ミックマック
監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:ダニー・ブーン/ジャン=ピエール・マリエール/ジュリー・フェリエ/オマール・シー/ドミニク・ピノン/ヨランド・モロー/ミシェル・クレマデ/マリー=ジュリー・ボー/アンドレ・デュソリエ/ニコラ・マリエ/アーバイン・キャンセリエ
30点満点中19点=監3/話4/出4/芸4/技4
【傷だらけの男の大復讐劇】
幼い頃に戦争で父を失ったバジルは、撃ち合いに巻き込まれて脳天には銃弾が埋まったまま。その日暮らしの彼は、拾い集めた廃品を修理して生活する「ギロチン刑から生き延びた男」プラカールらと“家族”になる。あるときバジルが見つけたのは、道路を挟んで向かい合わせに建つ2つのビル。それらこそ、父を殺した地雷のメーカーと、脳に埋まった銃弾の製造会社だった。気のいい家族を巻き込んだバジルの復讐劇が始まる。
(2009年 フランス)
【好きじゃない作りのはずが、楽しくって】
設定・あらすじはストレート。シリアスタッチの作りでも十分に通用しそうなものだけれど、そこはジャン=ピエール・ジュネ、コミカルかつシュールに仕上げてくる。
実は『アメリ』って好きくないのだが、いっぽうで『エイリアン4』にはわりかし好印象を持っていて、この監督(の作品の肌ざわり)は自分にとって題材や脚本や観るときの体調などによって大きくイメージが変わるってことなのかも知れない。
で、本作はマル。
いや、ちょっと気忙しくて、人の動きや表情をデフォルメして見せていくコント仕立ての作風は、やっぱり好きではない。でも、セピアに塗られた世界、アングルもサイズも動きも多彩な映像、廃品で作られた家、テンポのいい音楽などとあいまって、温かくてユーモラスで、でもアンタッチャブルな世界が、いい感じで目の前に現れる。
そこで動き回る登場人物たちも、またユニーク。キャラクター設定がしっかりしていて(これまたデフォルメされているけれど)、それぞれの性格や能力がちゃんと展開に対して生きてくる(かなり強引ではあるけれど)のも誠実だ。
冒頭、地雷の撤去作業から成長したバジルが撃たれるまで、たいして意味のあるセリフを用いずに状況を描いてしまう流れが上質。
また「恐らくバジルは父の足取りを追って北アフリカのことをいろいろと調べるうちに『カサブランカ』と出会い、何度も観ることになったんだろうなぁ」とか、「バジルが披露するさまざまな芸やバイタリティは、放浪の歴史ゆえなんだろうなぁ」など、描かれない背景まで詰め込んで読み取らせてしまう楽しさもある。
ひたすら偶然だけに頼って展開する前半は、いっそ潔くって愉快。一転して後半ではバジルたちのスリリングな悪だくみ(?)と武器商人たちのリアクション、すなわち計画と必然と予想外の出来事とが絡み合う頭脳戦が繰り広げられて、これも愉快。そして、いきなり反戦へと持っていくというアクロバティックなクライマックス。
最初からラストまで、人を食ったようなストーリーと描写で押し通すことで、キレイにパッケージングされたひとつの「作品」が出来上がっている。
前述の通りシリアスタッチでも通用する設定とテーマを、リアリティのないファンタジックなコメディとして、でも「んなわけねーよ」と笑えない絶妙なバランスの中できっちりとまとめてみせて、面白い映画体験をもたらしてくれる1本である。
●主なスタッフ
脚本は監督自身と『ベティの小さな秘密』のギョーム・ローラン。
撮影は『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』の永田鉄男、編集は『マンデラの名もなき看守』のエルヴェ・シュネイ。
音楽のラファエル・ボーは、これが映画デビューの模様。軽快で世界観にもあっていて、サントラが欲しくなるデキ。サウンド・エディターは『落下の王国』のジェラール・ハーディで、VFXも『落下の王国』に携わったチームのようだ。スタントは『ボーン・アイデンティティ』に関わったパトリック・コーデリエ。
そのほか、美術のアリーヌ・ボネットや衣装のマデリーン・フォンテーヌなど監督の過去作でも仕事をしている人が多く、ジュネ組といって差し支えないスタッフ構成。
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