GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0
監督:押井守
声の出演:田中敦子/大塚明夫/山寺宏一/大木民夫/玄田哲章/生木政壽/仲野裕/山内雅人/家中宏/小川真司/宮本充/山路和弘/千葉繁/松尾銀三/松山鷹志/林田篤子/坂本真綾/榊原良子
30点満点中18点=監3/話3/出4/芸4/技4
【人形使いを追う公安9課】
電脳と義体によるサイボーグ化が当たり前となった時代。プログラマーの亡命阻止や某国要人の暗殺未遂といった汚れ仕事を無事にやり遂げた草薙、バトー、トグサら公安9課は、この事件の裏に、外交問題を専門とする6課の思惑と、自在にネット空間を泳ぎ、人間の心にある“ゴースト”を操る謎の凄腕ハッカー「人形使い」の存在を嗅ぎ取る。やがて人形使いは、自ら9課に接触を図る。果たして彼/彼女の狙いは何なのか?
(2008年 日本 アニメ)
【私を私たらしめるもの】
1995年に作られたオリジナルのリメイク版。
wikipediaによれば、3DCGを含む新作カットの追加、色調の調整(ブルー/グリーン系からオレンジ系へ)、音響のサラウンド化とセリフ・音楽・SEのリニューアル(おなじみスカイウォーカー・サウンドも参加)などが施されているとのこと。
確かにブラッシュアップされた気配は満々。でもオリジナル自体の完成度がそこそこ高いから、あまりリメイクの意味はなかったようにも思える(特に3DCG)。
少佐の顔の造形が安定していないし、乗り物の挙動にも疑問があり、緻密さや滑らかさといったアニメ表現の部分では続編『イノセンス』のほうが上だろう。が、実写的な光と影の使いかた、『ブレードランナー』を思わせる混沌の美術、アジアンながら無国籍な音楽など、パーツの1つ1つが作品世界をしっかりと支えている。
また実写よりやや引いた位置から撮ったような絵が多く、舞台全体をパっと見渡せるようなフレーミング。その中で人をダイナミックに動かし、カメラも動くことによって、カット数を少なく抑えつつもテンポのよさとスピード感を創出している、というイメージだ。
構成的にも、あえてダラダラにした『イノセンス』とは異なり、複数の事件・人物をつなげながら要所に銃撃や格闘を盛り込んで、SFエンターテインメント刑事アクションとして成立させてある。
かつ、その中で深遠なテーマにも突っ込んでいく。
恣意的にセリフを多めにして観る者を「考えたいんだけれど思考スピードがついていけない」という状況へ追い込むのは『イノセンス』と同じだが、本作のほうが「人を人たらしめるもの」「その要素としての記憶」「だが書き換え可能な記憶にどれほどの意味があるのか」「それでも記憶・情報を曖昧な形で残し、途絶えさせないようにして死ぬのが生命」「進化の樹は根や幹を太くするのではなく枝葉の広がりという多様化へと向かう」「ならば人の進化の行く先は極限的多様化と、全情報へのアクセスと活用およびニアリー・イコール的なコピー増殖」……といった哲学を、わかりやすく提示してくれている。
雑踏のノイズ、静寂、孤立で「自己と他者との境界・区別」を体感的に描くのもまた、わかりやすい。
今回、人形使いの声が家弓家正から榊原良子へ変更となったが、これまたわかりやすさへとつながったのではないか。女性の持つ神秘性や母性こそが“次なるステップ”への進化や“新しい形の生命”の誕生にはふさわしい。田中敦子といい坂本真綾といい、ちょっと「上から」の口調もM属性の身としては嬉しいし。
で、「私を私にしているもの」についての個人的見解。そりゃあ確かに記憶や思考なんだろうけれど、んなもの、ただの化学反応、脳波が止まればお終い、死んだらそれまでっすよ。コピー(子ども)にだって受け渡せるのは遺伝情報だけ。どうしたって「私そのもの」は残らないわけで。
でも、悪い部分も含めた「私」がそっくりそのまま残るってのも怖い。だからといって自分の中の認めたくない部分を排除すれば、それは「私」ではなくなってしまうだろう。そもそも記憶や思考のどこからどこまでを「私」とすべきなんだろうか。
そんな命題に向き合っているからこそ人は、ブログやメールといった他者と距離のあるツールで人とつながって、「曖昧な私の残滓」を曖昧なまま誰かの記憶に植えつけようとするのかも知れない。
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