ハンナ
監督:ジョー・ライト
出演:シアーシャ・ローナン/エリック・バナ/オリヴィア・ウィリアムズ/ジェイソン・フレミング/トム・ホランダー/ジェシカ・バーデン/アルド・マランド/ジョン・マクミラン/ギュドラン・リター/ミシェル・ドカリー/ヴィッキー・クリープス/ケイト・ブランシェット
30点満点中18点=監3/話3/出4/芸4/技4
【復讐を誓う父と娘】
フィンランドの人里離れた地、雪と氷に囲まれた山小屋で暮らすエリックとハンナの父娘。ハンナは電気も音楽も知らぬまま、動物を狩り、格闘やナイフや銃のトレーニングに明け暮れる日々を過ごしていた。やがて準備は整い、ふたりは再会を誓って別々に小屋を後にする。狙うはCIAの工作員マリッサの命。エリックの妻、そしてハンナの母であるヨハンナの仇だ。家族とCIAの因縁、秘密裏に葬られたある計画が、いま目を覚ます。
(2011年 アメリカ/イギリス/ドイツ)
【パーツも雰囲気もいいのだが】
これから大きなことが始まる、という予感に満ちたオープニングから、謎めいた空気を残しながらもズンズンとストーリーは突き進んでいく。舞台となる場所・ロケーションの遷移の唐突さもあいまって、観る者をブンブンと振り回すような展開だ。
映画を構成するパーツでいうと、もう“音”に尽きる。無機質でSE的なサントラがうっすら漂う序盤から、いきなりの打ち込みへ。中盤からは民族音楽を巡る旅というイメージも出してくる。音数の多いサウンドデザインも特徴的で、「耳で観る」映画といえるほどの密度だ。
サウンドミックスはCinema Audio Societyでノミネートされ、音楽はLA批評家協会賞を受賞。それに納得のできる作りである。
ただし編集は、ビデオ・クリップかB級SFかっていう雰囲気(実際、ネタとしてはB級SFの要素も強いし)。それに文芸モノ・人情モノを撮ってきた人だけあって、どうもアクションにキレがない。
なんていうか、「凄ぇっ」と思わせる動き、カット、存在が見られず、ミッション型映画としては物足りないのだ。
それでも1カット長回しで緊迫感を生み出したりする中盤まではパワーで押していくし、「悪魔は細部に宿る」なんていう素敵なセリフも聞かせてくれるのだけれど、終盤へ向かうに連れて弱くなる。
たぶん、熱い想いを胸に秘めていたはずのエリック、真実を知ってしまってうろたえるハンナ、仕事と私情の間で揺れていたであろうマリッサ、それらのキャラクター造形や、キャラクターと行動との結び付けかたが練り上げられておらず、掘り下げられることもなく、だから、終盤の展開に説得力を持たせられなかったんじゃないだろうか。
文明にほとんど触れず育ったハンナ、という設定も、十分に生かし切れているとはいいがたいし。
もちろん、タイトル・ロール=ハンナを演じたシアーシャ・ローナンは素晴らしい。慣れない役柄に精一杯トライしている。
が、上記の通りシナリオ段階でのキャラクター造形が不安定、アクションの撮りかたに難があって、その魅力を十二分に引き出されているわけではないように思う。
いや実のところ、中盤までは面白いんだよなぁ。某映画を想起させるラストカットもいいし。
傑作になる要素はたっぷりあるんだけれど、アクション演出の拙さと、なんとかキレイにお話をまとめようと無理した(シンプルな復讐劇でよかったと思う)ことが、全体としての格を落としてしまった作品だろう。
●主なスタッフ
撮影監督は『サンシャイン2057』のアルウィン・H・カックラー、編集は『路上のソリスト』のポール・トシル、プロダクションデザインは『シャーロック・ホームズ』のサラ・グリーンウッド。
音楽はケミカル・ブラザーズで、サウンドチームは『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のクリストファー・スカラボジオ、『ノーカントリー』のクレイグ・バーキーといったオスカー・ノミネート級の面々。
SFXは『ブラック・スワン』のマイケル・バードや『イーオン・フラックス』のゲルド・ネフツァー。VFXは『サイレントヒル』のブレンダン・テイラー。スタントと格闘デザインは『ザ・ウォーカー』のジェフ・イマダ。
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