PERFECT BLUE パーフェクトブルー
監督:今敏
声の出演:岩男潤子/松本梨香/辻親八/大倉正章/秋元洋介/塩屋翼/堀秀行/篠原恵美/古川恵実子/新山志保/江原正士
30点満点中16点=監4/話3/出3/芸3/技3
【アイドルからの脱皮を図る女優に恐怖がまとわりつく】
売れないアイドルグループ「チャム」のメンバー・霧越未麻は、社長・田所の方針でグループを卒業、女優として再スタートを切った。自身も元アイドルだったマネージャー・ルミの心配をよそに、TVドラマ『ダブルバインド』での汚れ役も辞さない未麻は話題を集めるようになる。だがそんな未麻に脅迫やファンレターを装った爆薬が届き、未麻の部屋も誰かに盗み見られているような気配があった。やがて追い詰められた未麻の心は……。
(1998年 日本 アニメ)
★ネタバレを含みます★
【一貫性の中に見えるマズさ】
シームレスにつながる現在と過去、現実と非現実(精神世界)のシンクロニシティなど“曖昧なボーダーライン”に徹底してこだわった作り。
フラッシュバックからそのまま未麻のリアルタイムの描写になだれ込んだり、ドラマの役柄と未麻の精神状態を結びつけてみたり、観ている者に「いま観ているのは、いつの、誰の、何か」という不安を与え、それが全体のホラーテイストを底上げする。元アイドルである岩男潤子の起用も確信的なものだろうし、そういう意味では、ストーリーから演出、プロダクションまで一貫性のある仕上がりだ。
モブの線が雑でいかにも古めかしかったり、動画枚数がやや少なく感じられる場面もあったりする。が、振り付けと音楽を頑張って一致(これまたシンクロだ)させ、ペンをコツコツさせてイライラを表現するなど、作画と演出の融合はまずまず丁寧。
インターネットやストーカーなど、当時としては“新しいモノ”を先取りした点も評価されるべきなのだろう。
が、普通に考えれば実写向きのネタ、アニメにする意味はあまり感じられない。実際、当初は実写作品として企画されたそうだ。
まぁ、となると未麻と境遇を同じくする「売れるために少々の汚れ役も引き受ける元B級アイドルの女優」を持ってきたいところで、それでは作品そのものがキワモノっぽくなってしまうかも知れない。そうした安っぽさの排除+「非現実と現実の境目がテーマ」という点を考えれば、アニメで正解だったともいえる。
と、それなりに感心・納得できる仕上がりなのだが、ちょっといただけないと思ってしまう原因もハッキリとしている。
ひとつは、未麻の頭が悪すぎという点。いや、「自分の夢と現実とのギャップ、将来、ストーカー被害など複合的な不安に苛まれているB級アイドル女優」という彼女の立ち位置ならではの感情の微妙な部分が十分に描かれていない、というべきだろうか。未麻の精神崩壊が強引に進んでいく感じ。
強引といえば事件の真相もまたちょっと強引で、しかも半分くらいで犯人がわかってしまうのは興醒め。
それと、せっかくストーリーも描写も現実性(リアリティ)をテーマにしていながら、1つのセリフと次のセリフとのコンマ何秒かのふわっとした空気感など、全体として“間(ま)”がアニメ的なのも辛い。
で、ここからは、ひょっとしたら大きなネタバレになるかも知れない点。
ダーレン・アロノフスキー監督作『ブラック・スワン』の元ネタが、この『パーフェクトブルー』じゃないか、という話。アロノフスキー監督本人もどこかで認めていたんだっけかな。確かに未麻がバスタブの中で絶叫するシーンが再現されていたりする。
でも、描きかたもキャラクター設定もオチも目指すところも、まったく違っていたよな、というのが実感である。
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