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2013/08/16

ワールド・ウォーZ

監督:マーク・フォースター
出演:ブラッド・ピット/ミレイユ・イーノス/ダニエラ・ケルテス/ジェームズ・バッジ・デール/ルディ・ボーケン/マシュー・フォックス/ファナ・モコエナ/イライアス・ゲーブル/ピーター・カパルディ/ピエフランチェスコ・ファビーノ/ルース・ネッガ/モーリッツ・ブライブトロイ/スターリング・ジェリンズ/アビゲイル・ハーグローヴ/ファブリツィオ・ザカリー・グイド/デヴィッド・モース

30点満点中19点=監4/話4/出3/芸4/技4

【人類は救われるのか】
 突如として人が狂暴化し、噛まれた者もまた感染したかのごとく人を襲う……。爆発的な感染とパニックは瞬く間に世界へと広がり、文明は滅亡の危機を迎えようとしていた。辛くも米軍空母に逃げ延びた元国連職員ジェリー・レインは、家族の安全と引き換えにある任務を請け負う。対抗策=ワクチン開発のため、ウイルス学者や特殊部隊とともに“事の発端”と思しき韓国へ潜入し感染源を突き止める仕事だ。答えを求める決死の旅が始まった。
(2013年 アメリカ/マルタ)

★ネタバレを含みます★

【ゾンビ映画の1つの到達点】
 詰め込まれたアイディアの多くは、過去のゾンビ映画でも採用されていたものだ。だが、それらを上手くアレンジ/進化/統合しつつ、新機軸も盛り込み、ゾンビ映画としての新しい方向性を示すチャレンジもあって、このジャンルの1つの到達点となった作品だといえる。

 まずはゾンビの挙動。走るゾンビは『ゾンビランド』などにも登場していたし、リミッターが壊れて超人的動きを見せるってのも『バイオハザード』っぽくて新味はないが、ビル・ゴールドバーグのスビアーをやっちゃったりダイブしたり、その描写の荒々しさとスピード感はゾクゾクもの。大群が押し寄せたり登ったり、さながらゴンズイ的な習性を見せる“ゾンビの激流”なんて、考えもしなかったゾンビ像だ。

 この迫力を生み出すため、各パートが大奮闘。
 俯瞰で捉えられた大きな舞台で、人々が逃げ惑い街や車は壊されゾンビがワラワラと動く、SFX/VFXがヤバい。ロケーションは、趣の異なる都市や室内を複数登場させ、ゾンビ映画でありがちな夜間メインではなく昼間のアクションも全開。カメラは縦横無尽に移動し、歴代最多クラスのカット数と感じられる小刻みな編集がスリルを加速させる。
 また「ゾンビは音に反応する」という設定を生かすため、あらかじめ観客の耳に刺激を与え注意を惹くべく、序盤で、レイン家の長女が2階から降りてくる音(通常ならここまで拾わないはず)をしっかりと右斜め後方の上から響かせる、という配慮が素敵だ。

 本作の立ち位置が「たくさんのゾンビ映画が作られた現実社会の延長線上で起こった事件を描く映画」である点も面白い。ゾンビがいかなるものかを登場人物たちがある程度知っているのだが、いまいちピンと来ていない、というさりげないリアリティ。コメディ/パロディやインディーズならともかく、これだけのスケールの“ゾンビ・ビギニング”映画としては異例の設定じゃないだろうか。

 そんな立ち位置に加え、ジェリーの職業が元国連の凄腕調査員だというエクスキューズを用意。軍も効率的に働く。
 もうさんざんやってきた「あいつらは何なんだ」には踏み込まない。ゾンビ映画で描くべき各恐怖ファクターのうち、「襲われる」と「自分もゾンビ化してしまう」を除けば、ほぼ無視。「愛する人がゾンビ化する」「誰が敵なのかわからない」「信頼関係の破綻」はバッサリ切り落とす。
 そうして一気に、いかに逃げ延びるか、どのようにして打開を図るか、そのためにジェリーは最前線に立たねばならない、道程での出来事……、というノンストップ・アクションを畳みかける。

 ゾンビに噛まれると12秒で発症する事実にジェリーが早々と気づく。けれど血が口に入っただけなら大丈夫。音に反応する。噛まれたところを切り落としちゃえばどうだ。絶体絶命の危機に対して静かにバリケードを作る乗客たち。
 このあたりの、過度な説明を省き、強引に突き進む圧倒的な“問答無用”感が極上だ。

 全人類的なゾンビ対応策まで示される。これまた異例。しかもいっぺんに3つもだ。「全国民の○○○○」というのは、ジョークだとしても見事なパラダイムシフト。続く「○を○○」策はゾンビ映画過去作で既出であり、本作では破綻するのだけれど、アクション&パニックの舞台として鮮やかに機能するし、安全だと信じられていたものが揺らぐ恐怖、というファクターを作品に加える役目も果たす(『進撃の巨人』の面白さにも、この恐怖に依る部分があるんじゃないだろうか)。
 そして対応策の本命である「○には○を」。この方法にジェリーが思い至る流れはやや描写不足・説明不足であり、たとえば「ゾンビに襲われても無事だった病院」といった場面があれば説得力も増したのだろうが、本作の雰囲気との合致性を考えれば予想外ながら上々の着地点だろう。

 結果、ベースはあくまでもゾンビ映画ながら、その仕上がりや味わいとしては『宇宙戦争』や『アウトブレイク』や『コンテイジョン』がまぶされていて、“有無をいわさぬド迫力ゾンビ感染パニック&サイエンティフィック・サスペンス”が完成。ステージクリア型アドベンチャーともいえる構造でゲーム世代にだって訴えかける。

 さらにいえば、このジャンルの定番である“局地的な対ゾンビ映画”ではなく“グローバルかつ文明的な対ゾンビ映画”としてまとめた点も大きなポイントだろう。
 プロフェッショナルあるいは技術と能力を持つ者たちが、それぞれのプライドや使命感で事にあたる。兵士たちの観察眼と対応力。“10番目の男”という危機管理メソッド。疫病学者たちの探究心と勇気。そしてジェリーの機転と明晰さに基づくサバイバル能力。嬉々として前線へ向かった若きウイルス学者はいともたやすく死んでしまうが、ジェリーは「彼は志願して来た」と庇ってみせる。

 作品の根底には、9・11以後の(そして3・11以後の)、「人が生きていくうえで必要となる、“やれること、やるべきことをやる”という価値観」が息づいているように感じる。
 局面局面には“個”があって、どうしても“個”による突破は求められ、それはたとえば圧政者の独断かも知れないし、父親の勇気ある行動かも知れない。けれど、みんなが同じ未来を見据えながら“やれること、やるべきことをやる”という価値観を粛々と実践することで、グローバルかつ文明的に人類救済の道を開くことができるのではないか。そんなことを感じさせる、新しいゾンビ映画だと思う。

 不満点は2つ。ややエピソードを盛り込み過ぎで足早な展開。そのスピード感は魅力なのだけれど、ジェリーの家族、在韓米軍、モサドの女兵士セガン、疫病センターなどはもっと掘り下げても面白かったろう。原作の分厚さを考えても、TVシリーズ向きだったかも知れない。
 もう1つはブラッド・ピット。いや、ブラピ自身は悪くないんだが、もっと地味で、でもインテリジェンスを感じさせるお父さん役者のほうがハマった気がする。ま、些細な不満である。

●ゾンビ関連映画/感染パニック映画/参考作
ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド
ゾンビ/ディレクターズカット完全版
ランド・オブ・ザ・デッド
ダイアリー・オブ・ザ・デッド
サバイバル・オブ・ザ・デッド
ドーン・オブ・ザ・デッド
ハウス・オブ・ザ・デッド
デイ・オブ・ザ・デッド
28日後...
28週後...
アンデッド
ゾンビーノ
ショーン・オブ・ザ・デッド
ゾンビランド
夜明けのゾンビ
SURVIVE STYLE 5+
『バイオハザード』シリーズ
アイ・アム・レジェンド
フェーズ6
アウトブレイク
クレイジーズ
コンテイジョン
宇宙戦争

●主なスタッフ
脚本/マシュー・マイケル・カーナハン『消されたヘッドライン』
脚本/ドリュー・ゴダード『クローバーフィールド』
脚本/デイモン・リンデロフ『カウボーイ&エイリアン』
撮影/ベン・セレシン『アンストッパブル』
撮影/ロバート・リチャードソン『ヒューゴの不思議な発明』
編集/ロジャー・バートン『ダークサイド・ムーン』
編集/マット・チェシー『007/慰めの報酬』
美術/ナイジェル・フェルプス『トランスフォーマー:リベンジ』
衣装/マイェス・C・ルベオ『アポカリプト』
メイク/カレン・コーエン『英国王のスピーチ』
音楽/マルコ・ベルトラミ『レポゼッション・メン』
音響/イーサン・ヴァンダー・リン『アルゴ』
音響/ナイジェル・ストーン『ヴェラ・ドレイク』
SFX/ニール・コーボルド『ゼロ・ダーク・サーティ』
VFX/マット・ジョンソン『ファースト・ジェネレーション』
VFX/アダム・バルテス『ナルニア国物語/第3章』
スタント/サイモン・クレイン『ツーリスト』

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