キッズ・オールライト
監督:リサ・チョロデンコ
出演:アネット・ベニング/ジュリアン・ムーア/マーク・ラファロ/ミア・ワシコウスカ/ジョシュ・ハッチャーソン/ヤヤ・ダコスタ/リサ・アイズナー/エディ・ハッセル/クナル・シャーマ/ゾーシャ・マメット/ホアキン・ガーリド/エリック・アイズナー/レベッカ・ローレンス/サーシャ・スピルバーグ/ジェームズ・マクドナルド
30点満点中17点=監3/話3/出4/芸4/技3
【ちょっと変わった家族の夏】
ニックとジュールスは女性同士の夫婦、同性愛のカップルだ。この“ふたりのママ”に育てられているのは、大学に合格したばかりのジョニと高校生のレイザー。ニックの娘ジョニとジュールスの息子レイザーは同じ精子提供者から生まれた身で、いわば本当の姉弟。ふたりは“父親”のポールと会って複雑な心境を抱く。やがてポールはふたりの子やジュールスの考えかたに影響を及ぼし始め、4人の家族にある変化が訪れることになる。
(2010年 アメリカ)
【家族とは何か】
突然“生物学上の父”が家族の中に割って入ってくる、というのは大事件であることは確かだし、その部分がコアにフィーチャーされている映画であるのも事実だけれど、意外にサラリと(ある意味ではリアルに)描かれている印象もある。イメージとしては「この家族に起こった(そして今後起こるであろう)いろいろなことの中の1つ」という位置づけ。
たぶん、そうなのだろう。実はポールって、4人の家族に周辺においては「ちょっと重要」くらいの人物。ポールの影響でジョニもレイザーも生きかたや愛についてこれまで以上に考えるようにはなるけれど、ひょっとしたらポールはレイザーのいう「彼のおかげで生まれたんだから感謝している」という言葉以上の存在ではないのかも知れない。ましてやニックやジュールスにとっては“厄介者”にほかならない。
そしてポールという個よりも、むしろポールの登場によって明らかになっていく4人それぞれの小さな価値観の違い、それを認めることの難しさ、認めてもらえることの嬉しさなどが、テーマ。
だから、いいたいこと、聞きたいことをみんながぶつけ合う。
ただし、解決はしない。完全に納得するわけでもない。でも、それでいいのだ。愛も家族も、そうやって日常や特別や「ちょっと重要」の中でたがいを理解したり想いを吐き出したり熱くなったり落ち着いたりしながら、ゆっくりと時間をかけて作り上げていくものなのだ。
そうした様子を、大仰に構えるところはなくジックリと捉えていく。
人物がフレームアウトして次のシーンへ移る、という手法を多用することで逆説的にその人の実在を意識させたり、手持ちカメラ中心&解像度の低い画質&生活観のあるロケーションや美術などで“ありのまま”感を創出する工夫はあるものの、全体としてはまったりと、ひたすら登場人物たちの芝居を丁寧に拾っていくことに気を配ったような作り。
お芝居映画としては、中心となる5人ともがナチュラルさと役者意識を感じさせて上々。とりわけ、ミドルエイジの苛立ちや優しさの中にインテリジェンスも漂わせるアネット・ベニングの可愛さと、こういう等身大の役柄のほうがグッと魅力的じゃんと思わせるミア・ワシコウスカがいい。
彼女らの演技と静かな物語描写によって、受精と性交と愛と子育てはイコールで結ばれるのか、そのうちの何かが別の何かに内包されているものなのか、それぞれがまったく別のところにあるものなのか、家族とは日常なのかそれとも特別な何かなのか……と、そんなことを考えさせる映画である。
●主なスタッフ
脚本は監督自身と『MADtv』や『僕たちのアナ・バナナ』のスチュアート・ブルムバーグ。撮影は『パッセンジャーズ』のイゴール・ジャデュー=リロ、編集は『エターナル・サンシャイン』に関わったジェフリー・M・ワーナー。プロダクションデザインは『デッド・サイレンス』のジュリー・バーゴフ、衣装は『イントゥ・ザ・ワイルド』のメアリー・クレア・ハンナン。音楽は『トゥルー・グリット』のカーター・バーウェル、音楽スーパーバイザーは『ハンティング・パーティ』のライザ・リチャードソン、サウンドチームは『サイドウェイ』のフランク・ゲータや『ベッドタイム・ストーリーズ』のエルモ・ウェーバー。
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