« ツーリスト | トップページ | お家(うち)をさがそう »

2013/06/06

アカデミー賞 短編実写映画賞受賞作品集

 WOWWOWがオスカー受賞短編4本を放映してくれた。なかなか観る機会のないカテゴリーなので、嬉しい試み。ただ各作品のデキに関しては「バラつきがあるなぁ」というのが正直な感想だ。

■■ウエスト・バンク・ストーリー (2005年 アメリカ)

監督:アリ・サンデル
出演:ベン・ニューマーク/ヌーリーン・ドゥウルフ/A・J・タネン/ジョーイ・ネイバー

 パレスチナのウエスト・バンク地区、隣り合わせでレストランを経営するアラブ人とユダヤ人の“いがみあい”を描いたミュージカル。タイトルの通り、展開も撮りかたも『ウエスト・サイド物語』のパロディだ。
 まぁパフォーマンスとしてのクォリティや映画としてのスケール感はそう高くなくって、全体にTVの馬鹿コメディレベルだけれど。

 舞台背景をサラリと説明し、ちゃんとした歌・歌手やダンスを用意、国際政治や宗教とは別の次元での笑いも散らしてあって、オリジナルやパレスチナ問題を知らなくてもそこそこには楽しめるよう配慮されている。
 個人的には「今夜、君の家の外で、近所迷惑なほど大声で大げさなラブソングを歌おう」という、ミュージカルを皮肉るセリフがツボ。

 そもそも『ウエスト・サイド物語』だってシェークスピアのパロディ(とはいわないか)、要するにこういう衝突は人類史上永遠に繰り返されていくってことなんだろう。
 で、wikipediaによると「ファラフェル(この地方のコロッケ)についてはユダヤ人もアラブ人も食べかたに違いはない」そうな。つまり「人間、腹が減ったら何か食わにゃいかんだろ」というシンプルな真実が事態を解決に導くんじゃないかと。あるいは愛とカネ、または夢が、そういう機能を果たすことも事実。
 そういう真理を本作は高らかに歌うのである。15点。

■■ピックポケット (2006年 フランス)

監督:フィリップ・ポレ=ヴィラール
出演:マッテオ・ラズーキ=サファルディ/フィリップ・ポレ=ヴィラール/リシャール・モルギエフ/サミール・ゲスミ/エミリアーノ・サレス

 スリの一味を手伝うイケてない二人組、ランファンとフィリップは、ひょんなことから物乞いの少年を拾う。言葉を喋らぬその少年は、幼いながらも盗みの才能を発揮するのだが……、というお話。

 トボケた味わいとちょっとナナメ気味のセリフが特徴。ただ撮りかたとしてはサイズが乏しくて野暮ったく、各人の芝居もそれほど上手くない。終盤に少年が見せる楽しげな様子と、いかにも短編らしいテンポ+まとまり+オチはいいけれど、作品としての格は高くない。13点。

■■おもちゃの国 (2007年 ドイツ)

監督:ヨヘン・アレクサンダー・フライダンク
出演:ジュリア・ヨゲル/セドリック・アイヒ/タメイ・ブリュット・オズヴァタン/トリスタン・ミヒャエリス/クラウディア・ハブシュマン

 仲良くピアノを習うハインリッヒとダヴィッド。だがユダヤ人であるダヴィッドの一家は強制収容所へ連れて行かれることとなる。ハインリッヒの母は「彼らは遠い『おもちゃの国』へ行くのよ」と誤魔化すが、ダヴィッドと離れたくないハインリッヒはこっそり家を抜け出し……。

 音楽の厚み、美術や衣装、撮影のスケール感など、長編、それも大作なみの手間ひまがかけられ、高いクォリティを見せる。そういう意味で、かなり映画的な仕上がり。時制を操作して物語と描写の立体感も創出している。
 ストーリー的にもよく練られていて、小さなウソというミクロの部分で戦争に潜む残酷さや理不尽さを炙り出し、そこからアクロバティックに事態を転換させ、さらには人の生きざま・歴史というマクロなところへダイレクトにつなげてみせる。

 虐殺、あるいは切羽詰った中でのギリギリの思いつき、という愚かな行為の向こうに見える“人間の可能性”を感じさせる作品。4本の中ではもっとも重心が低く、優れている映画だと思う。18点。

■■ゴッド・オブ・ラブ (2010年 アメリカ)

監督:ルーク・メスニー
出演:ルーク・メスニー/マリアン・ブロック/クリストファー・ハーシュ/エミリー・ヤング/ミゲール・ロザレス/マーク・ゲセナー

 ジャズシンガーでダーツの達人でもあるレイは、ドラムのケリーに恋をしている。でもケリーはギターのフォジーに夢中だ。毎日祈りを欠かさなかったレイは、天からの贈り物=6時間だけ惚れっぽくなる矢を手に入れ、なんとかケリーとの恋愛を成就させようとするのだが。

 説明的な序盤、わざわざモノクロで撮るところ、素人臭い芝居、内省的ながら自己主張も強い物語など、いかにも自主制作っぽい空気に満ちている。実際、フィルムアカデミーの卒業制作として作られたようだ。
 でもグダグダ感はなくって、アングルや陰影、フレーミングなどはちゃんと計算されているように感じるし、全体の流れ、テンポ、まとまりは悪いわけではない。マリアン・ブロック可愛いし。16点。

|

« ツーリスト | トップページ | お家(うち)をさがそう »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: アカデミー賞 短編実写映画賞受賞作品集:

« ツーリスト | トップページ | お家(うち)をさがそう »