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2013/04/03

キック・アス

監督:マシュー・ヴォーン
出演:アーロン・ジョンソン/クロエ・グレース・モレッツ/マーク・ストロング/クリストファー・ミンツ=プラッセ/リンジー・フォンセカ/エヴァン・ピーターズ/クラーク・デューク/ソフィー・ウー/マイケル・リスポリ/ステュー・ライリー/デクスター・フレッチャー/コフィ・ナテイ/ザンダー・バークレイ/オマリ・ハードウィック/ギャレット・M・ブラウン/デボラ・トゥイス/エリザベス・マクガヴァン/ニコラス・ケイジ

30点満点中19点=監4/話3/出4/芸4/技4

【ダメダメ男はヒーローになれるか?】
 女子には気にも留められず、好きなケイティに想いを打ち明けられず、友人たちとマンガ喫茶に入り浸るダメダメ高校生のデイヴ。でも彼にとって最大の気がかりは、誰もヒーローになろうとしないこと。空想の世界だというけれど、悪党は実在するのだから……。ついに彼はネットで購入したタイツに身を包み、英雄キック・アスとなって町の悪を退治することに。キック・アスの行動は次第に話題となるのだが、デイヴには危険が迫る。
(2010年 イギリス/アメリカ)

【思いもかけずパンク映画】
 ダメダメ男がヒーローに憧れてっていう設定やヴィジュアル・イメージ、オープニングの雰囲気などからは完全にコメディ。
 でも実際は、そんじょそこらの「前衛的」「衝撃」と称される映画より、よっぽどパンクな作品。

 作りとしては確かに、コミカルなノリ。流れるようなシーン遷移に気を遣い、カートゥーン風味のヴィヴィッドなカラーで世界をまとめ、アクションも多彩で、予測不能なストーリーをスピードとパワーでグイグイと推し進めていく。衣装やスタントやSFXなど、各所にプロフェッショナルを配してあるなぁという印象も抱かせる。

 とりわけ素晴らしいのが(常軌を逸したともいえるほどの)選曲センス。格闘の背景に『Bad Reputation』とか『Make Me Wanna Die』とか、このミスマッチがミスマッチに思えないブッ飛び具合がパンク。

 さらに大きな見どころは、ヒット・ガールを演じたクロエ・グレース・モレッツちゃん。『(500)日のサマー』でも光っていたけれど、ここではその何倍もキュート。wikipediaによれば「マーシャルアーツ、ガンアクションなどの過激なアクションシーンの9割を自分自身で演じ、撮影前に7か月の訓練をおこなった」とのことで、もう脱帽どころか脱衣したくなるくらいに感服。あのタレた目とね、厚めの唇がいいんですわ。
 ニコラス・ケイジ(なんで出てるんだ)も、ノリノリだけれどそこをグっと抑えて適切な芝居をしているところが頼もしい。

 で、そういうハジけた外観の中で語られるのは、意外とシビアなテーマ。表面的には勧善懲悪のアクションであるものの、裏にはパンク・ロックの大テーマ=「俺自身のアイデンティティは俺自身が作る」が潜んでいる。

 ヒーローなんていないという諦め。正面切って善や正義を貫くことに対する照れと恐怖。そういう価値観に蝕まれた社会や自分の弱さへの反省。
 そこから一気に、ヒーローを生むのは「楽天性と純真さの完璧な融合」だと強引に、でも説得力のある理由と展開を打ち出してくる。

 けれどもデイヴは常に「自らをどう偽るか」という苦悩に直面することとなる。ダメ人間だと思われたままのほうがホントに気楽なのか。ゲイだと誤認されても彼女と親しくなれればそれでいいのか。そして、弱くても正義の心を持っていればヒーローなのか……。それらの問いをデイヴは、なんとかひとつずつクリアしていく。

 要するに、僕らが取り組んでいるのは、ダメ人間だろうがヒーローであろうが、「そうやって生きること」とか「自らのアイデンティティを確立すること」からスタートする、生きかたそのものに対する決意、セルフ・プロデュースにほかならない。「こうしよう」と決め、行動に移した時点で、その人はヒーローになったり普通のイケていない高校生になったりする。どちらも“生まれる”のではなく、自分自身の意識キッカケで“作り出す”ものなのだ。

 つまりは、ヒーローという題材を用いて「どう生きるか」を描いた映画。しかもヒーローとして生きると決めたデイヴに、そこが暴力で汚れた世界だということもちゃんと知らせて、「マザー××ッカー」と叫ばせる。
 子どもが主人公なのに監督がバイオレンス描写やスラングにこだわったのは「やっぱり現実も直視しなくちゃならないよ」「自らを作り、自らとして生きるためには、綺麗ごとばかりいっていられないよ」という意識の表れなのだろう。

 資金が集まらず自主映画として撮られたという点も含めて、ヒーロー映画とヒーローそのものの定義を根本から覆すかのような快作。まぁ昨今のヒーロー映画は昔と比べて「自らの存在意義に悩む」ことが増えているけれど、それを青春アクション・コメディにちゃんと落とし込んでしまったのが本作のポイントだろう。
 本作の次に監督が撮ったのが『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』というホンモノのヒーロー映画だという事実もシャレが効いている。効いているんだけれど、思えばテーマには共通している部分もあって、それがまた面白い。
 続編も計画されていてクロエちゃんもやる気満々らしいので、期待。

●主なスタッフ
 原案は『ウォンテッド』のマーク・ミラーで、脚本は『スターダスト』『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のジェーン・ゴールドマンとマシュー・ヴォーン自身。
 撮影も『スターダスト』のベン・デイヴィス、編集は『ディセント』のジョン・ハリス、『アメリカン・ギャングスター』などリドリー・スコット作品のピエトロ・スカリア、『バイオハザードII アポカリプス』のエディ・ハミルトン。
 プロダクションデザインは『スウェプト・アウェイ』のラッセル・デ・ロザリオ、衣装は『キンキーブーツ』のサミー・シェルドン。音楽は『ダブリン上等!』などのジョン・マーフィ、『モンスターVSエイリアン』のヘンリー・ジャックマン、『エニイ・ギブン・サンデー』のマリウス・デ・ヴリーズ、『スターダスト』のアイラン・エシュケリで、音楽スーパーバイザーは『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』などのイアン・ニール。サウンドチームは『ペネロピ』のマシュー・コリンジとダニー・シーハン。
 SFXは『ロックンローラ』のデイヴィッド・ハリスと『マックス・ペイン』のマイケル・イナネン。VFXは『007/慰めの報酬』のジェッペ・N・クリステンセンや『ハリー・ポッターと謎のプリンス』のマティアス・リンダール。スタントは『ヘル・ボーイII』のブラッドリー・ジェームズ・アラン、『ウルフマン』のスティーヴ・デント、『インセプション』のスティーヴ・グリフィン、『パーシー・ジャクソン』のペン・チャン。

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