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2013/04/07

クラウド アトラス

監督:ラナ・ウォシャウスキー/アンディ・ウォシャウスキー/トム・ティクヴァ
出演:トム・ハンクス/ハル・ベリー/ジム・ブロードベント/ヒューゴ・ウィーヴィング/ジム・スタージェス/ペ・ドゥナ/ベン・ウィショー/キース・デヴィッド/ジェームズ・ダーシー/ジョウ・シュン/デヴィッド・ジャーシー/スーザン・サランドン/ヒュー・グラント/ロバート・フィフェ/マーティン・ワトケ/ブロディ・ニコラス・リー/レヴァン・リー・ハナン

30点満点中22点=監4/話4/出5/芸5/技4

【人の世に生まれた魂の、6つの物語】
 奴隷貿易の実際を目の当たりにした弁護士は病に倒れ、若き作曲家は愛と引き換えに永遠を望む。ゴシップ誌の記者は原発にまつわる陰謀に巻き込まれ、編集者は作家からの脅迫を機に窮地へと追い込まれる。愛に目覚めた複製種の少女は世界に語りかけ、罪悪感に苛まれる狩人は世界を救うための旅に出る。1849年から現代、そして遥か未来まで、幾度も過ちを繰り返す人たちと、運命に抗って立ち上がる人たちによる、6つの物語が始まる。
(2012年 ドイツ/アメリカ/香港/シンガポール)

★ネタバレを含みます★

【人は何のために生きるのか】
 6つの物語(時代的には7つ)が時制を自由自在に行き来しつつ描かれるのだが、これだけクセのある監督たちの割には、それぞれの仕上がりは意外に真っ当というか、ストレート。たとえば『ラン・ローラ・ラン』『スピード・レーサー』の格闘シーンのような“ぶっとび”は影もない。映像美だけに走るわけではなく、適確に見せるべきものを見せていく。

 ただ、各自のキャリアの集大成的な空気はある。銃撃戦をはじめとするアクションのキレ、近未来型スピーダーによる追跡劇のスピード感、汗臭さと血なまぐささと無機質の共存、民族やライフスタイルの多様性、そして何より人物の感情と行動が直結していると確かに感じられるダイナミズム……。それらは間違いなく、この監督たちが過去作で堪能させてくれた特徴だ。

 そうした作風を支えるべく、各スタッフも力一杯。毛穴までクッキリとうつし出す撮影は、時に青暗く(主に姉弟のパート)、あるいは赤茶けた(主にティクヴァ監督のパート)世界を作り出し、リアルに、イマジネーション豊かに舞台を広げていく。音楽はこってりと、サウンドメイクは眉間の奥に直接響くよう整えられて画面を彩り、そこまで人は化けられるのかと衝撃を受けるほどにメイクの仕事も立派。
 ヒューマン歴史ドラマ、文芸的な雰囲気をたたえる愛憎劇、ポリティカルサスペンス、コメディ、ディストピアもののSF、そして文明崩壊後の活劇と、まったく色合いの異なるストーリーを、1本ずつしっかりと妥当な形にしながら、こうしてまとめても違和感なくつながるのは驚きだ。製作費推定1億ドルという安さを知って、さらに驚く。

 役者たちも、前述のメイクの仕事とも相まって、それぞれの時代・世界でそれぞれの役に成り切り、完遂する。
 ルイサ、メロニムともに「ああ、この人らしいな」と安定した芝居を見せるハル・ベリー。ビビアンとティモシー、同じ老人でも振り幅のある役を見事に演じ切るジム・ブロードベント。振り幅といえば、ジム・スタージェスのアダムとヘジュは同一人物とは信じられぬほど。ヒューゴ・ウィーヴィングも、殺し屋、女看護師(!)、亡霊と多才ぶりを示す。ヒュー・グラントなんか社長役しかわからなかったくらいだ。
 唯一、トム・ハンクスだけは常にトム・ハンクス。彼の演技力に期待したことに加え、後述の、本作のキーたる“魂の体現”の象徴だと考えれば納得のいく扱いだろう。

 そして、ペ・ドゥナ。機械的でありながら誰よりも生々しく、哀しさと希望とを併せ持つ“唯一無二の存在”。このソンミ451は、『ブレードランナー』のレイチェルやドゥナちゃん自身による『空気人形』ののぞみなどと並んで「人であることを望むもの」の系譜に大きく刻まれるべきキャラクターだろう。

 さて、ストーリーだ。6つの物語が並行して進むという仕掛け、それらを鮮やかにつなぎ合わせる編集の技&ひとりが複数の役を演じる工夫はあるものの、前述の通り描きかたとしてはストレート、映像だけに凝っているわけではなく(もちろん十分にスタイリッシュではあるのだが)、だから「どう描くか」よりも「何を描くか」を重視したくなるところ。
 ところが6つの物語は、個々を取ってみればヒネリに乏しく、価値観を揺さぶられる若者、権力によって潰されそうになる夢、陰謀に立ち向かう使命感、思い通りに行かない人生など、もはや出尽くした感のある筋立てばかりにも思えて、ある意味では陳腐。2144年のネオ・ソウル編は個人的には好みなんだけれど、それだって『ソイレント・グリーン』などの焼き直し。各エピソードが1本の映画として成立するかといわれれば「ギリギリ」といったところだろう。

 が、ここにはブレない軸がある。たとえ出尽くした感のある筋立てだとしても、いや、さんざん観てきた物語であるがゆえに本作の中へ組み込まれる意義があると信じられる、そんな、計算され、考え抜かれた力技とでも呼ぶべき“まとめ”に触れることができる。

 抑圧と服従、差別、理不尽で歪みまくった社会システム、人の世で繰り返される同じ過ち。その中で、その都度、人はささやかな希望を見出して大きなものに反抗しようとする。自分という一滴が、やがて大海になることを信じて。綴られるのは、そんな、一貫したストーリーだ。

 その6編すべてで、確かに人の世は弱肉強食の単純な構造を持つのかも知れないけれど、人が持ちうる最強の力とは金や権威などではなく、何かをしたい、何かをしなければならないと、心の奥底から湧き上がってくる意志の力なのだと示唆される。
 また『マトリックス』シリーズと照らし合わせれば明らかだが、ウォシャウスキー姉弟にとって「人の生きざまはどこまでプログラミングされているのか」が、映画作りにおける大きなテーマとなっているはず。その命題にこたえるべく、偶然の出会いを機に、運命に抗い、自分の進むべき道を自ら切り開いていく人々の様子が描かれる。

 パンフレットなどでは、同じ役者が演じるキャラクターは同じ魂が輪廻した姿だと捉えられており、中でもトム・ハンクスが各時代で体現する魂の変化・成長を6編の縦軸として扱っている。それも決して間違いではないのだろうし、まさに製作者サイドが狙ったことでもあるのだとは思うが、そこに囚われる必要はないだろう。
 むしろ、人という種、人が作り出す世すべてに通ずる業が、ここにはあると考えたい。

 たぶん人っていうのは「自らの知恵を追い越してしまうほどの深い欲望」に突き動かされて、間違ったほう間違ったほうへ進むものなのだ。そういう意味ではプログラミングされた生き物。
 だが同時に、その運命を何とか変えたいという情念も持ち、だからこそ生きる意味を見出すことも可能となる。
 それこそがまさに、キャッチコピーでいうところの「人生の謎」、「人は何のために生きるのか」に対する回答。

 数百体のソンミ、その中の“ひとり”が得た目覚め。それは、どんな人間においても、並行する存在や繰り返しの中に、きっと、過ちに気づき、自らの意志で自らの未来を決定しようとする“ひとり”はいるという希望に他ならない。その“ひとり”になるべく、僕らは生きるのだ。
 もちろん挑戦の多くは、欲望や怠惰や無責任や他者からの干渉や抑圧によって消し潰されることになるのだが、それでも僕らは生きることをやめられない。その姿の、尊さ。

 ウォシャウスキーズ&ティクヴァ版の『火の鳥』だという指摘はすでに各所でなされているようだが、あの超大作を真っ向からスクリーンでやり遂げてしまったことが嬉しい。
 人は愚かである。が、だからこそ愛おしい。自分自身の“映画の観かた”に真正面からぶつかってきてくれる作品であったことが、嬉しい。

 もう一度いうが、実は、1つ1つの物語は大したことはない。映像表現もこの監督たちにしてみれば大人しいものだ。
 でも本当に、まさに、人の生を描いた映画。172分が長いどころか短いとすら感じてしまう(尻は痛くなるが)、そんな大作である。

●主なスタッフ
 デイヴィッド・ミッチェルの原作を監督チームが脚色。
 撮影監督のフランク・グリーベ、プロダクションデザインのウリ・ハニッシュ、衣装のピエール=イヴ・ゲロー、ティクヴァとともに音楽を担当したジョニー・クリメックとラインホルト・ハイル、サウンドデザインのフランク・クルーズ、SFXのウリ・ネフツァー、スタントのヴォルカード・バフらは『パフューム ある人殺しの物語』『ザ・バンク 堕ちた巨像』と同じスタッフで、ティクヴァ組ともいえる面々。
 プロダクションデザインのヒュー・ベイトアップや衣装のキム・バレットらは『スピード・レーサー』など姉弟組のスタッフ。
 ほかでは撮影が『ゴーン・ベイビー・ゴーン』のジョン・トール、編集は『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』のアレクサンダー・バーナー、ヘアメイクは『グッバイ、レーニン!』のハイケ・メルカー、SFXは『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』のアンディ・ウイリアムズ、VFXは『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のステファン・セレッティ、スタントは『ナイト&デイ』のジョルディ・カサレス。

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