的で、ややリアリティに欠けるように思う。
 が、観る者をその場へと連れて行き、あるいは感情移入を誘うに十分な見た目の仕上がりになっていることは確かだ。

 アン・リー作品ということで心配した“ダルさ”のようなものもない。序盤は過去と現代を行き来してパイという人物に親しみを覚えさせ、中盤からは徹底して観客にパイの過酷を追体験させて、ラストはわかりやすくまとめてみせる。構成も全体的なリズムも上々だ。

 で、その過酷。そうか、リチャード・パーカーってどこかで聞いた気がすると思ったら、サンデル教授の授業に出てきた名か。
 件のエピソードを知っているor覚えているとまた感想も異なってきたかも知れないが、着地点は同じだろう。
 すなわち、人の中身の神秘性と弱さと強さと優しさと寂しさについて。

 パイの中ではヴィシュヌ神もイエスもアラーも等しく輝いているが、それは一般社会から見れば奇異、とうてい受け入れられるものではなく、あってはならない状態とすらいえる。
 だが逆にいえば、人の心の中でだけ、それは可能なのだ。何かに頼らざるをえない弱さ、事実をすりかえないと倒れてしまう弱さ、それを打ち砕くために自らの中から湧き上がる強さ、強さとしての野性、そんな自分を受け入れようとする優しさ、もう過去の自分ではいられないことの寂しさ……。
 日本の保険調査員がプランAを採用したのも、そういうことを読み取ったうえで彼らの中の“人としての優しさ”が働いたからだろう。

 荒れる海の上、小舟に同乗した人とシマウマとオランウータンとトラを見て「何たるカオス」と感じたものだが、そもそも人の心がカオス。人の中にこそ、混沌たる宇宙は存在しうる。考えてみれば最初から本作はそう告げていたではないか。

 それにしても、ある意味、とてつもない映画。『ビッグ・フィッシュ』とか『フォレスト・ガンプ』的な作りを採りつつ、序盤の道具立てやキャラクター造形にはジブリ的な味わいもある。最先端のVFXを用い、突き進み抉る対象は人の心。「あったことはあったこと。そこに意味はない」と寓話性を否定して、そこから一気に真実へと至る。けれど確かに寓話でも純然たるファンタジーでもない。

 考えさせるというわけではなく、上述の“人の中身の神秘性と弱さと強さと優しさと寂しさ”がストンと腑に落ちる。そんな作品である。

●主なスタッフ
 ヤン・マーテルの原作小説を『ネバーランド』のデヴィッド・マギーおよび『クレイジーズ』のディーン・ジョーガリスが脚色。
 撮影は『トロン:レガシー』のクラウディオ・ミランダ、編集は『レイチェルの結婚』のティム・スクワイアズ。プロダクションデザインは『ダウト~あるカトリック学校で~』のデヴィッド・グロップマン、衣装はアーユン・バシン。音楽は『(500)日のサマー』のマイケル・ダナ、サウンドエディターは『ヒューゴの不思議な発明』のフィリップ・ストックトン。
 SFXは『デス・レース』のルイス・クレイグとジャン=マーティン・デスマレス、VFXは『ライラの冒険』のビル・ウェスティンホファーを中心にRhythm & Hues Studiosなど。スタントは『ナイト&デイ』のチャールズ・クロウウェル。

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