モンスターズ・ユニバーシティ
監督:ダン・スキャンロン
声の出演:ビリー・クリスタル/ジョン・グッドマン/スティーヴ・ブシェミ/ヘレン・ミレン/ジョエル・マーレイ/ピーター・ソーン/チャーリー・デイ/デイヴ・フォーリー/ショーン・P・ヘイズ/アルフレッド・モリナ/ジュリア・スウィーニー/ネイサン・フィリオン/ボビー・モナハン/オーブリー・プラザ/タイラー・ラビーン/ボニー・ハント/ボブ・ピーターソン/ジョン・ラッツェンバーガー/ノア・ジョンソン
吹き替え:田中裕二/石塚英彦/青山穣/一柳みる/宝亀克寿/嶋田翔平/姫野惠二/花輪英司/佐藤せつじ/石住昭彦/堀越真己/東地宏樹/田中英樹/東條加那子/三宅健太/柳原可奈子/磯辺万沙子/立木文彦/佐藤和太
30点満点中19点=監4/話4/出3/芸4/技4
【マイクとサリーの波乱に富んだ学園生活】
人間の子どもたちを怖がらせて集めた悲鳴で電気を起こしているモンスターの世界。幼い頃から“怖がらせ屋”になることを夢見るマイクことマイケル・ワゾウスキは、モンスターズ・ユニバーシティの怖がらせ学部に入学、猛勉強を続けていた。だが彼は「誰が見ても怖くない」という致命的な弱点を抱え、怖がらせ屋の名家出身でロクに努力もしないジェームズ・P・サリバン(サリー)と小競り合いの末に学部から追放されてしまうのだった。
(2013年 アメリカ)
★ややネタバレを含みます★
【満足のいく続編】
前作『モンスターズ・インク』の主人公であるマイクとサリーが、どんなふうに出会い、どうやって怖がらせ屋ナンバー1コンビにまで登り詰めたかを描くビギニングストーリー。前作との連続性をサービス的に盛り込んであるわけだが、本作単独で見た場合は“流れのよさ”が特徴だろう。
マイクを中心に据え、学園スポ根コメディの体裁を採り、怖がらせ屋への憧れ、大学での出会い、衝突と和解、限界と希望、ドタバタとユーモアが、プロローグからエンドクレジットまで丁寧に詰め込まれている。
怖がらせ大会でマイクが簡単に満点を取ってしまうところ、なんだか安直だなぁとシラケたのだが、ここでちゃんと責任を取るのが本作の誠実さ。全体に、こういう“ハズシ”によって物語の本流を大きく蛇行させながら、スリルもしっとりも、笑いも涙も、さまざまな要素をバランスよく配することで“流れのよさ”を生み出していると感じる。
前だけを真っ直ぐに見て無謀に突っ走るマイクの性格が、周囲を引っ張り事態を動かすという展開が徹底されていることも、ストーリーが無理なく進む要因だろう。そのマイクや、本当は気の弱いサリー、それぞれ異なる能力を持つウーズマ・カッパの面々など、各キャラクターをムダにせずちゃんと生かす配慮も効いている。
学期末テストで小競り合いをして学長を怒らせる場面、および人間世界に取り残されてしまう場面の、緊迫感は極上。
サリーがマイクを評する「お前は怖くはないが、怖いもの知らずだ」という言葉には、友への最大の敬意を感じる。ラスト、進入禁止ラインの手前で立ち止まるマイクの姿には「やっとここまで来たんだ」という彼の感慨に観る者が同調して涙する。
また「わかってるって。君はお姫様で僕は使用人……」というマイクの寝言が個人的にはツボ。『キャリー』や『E.T.』を思わせるシーンにもニヤリとさせられる。
さらに「長所を伸ばす」ことの本当の意味にも踏み込み、教育論を語る役割も果たしているといえるだろう。
描写としては、3Dの表現にさらに磨きかかかったな、という印象。画面の奥、よく見えない部分にこそ力を注いで細かく描き込むことで、世界の立体感とディテールを圧倒的に高めているのだ。
惜しむらくは、近所のシネコンでは吹き替え版しか上映してくれていない点。いや田中裕二も石塚英彦も抜群に上手いしキャラにハマっているし、子どもの頃のマイクを演じた佐藤和太くんの達者ぶりにも感心させられるのだが、ヘレン・ミレンとかアルフレッド・モリナもいるんだから原語で聴きたかったな、とも思う。
また学園スポ根コメディに徹し、意地悪なエリートグループとイケテないグループの対決という定型的なフォーマットに落とし込んだことも“流れのよさ”“まとまりのよさ”を生む要因になってはいるのだが、結局は学園内という狭い範囲内での出来事に終始。スペクタクル・アドベンチャーの趣もあった前作と比べ、スケール感を欠いてしまっていることも確かだろう。
が、そのあたりを差し引いても十分に満足できる続編に仕上がっている。監督は『カーズ』のストーリーボードアーティストなどを務めた人物で、こういう新しい才能がどんどん育ち、しっかり力を発揮する点に、ピクサーの底力を感じてしまう。
そうそう、同時上映の短編『ブルー・アンブレラ』も圧巻。ひょっとすると『モンスターズ・ユニバーシティ』本編より映画としての完成度は上かも知れない。この監督サシュカ・アンセルドも『カーズ2』などでは1スタッフに過ぎないのだけれど、今後は大きな仕事を任せられるんだろう。
●主なスタッフ
美術/リッキー・ニアヴァ『カールじいさんの空飛ぶ家』
音楽/ランディ・ニューマン『トイ・ストーリー』シリーズ
音響/マイケル・シルバース『カーズ2』
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