ローラーガールズ・ダイアリー
監督:ドリュー・バリモア
出演:エレン・ペイジ/マーシャ・ゲイ・ハーデン/クリステン・ウィグ/ドリュー・バリモア/ジュリエット・ルイス/ダニエル・スターン/アンドリュー・ウィルソン/アリア・ショウカット/ランドン・ピッグ/ジミー・ファロン/イヴ/ゾーイ・ベル/アリ・グレイナー/クリステン・アドルフィ/レイチェル・ピプリカ/カルロ・アルバン/シャノン・イーガン/サラ・ヘイベル/ユーララ・シール
30点満点中19点=監4/話3/出5/芸4/技3
【ローラーゲームと恋に懸けた青春】
テキサスの田舎町に暮らす高校生のブリス。母のブルックは彼女にさまざまなミス・コンテストへと挑ませ続けていたが、ブリス自身はそのことを疎ましく感じていた。そんな折、熱く激しくぶつかり合うローラーゲームに出会ったブリスは、年齢を偽って入団テストに挑戦、晴れて合格する。万年最下位のチームでは意識改革が進み、パンクバンドのボーカリスト・オリヴァーとの恋も順調なブリスの青春は明るく輝き始めたかに思えたが……。
(2009年 アメリカ)
【可愛くって優れた映画】
若い人たちは、もはやローラーゲームなんか知らんだろうなぁ。東京ボンバーズっていったら、いまのAKB並の人気者だったんだから。敵チームのコーチ=インデアン・パーカーは、ダース・ベイダーをも凌ぐ名悪役だったんだぞ。
けれど日米のwikipediaを見てみると、もはや本国でも“懐かしの”的な扱いになっているらしい。2000年代にも何試合かおこなわれたようだけれど、すでに70年代に「このスポーツのファン層が購買力のほとんどない最低所得者層であることがわかり、やがてスポンサーが離れテレビ中継は下火になっていった」んだとか。
要するに、先のないエンターテインメント。そんな中でブリスはしっかりと自分の居場所をつかみ、夢を見る。
そうなのだ。何もない田舎町(ということが自然と伝わってくるのが素晴らしい)であっても、幸せをつかみ取ることはできる。ブリスが乗るバスで隣に座るお婆さんがいう通り「myself」を持っていれば。
未来のない世界(つまり題材がローラーゲームであることに、ちゃんと映画として大きな意味があるってことだ)でも、自分というものを持っていさえすれば。
だいたいブリスは、ママが運転するクルマ=ママが先導する人生の中にあっても「でも、その中での主役は私」とばかりに、バックシートの真ん中に座っているじゃないか。バイトして少しでも自立しようと頑張っているじゃないか。煮え切らないオリヴァーにハッキリとものをいうじゃないか。
もちろん彼女ひとりじゃ何もできない。だから周囲の助けや応援や後押しを借りて前へ進む=ホイップする(原題は『Whip It』)ことになるわけだけれど、周りの人々だって、ブリスが自分自身を「もっと素敵な自分にしたい」と考えているからこそ手を貸してくれるのだ。
そのブリスというキャラクターを、エレン・ペイジが瑞々しく演じる。全米を代表するブサカワとしての魅力炸裂だ。エレンのおかげで、本当にチャーミングな映画になっている。
彼女以外の女優陣もまた、楽しみながら、けれどそれぞれの役割をしっかりとまっとうしながら、この映画をチャーミングなものにしようと動いていることがわかる。
それもこれも、たぶん、ドリュー・バリモアの人望。役者として、プロデューサーとして、女性として、さまざまなことを経験してきたドリューのキャリアと包容力が、本作を前向きなものにしているのだと思う。
これまたwikipediaによれば(有名な話だけれど)、ドリュー自身が「母親はバリモアに仕事ばかりさせ、母親として接することはなかった。母親は元売れない役者だった」そうだから、自分と同じ境遇にある人へのエールとして撮られた映画であることは確かだろう。
ただ、そういう説教臭いテーマは空気感として漂わせる程度にとどめ、これみよがしに前面へと出していないことに好感を覚える。というより、どちらかといえば“さりげなさ・なにげなさ”が特徴の映画に仕上がっている。
たとえばローラーゲームの試合があると知ってから家へ帰る途上でのクルマの中、後ろを名残惜しそうに振り返っているブリスの姿。あるいはコーチから「しっかりな」と声をかけられて飛び出していく際のイキナリ感。
全体に、間(ま)とか余韻とか情とか暖かさといった部分でのセンスが光る映画だ。
もちろん、これが初監督作とあって「フツー」に撮っている部分もあり、画面を“どう作るか”という点で配慮が及んでいないところもあるような気はするけれど、パパの笑顔のインサートとか、プールでのラブシーン、スピード感豊かな試合など、少なくとも“何を作るか”の点では、かなりいろいろと考えを巡らしていると感じる。
スポーツ+ラブ+ファミリー=自分探し青春ムービーという、ある意味ではパターンの映画である。けれどそのどれをも疎かにせず、ローラーゲームそのものの持つ猥雑さを大切にし、それをパンクロックとロマンスで彩ることで「若者の特権としての、ガムシャラに自由に突き進んでいくことがカッコイイと信じる純粋さ」を醸し出し、WWFなどエクストリームスポーツへの愛情も散らしながら、上手くまとめてある印象。
単なるノスタルジーに終わらない、可愛くって演出的な見せ場も多い、優れた作品だと思う。
●主なスタッフ
初メガホンの監督と同様、原作・脚本のショーナ・クロスも、それほどキャリアのある人ではないらしい。そのぶん周囲がガチっと支える。
撮影は『ダージリン急行』や『スウィート・ロード』のロバート・D・イェーマン、編集は『ザ・タウン』や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のディラン・ティチェナー。
プロダクションデザインは『ダークナイト』や『プレステージ』でアート・ディレクターを務めたケヴィン・カヴァナー、衣装は『グレイ・ガーデンズ 追憶の館』や『ブレイブ ワン』のキャサリン・マリー・トーマス。
音楽は弦楽四重奏のセクション・カルテットだが、ポップなサントラは音楽スーパーバイザーの力が大きい感じ。『マイレージ、マイライフ』や『私がクマにキレた理由』のランドール・ポスターだ。
劇中でオリヴァーのバンドが披露する「Get Up Get On Down (Tonite)」がカッコイイ。演奏はTurbo Fruitsとオリヴァー役ランドン・ピッグ(ダウンロード中心にそこそこヒットを出しているアーティストらしい)。
サウンドエディターは『アバター』のクリストファー・スカラボジオ。スタントは『プレデターズ』のジェフリー・F・ダッシュナウ。
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