[リミット]
監督:ロドリゴ・コルテス
出演:ライアン・レイノルズ/ホセ・ルイス・ガルシア・ペレス/ロバート・パターソン/スティーヴン・トボロウスキー/サマンサ・マシス/イヴァナ・ミーニョ/ワーナー・ラフリン/エリク・パラディーノ
30点満点中19点=監4/話4/出3/芸4/技4
【生きてここから出られるのか?】
CRT社でドライバーを務めるポール・コンロイは、闇の中で目覚める。そこは身動きもままならない棺の中、最後の記憶はイラクでの配送中にトラックが襲われたこと。携帯電話とともに生きたまま埋葬された彼を、テロリストは「身代金を払わないと死ぬ」と脅迫する。ポールは妻や会社、FBIなどと連絡を取って何とか救援を呼ぼうとするのだが、思うように事態は進まず、犯人からの脅迫はさらにエスカレートしていくのだった。
(2010年 スペイン/アメリカ/フランス)
【恐怖を生み出すもの】
主要スタッフはスペインで短編やTVドラマを作っていた面々で、監督にとっては長編2作目。予算は限られていただろうし、ある意味では「こういうコンパクトなものしか撮れない」状況だったはずだ。
が、「その中でどれだけ面白いものにできるか」「ここからもっと高みを目指そう」という意志にあふれた仕上がりとなっている。
にしても、これまで映画にできる最狭シチュエーションはエレベーターだと思っていたのだが、それをアッサリと覆すヒラメキが見事。
オープニングからしばらく、観客を闇の中に置くのも気が利いている。これ劇場だったら、さぞかし観る側も息苦しいだろう。以後も音だけの場面が何度も挿入され、その度にジリジリとした思いに駆られる。
とにかく、暗い、狭い、熱い、怖い、不測のアクシデント、残酷な要求、留守番電話にタイムリミットにたらいまわしと、人をパニックと不快感に陥れる理不尽の連続。それを絶妙のテンポとタイミングで描き、ポールと観客を焦燥感と諦観へとズルズル引き込んでいく。
さすがに単調だから、と回想などで“逃げる”手もあっただろうが、潔く「全編が棺の中」、カメラが外へ出て行かない(携帯電話に送られてくるムービーはあるけれど)ってのが凄い。
肌の質感まで捉える撮影(そりゃあ狭さを出すために至近距離から撮るんだから当然だ)、揺れるライターの火に見え隠れする苛立ち、締めつけられるような木の軋み、細かな編集などで、密度感もスピード感も豊かな画面を作り、まったく飽きさせない。
足もとのメモを取るという行為だけでたっぷりと時間を費やすなど、リアルタイムに近い構成も感情移入を誘う。
意外と重要なのが、ポールのキャラクター、というか、ほどほどのインテリジェンス。ちょっとヒステリックではあるけれど理にかなった行動(ジタバタするところも含めて)を取る。
観る側が「なんでそうする?」と醒めてしまうほどのバカではなく、この状況下における「選択肢(誰に連絡を取って何を伝えるか、など)としてありうるいくつか」の範囲内でしっかりと対処していく。ここが疎かだと途端にウソっぽくなるところだが、上手いまとめかただ。
単なるワン・アイディアものにとどまってはいない点も好感。ハヤリのシチュエーション・スリラーかと思いきや、その仮面の向こうにはしっかりと「9・11以後の世界」がテーマとして顔をのぞかせる。
鑑賞中に抱いた「こんなことになったらヤだな」という恐怖を、鑑賞後には「こういうことが起こるようになってしまった世界」に対する恐怖へと変えてみせるのである。
たぶん、第三、第四のマーク・ホワイトは次々と生み出されている。そういう時代だからこそ(加えて携帯電話時代だからこそ)作られた、ともいえる映画だ。
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