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2013/05/28

クレイジー・ハート

監督:スコット・クーパー
出演:ジェフ・ブリッジス/マギー・ギレンホール/ロバート・デュヴァル/ポール・ハーマン/ライアン・ビンガム/ジャック・ネイション/コリン・ファレル

30点満点中17点=監3/話2/出4/芸4/技4

【あるカントリー・シンガーの日々】
 カントリー界往年のスター、バッド・ブレイク。いまは落ちぶれ、自ら運転するクルマで地方を巡る日々。歌う舞台はボーリング場やホテル、町の小さなバー、手放せないのは酒瓶だ。結婚にも4度失敗している彼は、シングルマザーの地方紙記者ジーンと出会い、また愛に目覚める。さらに、かつて音楽を手ほどきしたトミー・スウィートからコンサートで前座を務めるよう要請され、最初は渋っていたバッドだったが、これを受諾することになる。
(2009年 アメリカ)

【「こんな男でしかない」男】
 バッドの様子は、破天荒というより、いい加減。ボサボサの髪にポッコリおなか(運転中はベルトを緩めずにはいられないのだろう)。旅の道連れはウイスキーのボトル、親しいのは便器。ちょっとした気分の違いでステージのデキもコロっと変わる。観ている者をヒヤヒヤさせる地味なダメっぷりが描かれていく。

 お芝居映画としての色が濃く、オスカー受賞のジェフ・ブリッジスはもうバッド・ブレイク(たいしたポリシーのない貧乏な元スター)その人でしかないし、相手役マギー・ギレンホールも戸惑いをはらんだ視線でしっかりと付き合う。ロバート・デュヴァルは気配を消し、コリン・ファレルは脇役をまっとうし、ジャック・ネイション君もナチュラルで上手い。

 正直「それだけ」の映画。くたびれたカントリー・シンガーとその周囲を追いかけるだけの作品といえる。撮りかた・まとめかたもオーソドックス。

 ただパーツには光るものもあって、音楽は、ジェフ・ブリッジスやコリン・ファレルの渋い声とともに聴かせる仕上がり。終始アンダー気味に、陰と影と暗がりをこれでもかと配し、その中に時おり差してまだら模様を作る光によって、バッドの置かれた位置が暗示される撮影も面白い。衣装には汗臭さや生活感がプンプンと漂う。

 そして「こんな男でしかない」というセリフ。たぶんこれって、多くの男が抱いている感傷じゃないだろうか。
 もちろん“落ちた”存在としてのバッドが、その落ちた原因としての己の不甲斐なさを嘆いて吐く言葉なのだが、たとえスポットライトが当たる世界にい続けようとも、同じような想いに囚われるはず。自虐ではなく純粋な自省であって、こういう魂が男を男にしているのだとすら思う。

 結局のところ「こんな男でしかない」男は、それぞれに適した愛や生活しか求めてはならないのだと女から教わって、実際に手にするのも「こんな男でしかない」者にふさわしい日常なのである。

●主なスタッフ
 原作はトーマス・コッブの小説。監督は『Xファイル』などに出演している役者で、監督自身が脚色も担当。撮影のバリー・マーコウィッツ、衣装のダグ・ホール、ともにビリー・ボブ・ソーントンなどの“役者監督”作品で数多く仕事をしている模様。編集は『エリン・プロコビッチ』に携わったジョン・アクセルラッド。
 プロダクションデザインは『リービング・ラスベガス』のワルデマー・カリノウスキー、音楽は『レディ・キラーズ』『ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密』のT=ボーン・バーネットと『ブロークバック・マウンテン』などのスティーヴン・ブルトン。サウンドチームは『リトル・ミス・サンシャイン』のアンドリュー・デクリストファロと『グラインド・ハウス』のパウラ・フェアフィールド。

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