スター・トレック イントゥ・ダークネス
監督:J・J・エイブラムス
出演:クリス・パイン/ザカリー・クイント/ゾーイ・サルダナ/カール・アーバン/サイモン・ペッグ/ジョン・チョー/アントン・イェルチン/ブルース・グリーンウッド/アリス・イヴ/ノエル・クラーク/クリス・ヘムズワース/ジェニファー・モリソン/ピーター・ウェラー/ベネディクト・カンバーバッチ/レナード・ニモイ
30点満点中17点=監3/話2/出4/芸4/技4
【復讐と復讐がぶつかるとき】
副長スポックを救うために規則を破り、USSエンタープライズ艦長の任を解かれたジム・カーク。そんな折、ロンドンでUSS上層部を標的とするテロが発生、最後までカークを庇い続けたパイク提督が命を落とす。犯人ジョン・ハリソン暗殺の命をマーカス提督から受けたカークは、新型魚雷を積んだエンタープライズ号に乗り、ハリソンが潜伏するクリンゴン星系を目指す。だが事件の裏には、ハリソンを巡る恐るべき陰謀が潜んでいた。
(2013年 アメリカ)
【見た目は上々だが、突っ込んだ部分に不満】
スコッティが艦を降りたため機関室を任されることになったチェコフが、あまりに役立たず(ここでのアントン・イェルチンって、日本でいえば柳沢慎吾とか濱田岳みたいな役割だな)である。トラブルを起こしたエンジンの周囲でワーワーとわめくだけ。
この描写に、本作のマズさが凝縮されている。
上映時間が短く感じるほどスピーディ、序盤から終盤までほどよく見せ場を散らしてあり、飽きさせない展開を持続させていて、アクション・アドベンチャーとしての仕上がりはマズマズといえるのだろう。ワープや転送の美麗さ、エンタープライズ号から敵戦艦への射出シークエンスのスピード感、地上に落ちてくる巨大戦艦の迫力と絶望感などVFX表現も上質だ。
とりわけ感心したのは、背景込みで画面・場面の完成度を高めようとしているところ。ハリソンとスポックの追っかけっこなんか、もっと寄れば安くすむはずなのに、俯瞰で捉えて街の全景(もちろんCGだ)まで見せようとする。重力を失った艦内で苦労するカークとスコッティの背後には、ガラガラと崩れる設備を省略することなく描き込む。こういう“ついケチってしまいがちなところ”への注力が、作品の格を上げるのだ。
どこに力を入れて、どうまとめれば映画を面白くできるのか、よぉっくわきまえている作り。J・Jは、その経歴が示す通り、監督というよりプロデューサーとしての資質のほうが大きい人物だと感じる。
あと『エピソードII』とか『ポセイドン・アドベンチャー』を意識しているような展開・シーンも微笑ましい。音響はちょっとやり過ぎにも思えるけれど、ド派手なスペース・オペラならこれくらいがちょうどいいのかも。
役者では、ゲストキャラであるハリソン=ベネディクト・カンバーバッチが、カッコイイだけでなくしっかりと『新生スター・トレック』の世界観にマッチしていて、本作を支えるくらいの存在感を示している。
と、構成パーツにいい部分はあるものの、やっぱりマズさの表出が気になってしまう。ストーリーの大まかな流れ・まとまりはそう悪くないのだけれど、そこから一歩踏み込んだレベルでの説得力に欠けるのだ。
説明的な部分とアクションで見せる部分をキッパリと分けてリズムを作り出したまではいい。だが、説明部分を「これこれこうでした」に頼り過ぎている点が、まずは不満。エンジンの復旧に手間取るチェコフをただアタフタさせるだけでどれくらい深刻なのかを観客に示さないなど「この人がこういっているんだから、みんなそれで納得してよね」という、乱暴な感覚が見て取れる。
娘を助けてもらっただけで自爆テロを起こす人物、キャロルとマッコイが魚雷を開けるくだり、ハリソンを殺すのではなく捉えるだけにしようと考えるカーク、気絶したはずのハリソンがいきなり目を覚ます展開……なども、なぜそういうことが起こったのか、なぜそういう行動を取ったのか、ディテール描写が少々乱暴、説明責任を果たしていない感じ。
規律を無視してスポックを助けるカーク、仲間への強い同胞意識から復讐に走るハリソン、カークが倒れたことで怒りに我を忘れるスポック……といった、今回の物語のキーとなる“各人物の、仲間に対する心理”の描写も、シナリオと演出の両面で薄すぎるのではないか。
たとえばカークのライバル(またはマーカスの設定)として「部下をあくまでも駒として扱う人物」を配すれば、そんな味方よりも敵であるハリソンに近いカークの価値観が露わになり、だからこそ今回の事件やハリソンやスポックに対してカークが抱く心情にも力強さが生まれ、物語に説得力と深みとを与えられたのではないか、と思う。
レギュラー・クルーを除くと、主要な役割を果たす人物はハリソンとマーカス提督とキャロルだけにとどまり、全宇宙的・全USS的な事件の割にスケールが小さいように感じられるのもいただけない。
いい部分もあるし、十分に面白い映画となっているだけに、看過できないマズい部分が強く不満として残ってしまう仕上がりといえる。
●主要スタッフは、ほぼすべて前作『スター・トレック』と共通。
脚本/ロベルト・オーチー『カウボーイ&エイリアン』
脚本/アレックス・カーツマン『トランスフォーマー/リベンジ』
脚本/デイモン・リンデロフ『ワールド・ウォーZ』
撮影/ダニエル・ミンデル『M:i:III』
編集/メリアン・ブランドン『SUPER 8/スーパーエイト』
編集/メアリー・ジョー・マーキー『SUPER 8/スーパーエイト』
美術/スコット・チャンブリス『ソルト』
衣装/マイケル・カプラン『ブレードランナー』
音楽/マイケル・ジアッキノ『カールじいさんの空飛ぶ家』
音響/ベン・バート『ウォーリー』
音響/マシュー・ウッド『クローン・ウォーズ』
SFX/バート・ダルトン『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
VFX/ベン・グロスマン『ヒューゴの不思議な発明』
VFX/ケヴィン・ベイリー『ダークサイド・ムーン』
スタント/ジョン・ストーンハム・Jr『ライフ・オブ・パイ』
格闘/マーカス・ヤン『ダークナイト ライジング』
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