シングルマン
監督:トム・フォード
出演:コリン・ファース/ジュリアン・ムーア/ニコラス・ホルト/マシュー・グード/ジョン・コルタハレナ/ポーレット・ラモリ/ジニファー・グッドウィン/リー・ペイス/ニコール・スタインウェデル/ケリー・リン・プラット/アーロン・サンダーズ/ポール・バトラー/ライアン・シンプキンズ
30点満点中17点=監4/話2/出4/芸4/技3
【喪失の果てに】
1962年、キューバ危機に揺れるロス。大学教授のジョージは、16年間ともに暮らした最愛の存在ジムを交通事故のため喪って、沈んだ日々を過ごしていた。近隣に住む元恋人チャーリーとの会話も、誰も真面目には聴いていないように感じられる講義も、空しいばかりだ。やがてジョージは、チャーリーら知人に宛てた手紙をしたためたり身の周りを整理したりなど、ある“準備”を粛々と進めていく。いよいよその日はやって来たが……。
(2009年 アメリカ)
【撮りかたとお芝居で内容をカバー】
監督はグッチやイヴ・サンローランでデザイナーとして活躍した人物で、これが映画デビューなんだとか。その割にはしっかりと意志を持ったうえで作られているという印象。
コマを跳ばしたりスローに落としたり音をオフにしたり、変化に富んだ画面がジョージの「断片だけが繋ぎあわされた生活」を感じさせる。舞台となっている年代に合わせた“ネガから焼きました”風の、やや古ぼけた色調も気が利いたものだ。もちろん美術や衣装も、当時の様子を再現。
また、ジョージが会話する相手の視線(というより眼)やニオイをクローズアップすることで、ジムとの日々を思い出している彼の心の動き、あるいは「ジムとは別の誰かと、別の関係を築いていたらどうだったか?」といった空虚な可能性への想いを漂わせているのがいい。
全体に、ただ撮るだけじゃなく、こんな風にしたい、こう撮りたいといった主張を感じ取れる仕上がりといえる。
その中で動く役者たちも上質。コリン・ファースはこの人の守備範囲内といったイメージの安定した演技を見せ、ジュリアン・ムーアは逆にやさぐれたバツイチ女性を熱演。ニコラス・ホルト(真っ当に美少年に育ったもんだなぁ)のケニーって難しい役だと思うのだが、ピュアかつノーブルかつ健やかに演じ切っている。
撮るほうも、そうした演技を大切に、しっかりすくい取ろうとしていて、お芝居映画としての趣も強い。
ストーリー/展開は、深い喪失感の中で苦しむ男を一方的な視点から淡々と描いていくだけであり、ジョージの立場をスペシャルにも普遍的にも語っているわけではなく、そう面白いとはいえないし、心に響くわけでもない。
ただ、撮りかたと演技で最後まで見せ切ってくれることは確かだ。
●主なスタッフ
撮影は『[リミット]』のエドゥアルド・グラウ、編集は『キル・ビル』シリーズに携わったジョアン・ソベル。
プロダクションデザインは『マッドメン』などのダン・ビショップ、衣装は『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』のアリアンヌ・フィリップス。音楽はアベル・コジェニオウスキと『デイジー』などの梅林茂、サウンドチームは『ミルク』のロバート・ジャクソンとレスリー・シャッツ。
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